アサフタ
2026-02-14 19:00:00
656文字
Public 花スピ
 

花スピ/赤い理由はひとつじゃない。

気持ちが通じ合った後のバレンタインの話。

 スピナーがタブレットを睨みながら唸っている。その視線に鋭さはない。
 困りごとかと思い尋ねれば「トランペットって無いんだな」と返ってきた。画面に視線を落とすと、通販サイトが開いている。整然と並ぶチョコレートは、どれも楽器の形をしている。
 ふといたずら心が湧き、彼の耳元に唇を寄せた。

「チョコでなければありますよ」

 食べられるトランペット。吐息を吹きかけつつ囁けば、相手がわずかに背をそらす。こちらに向けられた瞳が、じっとりと細められていた。

「おっさんくさい」

 じゃれ合いにはふさわしくない、げんなりした声だった。
 すけべ、と遠回しに揶揄され、下がりかけた口角を強引に上げる。

「君から始めたんですよ」

 暗に、すけべはそちらだと指摘すれば、相手が言葉に詰まった。私を捉えていた視線が電子機器に戻り、ごにょ、と歯切れ悪く零す。

「いや、俺が食べる分じゃなくて」

 アンタに渡そうと思って。俯いたまま呟かれた声が、粉砂糖のごとく薄くさらさらと落ちた。
 渡すも何も、その財源は私の財布ですが。呆れたものの、そこを突けばへそを曲げてしまうかもしれない。
 相手がいじけてしまわぬよう、優しく肩に手を回す。軽く捕らえたまま顔を覗き込めば、赤い眼球いっぱいに私が映った。
 にっこり。花にも例えられる微笑みを浮かべ、要求を述べる。

「それならなおさら、チョコ以外の方が嬉しいです」

 より甘いものを欲すれば、スピナーが顔を紅潮させながら叫んだ。

「やっぱりスケベ親父じゃねーか!」


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