つの
1199文字
Public まほやく
 

無題(オーカイ)

言い訳の下手なオエかわいいね(元ネタは3.5周年ログスト⑤)

「勘違いしないで。覚えてたわけじゃない。魔法使いは、ひとの好物が読めるんだ」

 赤ちゃんの騎士様にはわからないだろうけど。オーエンは嘯いて足を組んだ。
 この言い訳を聞くのも何度目かなと呆れるような微笑ましいような気分になって、けれどカインはなにも言わずに黙っていた。
 任務の帰りに、オーエン気に入りの王都の菓子屋に寄った。全員ぶんの焼き菓子を土産に買って――子どもたちからおかわりを奪わないように、オーエンのぶんだけは少し多めに求めて――帰ってきた。
 夜、部屋を訪ねてきたオーエンにおかわりの焼き菓子を出すと、上機嫌に食べていた。けれど雑談のつもりで「そういえば、期間限定の品として洋酒を効かせたクリームブリュレが出ていた」と話すと、オーエンは呆れたように鼻を鳴らしたのだ。

『あいつらが好きそうな菓子なのに、どうして買ってこなかったの? 仲間だ友人だって普段は口うるさく言ってるくせに、薄情なやつ』
『あいつら……?』
『クロエと……

 そこまで口にして、オーエンは柳眉をひそめ、黙った。話しすぎたとでもいうようだった。
 そうしてカインは思い至った。ラム酒をたっぷり効かせた、ミルクと卵の濃厚なクリーム。たしかに、クロエとラスティカの好物を足して二で割ったようだ、と。
 オーエンは宙に浮かせたティーカップを細い指で絡め取ると、紅茶を飲み干した。気まずい空気ごと飲み干すようにして。

「うるさいな」
「え? なにも言ってないだろ?」
「おまえの表情がうるさい」

 きちんと黙っていたのに、理不尽である。
 カインは唇を尖らせると、やはりふわふわ浮いているティーポットを捕まえて、空になったオーエンのカップに中身を注いだ。
 シュガーポットも同じように捕らえると、香り立つ湯気のなかに角砂糖を七つ落とす。
 オーエンが片眉をあげて、こちらを見る。

「魔法使いは、紅茶に入れて欲しい角砂糖の数もわかる」

 ひとの部屋のソファを占拠しているオーエンの隣に、身体を捩じ込ませる。オーエンは素直に席を空けた。反撃は成功したらしい。

「俺だって、魔法使いだからな」

 「へへ」と得意な気分で笑うと、オーエンは舌打ちをして、けれどひとくち、甘い紅茶を口に含んだ。
 そのまま、ゆっくりと身体が傾いで、唇を重ねられる。砂糖水のような紅茶を口内に流し込まれて、噎せそうになるけれど、堪えて唇を重ねていた。
 今回の任務は長かった。一週間ちかく、魔法舎を留守にしていた。ひさしぶりのキスは、角砂糖のせいだけでなく甘かった。
 喉を鳴らしてふたりぶんの唾液と紅茶を飲み込んで、ぷは、と息をつく。

……キスをして欲しいのがわかるのも、おまえが魔法使いだから?」

 悪戯に上目遣いで尋ねると、ずうっと歳上の魔法使いは聞こえよがしの溜息をついた。

「僕がおまえの恋人だからだよ」