Petit Choco Parler

後輩先輩シリーズのシルゴ(年下シルバー✕年上ゴールド)のバレンタインの短いお話。


【簡単な設定】
後輩シルバーはゴールド先輩に絶賛片思い中。
二人とも同じ部に所属しており、後輩シルバーは部のエース、先輩ゴールドはマネージャー。
シルバーはゴールドへのアプローチを始めてからは、ゴールドを先輩と呼び、基本的に敬語で話すようになった。素直じゃないけれど先輩が大好き。
ゴールド側はシルバーに今のところ恋愛感情はないけれど、年上だからか、pksp本編よりも後輩シルバーに甘い。






「分かった。明日チョコレートはくれてやる。何がいいのかさっぱり分かんねえけどちゃんと準備したから、手作りもしてやる。ブラウニーなら腹持ちもいいだろ、手軽に作れるし」
あとで作り方を調べてみたら、ブラウニーは結構面倒な印象だった。
先輩はいつも「料理はそんなに苦じゃない」と言っているけれど、はいそうですかと鵜呑みにしすぎるのはきっと良くないんだと思う。
調子に乗らせない程度に、けれど最低限の感謝は述べておかなくては。

「その代わり、おめえも寄越せ。手作りのチョコレート」
「は?」
「バレンタインコーナーで売ってる、子供ガキでも出来るキットのやつでいいからよ」
「え? は?」
「約束だからな」
オレは一つも了承の言葉を放ってはいないのに、先輩はそう言って部室をあとにした。







先輩からのバレンタインチョコがどうしても欲しかったオレは、一月末からストレートに「ください」とアピールを続けていた。
遠回しな言い方が先輩に全く通じないのは、思いを伝え続けているのに一向に本気にしてくれない日々の積み重ねで痛いほどに分かっている。
だからプライドなんてかなぐり捨てて、他の部員達の目も気にせず(むしろ応援された。ライバルがいなくて嬉しい)、先輩に「うるせえさっさとトレーニングノルマこなせ!!」と怒鳴られようが馬鹿みたいに「チョコください」と頼み続けた。
その甲斐あって、先輩が前日に折れてくれた、そこまではよかった。
けれど出された条件が「お前もチョコを作れ」。
呆然としているうちに先輩は部室からいなくなっていて、一緒に帰れなかったのも酷い仕打ちだと思った。

仕方なく、帰り道にあるスーパーに立ち寄ってチョコレートコーナーに向かう。
男子がチョコ売り場に行くなんてと少し思ったけれど、あまり気にする人はいないようだった。いくつかのチョコは売り切れになっていたから、そのコーナーに目を向ける人も二月初頭頃よりは少なくなっているのかもしれない。

オレは、そこにあった手作りチョコキットの箱を手に取る。小さなカップに入った一口サイズと思われるチョコレート。上にはカラフルな粒が乗っている。
パッケージを引っくり返して、書かれている説明を読んでみた。
箱に入っている大きなミルクチョコを溶かして、スプーンでカップに詰めるらしい。
カップもコーンスターチで出来ている、食べられるやつなのか。
最初から完成されたものが入っているようだ。
それで、最後にチョコスプレー(と、言うらしい。このカラフルな粒々もチョコレートだったのか)を振り掛けて冷やしたら完成。

……先輩はこれでいいとは言っていたけれど、本当にいいのだろうか。
とりあえずそれをレジに持っていって会計を済ませ、オレは店を出た。






バレンタイン当日の朝、オレは先輩の家の前にいた。
ドアを開けて出てきた先輩がオレを見て「おおぅッ!?」と仰け反った。大袈裟なリアクションがかわいい。

「え、悪い……オレ待ち合わせの約束してたっけ……?」
「いえ、勝手に待ってました」
「いつからだよ!?」
腕時計を確認したら一時間経っていた。30分くらいですかねと言ったオレの頬を先輩が両手で強く挟んでくる。

「こんなに冷えてて30分なワケあるか!! 風邪引いたら説教じゃ済ませねえからな!」
「え、看病も付いてくるんですか……?」
「なんで嬉しそうなんだよ?! ずーっと耳元で説教し続けてやるからな覚悟しろよ!!」
それはもうご褒美ではないだろうか。
緩みそうになる顔を見られないように、巻いていたマフラーで首を隠した。


「んで、朝から来たってことは持ってきたのか? おめえの手作りチョコレート」
「あ、ハイ……
「なんで小声になってんだよ」
朝から来たのは一番早く先輩のチョコが欲しかったからなのだけれど、交換条件は交換条件だ。
鞄から小さな包みを取り出して先輩に差し出す。

「うはっ、マジで作ってきたのお前」
「先輩のチョコを貰うためなので」
透明な小袋に収められた一口サイズのカップチョコ。
色つきの針金モールで留めてあっただけのラッピングなので、先輩はすぐに開封して中のひとつを口に放り込んだ。

「ん、上出来だな」
「さすがにもう少し良いものをと思ったんですが……けっこう、チョコのお菓子って難しいんですね」
「別にいいっての。つうかオレはこういうキットのチョコをちまちま作ってるおめえを想像して笑いたかっただけだし」
「悪趣味……
「野郎のチョコ欲しがってる時点でお互い様だろ」

オレは先輩の作るチョコだから欲しいのであって、そこは何度も伝えているはずなのだけれど、この人は自分の味付けがオレの好みとドンピシャだったくらいの理解でいるのだろう。
もう一度言ってやろうかと思って口をひらいたら、そこに甘いものを押し込まれた。

「んぐ、」
「あ、悪い。ちょうどいいくれぇに間抜けな口が開いてたもんだから突っ込んじまった」
女子にやったら場合によっては犯罪だぞと思いながら、それを手に取る。
分厚いチョコレートのバーがそこにあった。いや、これは……

「チョコブラウニーですか」
「そーそー、昨日言ってたやつ。クッキーくらいの硬さにしてみた」
改めて口に入れて咀嚼する。
中に混ぜ込まれたナッツ類とチョコの風味が香ばしい。食べ応えがある。

「美味しいです」
「そりゃよかった。残りはこっち」
大きめのタッパーを渡された。
気持ちが冷めるどころか、そういうところが先輩らしいと思ってしまうから重症だ。
いっぱい入っているのも嬉しい。なくなる瞬間が一番寂しく思ってしまうからだ。

「どうせおめえチマチマ食うつもりだろ。ブラウニーなら二、三日置いてもかえってしっとりして美味いし、日持ちもするからな」
……ありがとうございます」
全て読まれている。
なのにこのひとは、肝心のオレの気持ちにはちっとも気がついてくれない。

「今度、先輩が作るところ見に行っていいですか」
「はぁー? 面倒くせえなぁ……
言いながらも、きっと先輩は頭の中でこっそり検討してくれている。だからまずはそれを嬉しく思うことにしようと心に決めて、オレは大事に大事にタッパーを自分の鞄へと仕舞った。



【fin.】