
テーブルの上に並んだ丸い塊。ココアに包まれたチョコは、どことなく作り手を彷彿とさせた。容器が黒色のアルミカップだから、尚更そう見えてしまう。
「どうしたんですか、これ」
「バレンタインの練習。うまくできてるだろ。失敗作だ!」
肩をすくめる分倍河原のそばで、荼毘が甘ェと呟いた。
「文句言うな! 口直しするか?」
ころころと表情を変えながら男をもてなす姿に、漂う香りとは真逆の感情が生まれる。黒いモヤから視線を逸らそうと、むりやり口角を上げた。
「おいしそうですね」
「そうだろ。食べちゃダメ!」
台詞とは裏腹に、分倍河原の手がどうぞどうぞと促す。お言葉に甘えて席につき、手を伸ばした。
しかし、前方から獲物を奪われる。仕方なく別のチョコを狙うも、今度は腕の軌道を塞がれた。
「こら荼毘! 意地悪すんな! 当然のことさ!」
両頬を膨らませている男を分倍河原が叱る。その文言に心臓が跳ねた。
いや、大丈夫。彼は俺を信じている。スパイだなんて夢にも思っていないし、荼毘が俺を睨む理由だって知らない筈だ。
暴れ回る心臓を押さえつけ、大丈夫ですよと答える。その唇に甘い物が触れた。
「ほら、俺が食わせてやるよ! なんで俺が?」
またもや平静を崩された俺の横で、荼毘が口を開けて待っていた。
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