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おから
2026-02-13 19:52:20
3370文字
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【新刊sapmle】invitation
3月刷り上がり、6月28日🐇🐢オンリーで頒布予定のとみとが本サンプルです。🐇と自傷癖を得てしまった🐢の夏の日々です。ハピエン。
兎耳山の友達は涼しい場所をよく知っている。
だから、兎耳山が姿を消すようになったら、それは夏の兆しの始まりだ。
「ちょーじぃ」
公園じゃなかったかなぁ。
そんな筈はないので、十亀は公園の殆ど裏手にあるベンチに向かった。公園左手から見て一番涼しそうなのはそこだけだからだ。
「みぃつけた」
十亀は案の定ベンチで眠っている兎耳山を見つけ、少しだけ笑みを浮かべた。
丁度兎耳山が眠るベンチは、隣の木の日陰になっていて涼しい。
猫は涼しい場所を探すのが得意というが、兎耳山の友達の特技が移ったかのように、夏が近づくと兎耳山が姿を消す事が風物詩になっている。
兎耳山はスカジャンを腰に巻き、すやすやと寝入っている。規則正しい呼吸音は十亀には可愛らしくあり、安心をさせてくれる。
「よっこいしょ」
十亀は兎耳山の頭を自分の膝に置き、ベンチに座った。
涼しい。
オリなんて目じゃない位涼しくて心地いい。このオリの裏手にある公園は兎耳山のお気に入りの場所で、オリにいない時はここにいる事が多い。
兎耳山が消えたら公園へ行け、なんて言われる位には兎耳山の縄張りになっている。ある時期を除けば。
にゃおん。
「ごめんねぇ、邪魔したぁ?」
ベンチの下から顔を覗かせたのは一匹の猫。ではなくて、二匹の猫。
どうやらベンチの下にいたようで、恐らく兎耳山の友達だろう。
真っ白な白猫と真っ黒な黒猫。
わかりやすい程に真逆の猫だ。
「ちょーじが劇場から消えたら、夏だねぇ」
十亀は持ってきた瓶ラムネに口をつけた。
兎耳山は夏場のオリの、特に劇場に寄り付かない。
扇風機が導入されるようになったら寄り付くが、みんなの体感温度的にまだ扇風機は大丈夫と判断していたら登場しないので、熱がりの兎耳山は劇場に寄り付かなくなる。
そのせいもあり、扇風機登場基準が兎耳山が劇場に寄り付かなくなる事なので、昨日から扇風機が導入された。
それでも劇場に近寄らないという事はまだまだ劇場が熱いという事だろう。
これにはメンバーも困ったものだが、悪い話ばかりではない。
最近、良い事を発見した。
電気が生きているオリでは扇風機が唯一の冷風機になっていたが、とある一角のクーラーが生きている事が分かった。皆、歓喜の声をあげた。
良くも悪くも広い部屋だったので、有馬も鹿沼も劇場ではなくその部屋に一昨日から居座っている。
けれども、兎耳山は戻らない。
クーラーが効いた部屋が出来たというのに、兎耳山は劇場やそのクーラーのついた部屋にも帰ってこない。
その理由を知っているのは、古参と十亀だけになる。他のメンバーは知らないし、知らされることもないだろう。
「ちょーじ」
「
…………
」
「オレ、帰ってきたよぉ」
十亀は兎耳山の柔らかい髪を撫でた。三泊四日の祖父との箱根旅行から帰ってきてから、オリに来るのは今日が最初だった。
「ちょーじ」
「
……………
」
どんなに涼しい部屋があっても、そこに十亀がいないんじゃ意味が無い。
一日二日位ならいいが、五日はダメ。
鰐島から聞いた兎耳山の台詞はそれらしい。
扇風機が効いていても、クーラーがあってもだめ。だったら、もっと涼しくて友達がいる公園にいる所の方がずっといい。
そんな啖呵を切ってオリから出ていったことをチャットアプリでその事を知らされ、十亀は言い知れない愛しさと恥ずかしさに襲われた。当然だろう、自分がいなきゃだめ、なんて。
とはいえ、だ。
五日振りに帰ってきたオリは灼熱だった。だが、クーラーがさらにもう一区画使える事が分かり、快適にはなっていたらしい。
これくらい涼しければ、兎耳山も満足
……
するだろうか。
瓶ラムネを飲みながら十亀はぼんやり思う。膝に乗せた兎耳山の頭は動こうとしない。
兎耳山はオリで一番涼しい場所を知っている。
それが暗室だという事を、知っているのも兎耳山と、十亀だけ。
あの部屋は確かに涼しくて、暗くて、『最適』だ。
「ちょーじ、起きないとおいてっちゃうよー」
こつん、と十亀は瓶ラムネの瓶を兎耳山の頭にくっつけた。
「
……
亀ちゃんも寝ていけばいいのに」
むくりと起き出した兎耳山は十亀をじとっと見つめた。
折角気持ちよく寝ていたのに、十亀の気配で起きてしまった兎耳山はご機嫌斜めだ。
それを知ってか知らずか、十亀は飄々として言った。
「鰐島が今度の海旅行どうするかって話たがってたから、呼ばないとねぇ」
「海旅行!」
「みんな楽しみにしてるしぃ、頭取がいないと話にならないでしょぉ」
「オレ、帰える!」
「じゃあ、行こうかぁ」
そう言って、兎耳山と十亀は公園を後にする、筈だった。
「あ」
「なぁに、ちょーじ」
「暗室、涼しくなってるかなぁ」
「
…………
そう、なんじゃない?」
十亀はぎこちなくそう言った。
ここからオリまで歩いて三分位しかない。
もしかして。
「ねぇ、亀ちゃんはオリとオレの家どっちがいい?」
「
……
ちょーじの家、誰かいるんじゃなかったっけぇ」
「いるけど?」
「
………
」
そんな選択を迫られたら困る。
こんなの、答えは一つしかないじゃないか。
「
………
オリ」
「じゃあ、決まり」
兎耳山は、十亀にまるで天使のような笑みを浮かべると、十亀の手に自分の指を絡め、オリまで歩き出した。
「そういえば最近、亀ちゃんに言い寄ってる奴いるよね」
「あれは
――
」
あれはむしろ兎耳山の方じゃないだろうか。
こと兎耳山の事になったら誰よりも過敏になる十亀が言うのだから間違っていない筈だ。
あいつは、兎耳山にしか興味がない。
以前から何となく気にしていたが、十亀に対して傾倒しているのではなく、兎耳山に傾倒している悪い意味で。
それが恋愛感情から来るものなのか羨望なのか嫉妬なのか分からない。
けれども、近い未来に十亀のストレス源になる事は確定だろう。
こればかりは性分なので、許してほしいのだが、鰐島が何と言うか
……
鰐島よりも有馬と鹿沼か。
いや、兎耳山か。
「あ、暗室ついた」
「え」
つい考え事をしていたら、もうオリの暗室前に来ていた。
中央扉を抜けた記憶がないのだが、裏口から入った?裏口はずっとまえから施錠されていて誰も使えなかった筈
………
。
「あっちの階段の隣の壁が壊れてるから、そこから入ったらすぐ暗室なんだぁ」
「そうなんだぁ」
初めて知った。
いやいやいや、そういう事ではなくて。
「ちょーじ、ほんとにするの?」
「しないの?」
兎耳山は既に暗室の扉を明け、半身を中へ入れている。
躊躇しているのは十亀だけで、もうそういう事が確定している、そんな感じだった。
「
……
今日は、準備してない、けど」
「大丈夫!準備は万端だから!」
「うぅ
……
」
十亀はどうにでもなれ、と暗室に入った。
そこはクーラーなんて目じゃない位涼しくて、暗室に置かれたソファでひと眠りしたい位快適で心地よかった。
ここで瓶ラムネを飲んだら、美味しいだろうなぁと十亀は一年前を思い出し、苦笑いをした。
「はい、亀ちゃんのクッション」
「へ?」
クッション?
「これがオレの。色違いで可愛いでしょ?」
確かに緑色とちょっと霞んだ黄色が可愛らしい丸型のクッションは大きさも丁度いいしふかふかだ。
「これでお昼寝!」
「お、昼寝?」
「そうだけど?」
心底不思議そう顔をする兎耳山を見て、十亀はカッと頬が熱くなってしまった。なんて不埒な事を!兎耳山がそればっかりな訳が無いのに!
「亀ちゃん?」
「なん、でもない
……
」
「
………
」
兎耳山は十亀の顔を覗き込みながら、事もなげに言った。
「えっちは亀ちゃんの家でするんでしょ?」
「へ?」
「だって、亀ちゃん家の方が涼しいし」
「ななななんで」
「だって、いつも熱くてのびちゃうのは亀ちゃんでしょ?」
「
――――
っ!!」
「亀ちゃんは可愛いね」
まずはお昼寝ね。
兎耳山は十亀の頬に口づけるとソファへ寝転んだ。
早くおいでと手招きしながら。
夏の兆しの一幕だった。
そして十亀は、白い包帯を巻いた右手を兎耳山に差し出した。
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