終電逃してカラオケで夜を明かして始発で帰るとき、気だるい頭で空の際が徐々に明かるなっていく様子を見る。冬場だと特に、空が鮮やかに染まっていることが多かったように思う。
この街は、そんな寒い時期の遠くにある空が、斜陽に染まっているときのような淡い色をしている。
時間の概念がないようで、いつ空を見ても同じような色をしている。明るくなることもないし、暗くなることもない。死後の世界だからなんだろうか。
街を動かす機関が吐き出す蒸気が雪を溶かし、氷柱を作っている。雪の下から真鍮みたいなピカピカの金属の色が見えている。
吐き出した息が白い。
煙草を吸わないから、こういう日だけ喫煙者になったみたいな気分を味わせる。白い吐息の行方を辿ると、隣にも人がいた。
同じく白い息を吐き出して、ラウンジにいたときの服のまま。
鼻先と頬の赤さが、同じ寒さの中にいることを教えてくれる。
街に降りないんだろうか。
やることはいくらでもある。
街の様子を見て回ったり、祝福が何なのか聞き出すために主とやらを探してみたり、防寒具を探したり、ケセランパセランハントに興じてみたり、この人はこれをしないんだろうか。
まあ、同じく何にもしてないんだけど。
「寒くないすか?」
「ね」
やりとりはそれだけで、一瞬互いの顔を見た。
あまりに寒いから、防寒具を探しに行こう。街に踏み出す。
あれ、あの人は上着とかいらないのかな。思い返して振り向いて、既に道を曲がった後だったから、もう姿は見えなかった。
そこで名前聞いておけばよかったと思った。
まあ、いいか。またどこかで会うだろうから。
またどこかの機会は、暑い場所でやってきた。
堕落の街は焼けつく日差しが降り注ぐ場所だった。水辺にいても空気が乾いて、砂埃が肌をざらつかせる。
焦がすような昼のあとには夜がやってくる。
ここはきちんと昼夜の変化がある場所らしくて、空には星も見えるような場所だった。
昼までは木陰に逃げ込むしかなく、それでも孤独の街でみたときと変わらぬ服装をしているから、驚いた。
「暑くないすか?」
「ね」
どこかで聞いたやりとりだ。
それで名前を聞いていなかったことを、思い出した。
「なんていうんすか、お名前」
「亜村。よろしく」
今まで一音以上聞かなかった声は、気負いなく言葉を発した。
「あ、鹿山 光輝です。シカのヤマに、光り輝く」
余計な装飾のない言葉に対して、聞かれていないことまで喋ってしまった。文字に書かないなら必要ない情報だったなと思いながらも、言いかけた言葉を途中で止めるような器用さは、持ち合わせいないのだ。
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