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ゆうり
2026-02-13 23:34:07
4204文字
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ただ、それが見たくて。
超上級者向け転生現パロヘクジェラとヘク終同時存在VD前ワンドロ話が増量したver。
メインはヘク終でおまけでジェラ様いる程度。前にやった設定のやつです。自分だけが楽しい。
あの人は見た目によらず甘い物が好きだ。それは数千年前の前世の時から。
見た目と立場で何となく食べにくくなったと苦い顔をしていたあの人の為にある時は城の厨房に頼んで、ある時は城下の露店を探して好みに合いそうな物を手に入れてはこそりと差し入れていた事もある。
手に入れた物を差し出すと普段はあまり変化のない瞳が丸くなりそのまま蕩けるような笑みを浮かべてくれるのを見たくて必死になっていたような気もする。
だから今世でも同じようにあの人が喜んで貰いたくて。今の季節はイベントに合わせて様々なチョコレートが出回るからとそれを探しに大きな百貨店の食品売り場までわざわざ足を運んでみたものの少し、いや相当準備が足らなかったと後悔した。
どこの店にも女性達の大行列、男性もチラホラと見かけはするが自分の様な粗雑な風貌の男が飛び込むにはなかなかに勇気がいる状況だ。
だが折角来たからにはあの人を喜ばせたい、と二の足を踏んでいるとポンと軽く肩を叩かれる。
ふと後ろを振り向くと何度も肖像画の中で見た特徴的な跳ねた赤毛を持つ人。
「こんな所で会うと思わなかった、こんにちは小さなヘクター」
物心ついた時から自分の事をそう呼ぶのは初代伝承皇帝の生まれ変わりのジェラールだ。
混み合った店内から少し離れてジェラールに今の状況を話すとそれなら一緒に探そうという事になった。
「私もヘクターに渡そうと思って毎年買いに来ているんだ。私はここに混じってもそんなに目立たないしね」
はは、とジェラールは笑うが昔はその見た目にコンプレックスがあったと聞いた事がある。
ただ皇帝として就任した後はこの見た目が逆に使えた事もあったし、と飄々と語るジェラールを見て難しい顔をする現代においては兄に当たるヘクターの事は忘れられない。
「あの子は結構甘い物が好きだものね、誕生日にはホールケーキを丸ごと食べたいなんて事も言ってた」
「なんて言うか豪胆なんですよねあの人
…
」
そんな所に惹かれているんですけど、なんて事はあえて言わないし言えないが隣のジェラールは含み笑いをしているようにも見えて多分ばれているのだろう。
「あの子に喜んでもらえる物が見つかるといいね」
人混みの中で目の縁に入ったその商品に目を引かれてヘクターは立ち止まった。
シンプルなチョコレートの上に真っ白なチョコレートが薄くかけられ、更にキラキラと輝く砂糖の様なものが乗っている。
「あの人みたいだな
…
」
「ああ、確かにそうかも」
ショーケースとヘクターの間にひょいとジェラールの頭が割り込んでくる。
「わ!」
「あ、ごめん」
ジェラールの手には少し大きめの紙袋。あれ良いかもとヘクターと別行動をしていたのでお目当ての物だろうか。
「もう見つかったんですか?」
「私は何度か来てるからね。沢山入って2人で楽しめるのが良いかなって思って」
そういえば兄は割と甘い物はいける口なので何となく昔のイメージと違ったなと思った事がある。
お忍びでジェラール様に散々連れ回されて毒見係もやったしな、と語る兄は楽しそうだったので2人で楽しむという事が兄とジェラールにとっては重要なのかもしれない。
「小さいヘクターはどういう目的であの子にあげたいって思うの?」
ジェラールが目を向けている気になったそれを改めて一緒に見つめてみる。
「あの人が俺が渡した物を見て笑ってくれる事、ですかね」
時には奇抜な味だったこともある。もちろんヘクターも毒見代わりに一口頂いていた事があるので。
それでもその味について語り合ったあの人との時間はかけがえのないものだ。
過酷な決戦に挑むにあたってそれが少しでも皇帝陛下の英気を養うものになれば、という思いもあったが根本的な所は自分が切望する想いだ。
これを渡した時にあの人が零してくれるであろう笑顔を思い浮かべつつヘクターは店員に声をかけた。
「楽しかったね。お互い欲しかったものも買えたし良かった」
「ジェラール様のおかげでいいのが買えました。俺1人だったらどうなった事か
…
」
慣れないことをして疲れたのと礼を込めてジェラールを昼食に誘えば了承を了承を得られたので適当なカフェに入りやっと一息着いた所だ。
ヘクター自身は特別好む物ではないし、イベント的に男が入るのも多様性云々言われる今でもハードルが高い。
「君一人でも大丈夫だったと思うよ。でも君がこうして素直な達成感を得られた上での物ならあの子はもっと喜ぶかな」
「
………
」
「なんで黙り込むの」
「あの人がジェラール様はおじいちゃんポジションって言ってた事あってああなるほどと思い」
「それは私も何故か孫に見えてるから否定はしないよ」
歴々の皇帝方のその辺の話を今こうやってお伺いできるのは長年の自分達の成果があった上での僥倖なのだろう。
これを渡したら自分の見たかった物が見られるといい、そう思いながらヘクターはやっとの事で手に入れた小さな紙袋の中身を軽く撫でた。
今年の2月14日は土曜日という事もあって現在カフェで働いている恋人はその当日は大忙しのようだった。街にはチョコレートで溢れているのに自分はそれを提供する側だから食べられる訳じゃないし悔しいなんて愚痴がSNSでちょくちょく届いていた事もあって、それなら自分がと思い立って百貨店の菓子売り場に向かうという慣れない事をしたのだ。元々初代伝承皇帝に対しては尊敬の念を抱いていたが、こんなに身近で切実な悩みにまで応えていただいてしまい頭が上がらない。
ラストまでは回避できたけど上がりは21時頃になりそうだという事だったので、ヘクターはそれを待つ事にした。出来る事なら今日1日を2人で楽しみたかったような気もするが彼が楽しんで仕事をしている事が幸せだと感じる自分もいるのだ。前世において歴代の皇帝達の記憶と能力を受け継いだが故の不自由さは誰よりも近くで見ていたのだから。
何度か迎えに来ていた事もあり店の勝手口が見える位置で待っていると、勝手口の扉が開き雪のような輝きの銀色が見えた。
「ヘクター!すまない、待たせたな!」
ヘクターの為に帰り支度を焦ったのか首に巻いた青色のグラデーションのかかったマフラーは適当に止められていて首元が露になってしまっている。これでは防寒具としての仕事はしていないだろう。
「オレの為に急いでくれるのは嬉しいんですけど風邪引いたら駄目でしょう、ちょっとちゃんと立ってもらえます?」
「あ、ああ」
直立して立つとこの人は相変わらず大きい。180センチは軽く超えているのでヘクターが向かい合うと目線は完全に上を向く事になる。ブーツでの嵩増しは別に対抗という訳では無い。
1度雑に巻かれたマフラーを取り外し豊かな銀髪を軽く腕で抑えつつマフラーを首に巻いていく。肩口辺りで固定させれば落ちてこないだろうとそこに集中していれば突然抱き込まれて目の前の胸の中にぼすんと顔が当たる。
「こんなに冷えてる、急いで帰ろうか」
するりと触れてきた大きな暖かい手のひらとヘクターだけに向けてくれるであろう笑顔を見られただけでも十分に暖まったような気がした。
お互いに実家を出て一人暮らしはしようと思っていた。だが流石に多少年の差のある男2人で同棲となるとヘクターの方が二の足を踏んでしまい結局とあるアパートの1階の隣同士を借りるようになった。
ヘクターの兄からはそんな中途半端な事をする必要あるのか?と言われたが年上の恋人を持つ複雑さは兄には分からないだろう。なんなら兄と自分は名前も見た目も同じだろうが別人格の別の人間で考え方も違うのだ。良い影響も悪い影響も受けている自覚はしっかりとあるが。
自宅の扉の前まで来た所で隣人であるその人がふと振り向いてくる。
「今日はそちらに行った方がいいか?」
「渡したい物は今持ってるんでオレがそっち行きます。疲れてるんだから自分の部屋のが良いでしょ?」
そこまでじゃないよと苦笑いするその人が自宅の鍵を開け扉を押した所でヘクター自身も滑り込むように部屋に入って靴もそのままに背中からぎゅうと抱き着く。
「どうした急に?」
「さっき、ちょっと触れてくれた時から我慢してたもんで」
「でもこれだとお前に触れにくいし電気も付けてないから何も見えないじゃないか。少しは疲れてるしヘクターが用意してくれた物も見たいと思うんだが
…
」
言われている事が正論でぐうの音も出ない。ただ今日この日にやっと会えたので勢いづいてしまったヘクターが悪い。言われてすぐに力を抜くとよしよしとばかりに頭を撫でられる。灯りがまだ付いていなくて良かったと思う、自分がどんなに情けない顔をしているか自分でも見たくない。
急き込みながら靴を脱ぎ落とし、室内に入り勝手知ったる部屋の明かりのスイッチを手探りで探して着ける。
「コーヒーでも入れようか?」
マフラーと上着を脱ぎつつその人が尋ねてくるがせっかくなら自分が入れてやりたい。
「オレがやるんでそこ座っててください。あとコレ」
「ん?」
肩に掛けていた鞄の中から紙袋ごと取り出してずっと渡そうとしていた人の前にヘクターはそれを差し出した。先日悩みに悩み抜いて手助けまで貰った上で何とか手に入れた物。
現代のイベントの趣旨としては女性から男性に、なのだろうが自分達の関係においてはこれでいいのだと。
ほんの少しのようで長く感じる間を置いてから白い両手が紙袋を受け取ってくれる。
「なんだか思い出すな。昔もこうやって色々探し出しては贈ってくれた」
何となく渡した時の反応が怖くて下を向いていた顔をヘクターが上げるとそこには自分が見たいと切望していた笑顔があった。
「ありがとうヘクター」
人工的な光を銀色が隠したと思った瞬間、ヘクターの唇に冷たく柔らかいものが触れるがすぐに離れる。
「
……
冷たい」
「そりゃあの寒い中いたから仕方ないでしょうが。あとで暖まったらもう1回してくれます?」
全然足らないんで?とその人の銀の髪をかき上げて耳朶に唇をお返しする。
「
……
アンタも冷えてますね」
「もう1回の前に暖かいもの飲みながらこれをいただこうか」
嬉しい、楽しみだ、と甘やかな笑顔で笑うその人。
遠いあの日あの時と何も変わらない。懐かしい光景がそこにあった。
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