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アサフタ
2020-01-12 17:42:02
3025文字
Public
荼毘トゥワ・荼毘仁
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荼トゥワ/キス
#リプきたセリフでSS書く
くろこめさん(@krkme00)からのお題で「そんなにソレが好きなのか?」です。
荼→トゥワからの荼トゥワ
一人で食う飯は味気ないというが、他人との食事は緊張して味がわからないという奴もいる。
一人だろうが美味いもんは美味いし、テーブルマナーが必要な店でもない限り緊張なんてしないだろ。16の頃から複製と共に暮らしていた俺は、ぼんやりそう感じていた。だから尻の座りが悪い現状に納得いかない。
「どうした」
「なんでもねーよ」
テーブルの向かいにいる荼毘が発した問いに、ぶっきらぼうに返してしまった。親切だな俺! 平静を装っているが、心臓は痛いくらい脈打っている。
やはり自分のコピーと完全な他人は違うのだろうか。それとも複製が目の前で殺し合いをしたあの日以降、独りで過ごしていたため、久々に感じる人の気配に気が高ぶっているのか。落ち着いてるよ。だってこいつと飯を食うようになってから、もう半月以上経つんだから。
むず痒い心臓から意識をそらそうと、コンビニ弁当をかき込む。顔の上半分はマスクで覆っているので、動揺は滲み出ていないはずだ。バレてるよな、きっと。
生姜焼きを噛んでいると、小鳥みてェにサンドイッチを啄ばんでいた男が再び声をかけてきた。
「そんなにソレが好きなのか?」
ソレ? 質問が指す対象がなんなのかわからず、小首を傾げる。すると荼毘の眼球が動き、俺の手元を注視した。視線が刺さるのは、本日の晩飯生姜焼き弁当。
そーいや最近、立て続けにこれを買ってた。しょっちゅう食ってるから好物だと思ったのか。安いから選んでるだけなんだけどな。もちろん好きだ。
口の中に肉が残っているので、とりあえず頷いておく。だって嫌いじゃねェし。
すると青い瞳が細められた。今度は俺の顔を凝視してくる。次はなにを知りたいんだ? 生姜焼きを飲み込み、相手の言葉を待つ。
「俺よりもか?」
おおっと、これは予想外だ。というより、意味がわかんねェ。頭上にハテナを浮かべながら、米を口に運ぶ。
白米と一緒に、先ほどの問いの意味を咀嚼してみた。
……
もしかしてこいつもこれ好きなのか? よくわからないが、俺の方が好きなんだからお前は遠慮しろよとかいう発想なのかもしれない。いや、だったら買えよ。ガキじゃねーんだから。あ、ガキか。
言葉を飲み込み、箸で肉を切る。一口サイズの切れ端を、テーブルの向かい側へ突き出した。
「ほら、あーん」
おっさんからにされても嬉しくないんだろう。荼毘は目を丸くして固まった。楽しそうでなによりだ。
余計なお世話だったかと反省し、自分で食おうと手を下げる。が、なぜか阻まれた。
「? おい、どうしたよ」
尋ねている途中だというのに、荼毘に掴まれた手が移動する。そして、肉が男の唇に吸い込まれていった。
荼毘は口元の皮膚を繋いでいるせいか、あまり大きく開口しない。薄く開いた唇が油に濡れ、テカテカと光っている。
「うまいか?」
「まあまあだな」
人の弁当横取りしておいて、ずいぶんな言い草だな。
この野郎! 文句を放とうとするも、怒声は喉の奥に引っ込んだ。男が口をぱかっと開けて、次の給餌を待ち望んでいるからだ。雛鳥かよ
……
。
呆れながらもう一切れ口に運んでやる。
「これで最後だからな。もっと食え」
慣れないどころか初めての経験だ。おかげで手が小刻みに震えた。そのせいで肉が唇にぶつかったが、荼毘は気にせず噛みつく。
もぐもぐと食べる姿が面白くて、体内からキュンというあり得ない音が聞こえた。なんだこれ。もしや庇護欲というやつだろうか。
一瞬よぎった考えを、慌てて追い払う。すると来客がこちらを見つめていた。
「なんだよ、まだ欲しいのか? 欲張りだな」
「欲張り、か」
そう呟いた男は、急に神妙な雰囲気を醸し出した。思い当たる節でもあるのかよ。茶化そうとしたが、その前に相手の指先が口元に触れた。食べカスでも付いていたのか。恥ずかしっ。
照れて熱を持つ俺の頬から、荼毘は離れていかない。
次はなんだよ。訝しげに相手を見やると、触れる面積が指先から右手のひら全体に変化していた。本当にどうした。
視線だけで伺うと、「食べづらくないのか」と訊かれた。親指の腹が唇を撫でる。
「口元は出してるから平気だっつーの。現に今困ってないだろ。めんどくせェ」
「じゃあ外せ」
くい、と被ったままの覆面の端を引っ張られる。
「やーなこった」
べ、と舌を出すも荼毘は手を止めない。左手まで伸ばしてきたので、慌てて箸を置いてマスクを抑えた。
「離せっての!」
「少しぐらいいいだろ」
やめろ、やめないの応酬が続く。
あまりのしつこさに嫌気がさした。苛立ちが溜まり、器からこぼれ落ちそうだ。そうなる前に男の手を叩き落とす。
「いい加減にしろクソガキ」
低く怒気を孕んだ声で牽制する。鋭い目つきが隠れていたって、これだけ凄めば怯えて背を向けるのが一般的だ。
しかし残念ながらこいつは普通じゃない。怖気づくどころか、白い歯を微かに覗かせている。笑ってんじゃねェよ。
むかっ腹が立っている俺とは対照的に、相手はどこか嬉しそうに呟いた。
「そんな声も出るんだな」
「は?」
なんの話だよ。顔を顰めていると、相手が腰をあげた。帰るのか? 帰れ。寂しいからヤダ。最後に浮かんだ言葉に困惑する。
うろたえる俺の心情など知らない荼毘は、黙って食卓から身を乗り出した。再び腕が伸びてくる。まだ諦めてなかったのかよ。
今度はさっさと引き剥がすつもりで、頭部を固定する手首を掴んだ。だけど振り払うより早く、相手の顔が近づいてくる。瞬きする暇もなかった。
離れていく唇に付着した油が、切れかけの電球に照らされている。俺の口にも汚れは移り、光っていることだろう。
突然の出来事にキョトンとしていると、見た目よりも柔らかかった唇が動いた。
「もっといろんなアンタを知りたい」
なんだそれ。こっちの台詞だろ。もう知りたくねェ。
俺の個性なら、他人のことを隅から隅まで知る必要がある。そうしないと使えないからだ。でもこいつは違う。俺のことを知らなくても支障はない。じゃあどうして。
提示された謎を解こうと思案していると、もう一度唇が触れた。接触するだけじゃなく、舌先で入口をつつかれる。おいちょっと待て。
「飯食ってる途中だろーが!」
汚い! と叫んでしまったので、その隙をついて舌が侵入してくるかと思った。しかし読みは外れる。相手が停止したからだ。
「
……
食い終わったらいいのか?」
「は?」
「食い終わったら、続きをしてもいいんだな」
そう呟くと、荼毘は勝手に納得して勝手に話を切り上げやがった。置いてけぼりにされた俺は、先ほどまでの会話の流れを思い出すことにした。キスされて、嫌がって、飯の後ならいいのか確認されて
……
うん?
ここでやっと自分の失言に気づく。あの言い方だとキス自体は嫌がっていないように聞こえるじゃねーか!
慌てて、食後だってしたくねェ! と主張する
――
つもりだったのだが。
残っているハムサンドを口に運ぶ男の頬が緩んでいる。それを目視したせいで、叫ぶ予定の文言は喉奥に引っ込んでしまった。そんな穏やかな顔もできるのかよ。
思いがけず知ることとなった荼毘の一面に、なんだか体温が急上昇した。
……
歯磨き粉、ちゃんとあったよな?
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