たかせ
2026-02-14 00:41:32
3656文字
Public ロウリン小話
 

バレンタイン2026


リンウェルの🐈ちゃん衣装かわいいですよね……右手を描きたくてミトンははずしちゃいましたがミトンもかわいい!
ロウ君のダンス衣装もカッコよくて好きです!


絵を描いていてふと思いついたので突貫ですが小話を添えました。もしよろしければ下へ。
リンウェルがカフェで働いた帰り道 以外の設定はふわっとしてます。名もなき男が出てます。











「ねえねえ、君」

カフェの手伝いの帰り道。小さな箱を抱えて若干急ぎ足で歩いていたリンウェルは、背後から聞こえてきた声にふと足を止めた。
(ん? 今何か聞こえた?)
きょろきょろとあたりを見回すと、リンウェルの位置から少し後ろ——路地の壁際に立つ一人の男がにこやかに手を振っている。
……え?私?)
思わず自分を指さして小首を傾げたリンウェルに、男は頷きながらすたすたと近づいてきた。
「その耳と尻尾……君、さっき向こうのカフェで働いてた子だよね」
「え……あ、はあ……
背の高さはアルフェンくらいだろうか。見覚えのない男を見上げてリンウェルは曖昧に首を傾げる。
「さっきお店にお邪魔したんだけど……覚えてないかな」
「あ……えっと、すみません。仕事に必死だったから」
本気で見覚えが無かったのでリンウェルは素直にそう言って小さく頭を下げた。男はいいよいいよ、と慌てて両手を振って苦笑を浮かべる。
「いやいや、気にしないでよ。忙しそうだったのはわかってるから」
「ありがとうございます。……それで、その、何か御用ですか?」
——できれば早く帰りたいんだけどな)
とこぼれそうになる内心を何とかごまかして、リンウェルは営業スマイルを浮かべて男に尋ねた。小さな箱を無意識の内に胸に抱え込む。
男は少し身をかがめて、そんなリンウェルの顔を覗き込んできた。

「いや、用事って言うか……お店で見かけた時から君かわいいなと思っててさ。良かったらこの後お茶でもしない?」
……え?!」

しっかり数秒固まってから、リンウェルは思わず大きな声を上げた。
(え? お茶? な、何で??)
半ば混乱したまま、まじまじと目の前の男を見つめ返す。大きな目をぱちぱちと瞬くリンウェルに対して、男はずっとにこやかな笑顔のままだ。
その不自然さにも気づかないまま、リンウェルはかつて経験したことのない状況に必死に頭を働かせ——そしてふと思い当たった。
(これって……もしかして、ナンパっていうやつ?)
街中でシオンが知らない男の人に声を掛けられることは何度かあった。決まって男性陣と別行動の時だ。その時も、確か一緒にどこそこへ行こう、みたいな、そんな話をされてたような気がする。
(あの時、シオンはどうしてたっけ?)
男と向かい合わせになったまま、リンウェルは懸命に記憶をたどる。
「あはは。そんなにびっくりしなくても。何か甘いものでも奢るよ。どう?」
『甘いもの』——仲間とだったら一も二もなく飛びつくリンウェルの大好きな言葉だったが、今はあっさりと右耳から左耳へと抜けていく。
リンウェルは男の言葉を聞き流しながら仲間の姿を思い浮かべた。
(確かシオンは——ええと、そう、冷たく一瞥して“結構よ”って追い払ってた)
(キサラが一緒に居たときは、颯爽と前に出てかばってくれたっけ)
——でも)
私にはそんなことできそうもないよ。
シオンのような落ち着きも、キサラのような気迫も、今のリンウェルは持ち合わせていない。
唯一の武器である星霊術をまさか一般人に使うわけにもいかないし、優秀なボディガードでもあるフルルは生憎留守番中だ。

リンウェルはばくばくと嫌な音を立てる心臓を押さえつけるようにして箱を抱きしめ、一歩後ろに下がった。
「えっと、その……今日は仕事で疲れてるから。ごめんなさい」
最終的にリンウェルがとったのは正直に理由をつけて断ることだった。ぺこりと頭を下げてその場から立ち去ろうと踵を返す。
だが、場慣れしているのか、相手の方が動きが速かった。
「ちょっと待ってよ」
言葉と同時に腕を掴まれる。びっくりして振り返った先で、男は先ほどと変わらない笑みを浮かべていた。
「ちょっとくらいいいじゃん」
その強引な言葉に、表情に、ぶわりと鳥肌が立って、リンウェルはぶんぶんと大きく頭を横に振った。ついでに腕を引いてみたが、やはりそこは力の差があるのか男の手はびくともしない。
リンウェルは内心泣きたくなりながらも、相手を見返してきっぱりと言い放った。
「離して」
「そう言わずにさ」
「行かないってば!」
「少しだけだから」
(ああもう、何でこんなにしつこいの!)
触れてきた時点で正当防衛だよね!?と心の中で叫べば、何故か心の中のテュオハリムが大きく頷いてくれたので、本当にお見舞いしてしまおうかと考える。

だが星霊力を集め始める前に、突然ぱっと男の手が離れた。不意に自由になったリンウェルはバランスを崩したが、なんとかその場に踏みとどまる。
「おい」
次いで聞こえてきたのは地を這うような低い声。
はっとして顔を上げれば、目の前に大きな背中があった。
「嫌がってんのに勝手に触ってんじゃねえよ」
ざわりと空気が揺れるような怒気をはらんだ声に、リンウェルまでぴりりと緊張が走る。きっと対峙している男はその比ではないだろう。ちらりと目の前の背中越しに見れば、男は腕をねじり上げられたまま真っ青な顔をしていた。
リンウェルを男の視界から隠すように立った彼は、男の腕をぞんざいに放り出すと、音もなくさらに一歩男に詰め寄る。
「二度と近寄るな」
その姿に男はひぃっと情けない声を上げて勢いよく走り去っていった。先ほどまでの余裕が滑稽に思えるほどの逃げっぷりだ。
リンウェルはその姿を呆然と見送って——それからすぐ目の前の背中を見上げた。
いつもと格好が違っていたって、一目でわかる。夕焼けに照らされた赤茶色の髪がひと房風にゆれた。
——ごめん」
「何でお前が謝るんだよ」
振り返ったロウは怒ったような、ほっとしたような、何とも言い難い顔をしていた。



日が落ちて徐々に夕闇が広がり始めた路地を、二人並んで歩く。
「本当に何ともないか?」
「大丈夫だってば」
ちらりと視線をよこしては心配そうに尋ねてくるロウに、リンウェルは何度目かになる同じ答えを返した。
「ロウが助けてくれたんだから、本当に大丈夫なの!」
「けど……あのヤロウ無理やり連れてこうとしやがってよ」
思い出したのかしかめっ面になるロウに、「もうこの話はおしまい!」と話を切ってリンウェルはその顔を覗き込んだ。
「でも、ロウが来てくれてすごくほっとした。——ありがとね」
……おう」
「次からは私ももっと気を付けるから」
「いざとなったら星霊術でも何でもぶっ放せよな」
……さすがにそれはやらないよ」
「俺はやられてますけど!?」
思わず反応したロウにリンウェルはあははと笑う。ったく、とぼやくロウの顔がようやくいつもの様子に戻ってほっとする。
「つーか、やっぱ迎えに行きゃよかった。明日も居残りすんのか?」
再び前を向いて歩き出したロウの何気ない言葉に、リンウェルは「え」と呟いて、それからはたと思い出した。思わず足を止めて視線を落とす。
(そうだった)
視線の先にはずっと抱えたままだったリボンをかけられた小さな箱がひとつ。
カフェの手伝いが終わった後、厨房を借りて教えてもらったのはこのためだったのに。

薄暗い路地に二人きり。
リンウェルはもう一度箱を抱え直して、小さく深呼吸した。
「居残りすんならその時間に合わせっからさ——
その間に気づかず歩いて行ってしまったロウの背中を小走りで追いかけて、彼の上着の裾を引いた。
「あ、あのさ、これ」
そしてそう言いながら左腕をずいと前へ押し出す。正確には、その手に持った小さな箱を。立ち止まったロウはきょとんとした顔でその箱を見下ろした。
「何だ?これ」
「きょ、今日は、その、お菓子と一緒に気持ちを伝える日だって聞いて」
……おう?」
「だから、その、今日はこれを作るために残ってただけで……明日は、居残りはしない予定」
「わかった」
視線を合わせないまま話すリンウェルに、不思議そうに頷くロウ。ロウの視線はリンウェルと小さな箱を行ったり来たりする。
そのまましばらく沈黙が落ちて、リンウェルの伸ばした腕がふるふると震えた。
……要らないの?」
「え!?俺に!?」
「そう言ってるでしょ!」
言ったっけ?
と思いはしたが、真っ赤に染まった顔でむくれているリンウェルを前にさすがに今口に出すべきではないと判断して、ロウは大人しく口を閉ざした。
代わりにおずおずと手をのばして、震える箱を受け取る。無事ロウの手に渡った箱を見てほっとしたリンウェルは、ようやく肩に入っていた力を抜いた。
「味の保証はないからね」
「え?あ、おう。……いや、でもきっとうまいだろ。サンキュ」
……どういたしまして」

何の菓子作ったんだ?
開けてみてのお楽しみかな。
そんな会話を交わしながら、また二人でのんびりと歩く。


伝えられるはずだった本当の気持ちが何だったのか――それに気づくのは、まだ少し先の話。




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ピンチの時に助けてくれるのは何度でもやってほしいです。