匣舟
2026-02-14 11:14:00
1493文字
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きみを満たすのはぼくの役目

バレンタイン企画の鉢乱です。

だーれだ?」
三郎さん、そんな芝居がかったような声しても無駄ですよ?」
 目隠しなんてしてくる人なんか貴方しか居ないんですから。と呆れ声を出しているのは三郎の恋人である乱太郎だった。乱太郎は目をぱっちりと開けて、やっぱりね。とでも言いたげに三郎を見ていた。
「相変わらずきみは勘がいいね。」
「変装の達人である貴方の恋人ですからね?」
 得意げにふふん、と笑う乱太郎に三郎は敗北したように降参のポーズをとる。そして、乱太郎をぎゅっと抱きしめると耳元で囁く。
……ねぇ、乱太郎。今日ってなんの日か知ってる?」
今日?あ、バレンタイン?」
「正解。」
「あ、でも私、何も用意してないですよ?」
 そりゃあそうだろうな。と三郎は思った。何の日か知ってる?という三郎の問に対し、すぐにバレンタインという単語が乱太郎から出ないことが回答だからだ。きっと、今日がバレンタインという日であることを忘れていたのだろう。
 この子が色んなことに疎いことは知っていたし、忘れてるんだろうなということも分かっていたけれど、なんだか腑に落ちなくて三郎は自身の頭を乱太郎の肩に預けると、むぅ、と頬を膨らませた。年上の恋人が拗ねている事を知った乱太郎はそれを見て、拗ねてますか?と笑った。
笑い事じゃないぞ、こっちは拗ねてるんだ。」
「どうして?」
「そんなの、恋人からチョコレイトを貰えなかったからに決まってる。」
それは悪かったですけどでも、それでもちゃんと好きですよ?」
「じゃあ、私のことか好きっていう証拠を見せて?」
 三郎は頬を膨らませたまま、そう言って期待するように乱太郎を見つめた。乱太郎は三郎が自分を困らせようとしているのだということを察して、ちょっとだけむくれた。
 だって、自分が三郎のことが好きだなんてわかっているはずだ。分かっていなければこんな寒い日の夜に隠れて二人で逢瀬なんてしない。意地悪な先輩も困ったものだな、でも原因は自分にもあるしなあ。と思いながら三郎を見つめて、すこしにへらと笑いながら少し背伸びをして三郎と目線を合わせた乱太郎は三郎の唇に軽く口付けた。
っ、」
 三郎は乱太郎からキスされたことに驚いてきょとんとした顔をして目の前の恋人を見る。まさかこんなことをしてくるなんて思わなかったのだ。
 いつもならちゃんと好きですよ。だなんてあしらうのに。乱太郎からキスされるのは初めてで、三郎はまだ固まっていた。すると、そんな三郎を見て、目の前の恋人はちょっと恥ずかしそうに笑って言った。
「今はこれくらいしかできないんですけど、これで許してくれませんか?」
……!本当に……君ってやつは。」
 きみが愛おしすぎてどうにかなりそうだ。と三郎は独りごちて乱太郎を強く抱きしめる。別にこれで機嫌が治る単純な奴だと思われても良かった。自分が愛しいと思っている子にキスをされて嬉しくない男などこの世に存在しないのだから。
 自分の腕の中に抱きしめている乱太郎に、啄むようにキスを送ると乱太郎はふにゃりと微笑んで答えるように三郎の首に手を回した。
部屋行こっか?」
 雷蔵は忍務でいないからさ。どうかな?と付け足すと乱太郎はとろとろの瞳をこくりと頷いた。可愛い恋人の蕩けるような姿を見た三郎は彼を抱いたまま立ち上がり、なけなしの理性と戦いながら急いで自分の自室へと乱太郎をエスコートするのだった。
 パタン、と三郎の自室の扉がしまった音を合図に、二人の甘く蕩けるような時間は始まったのである。

ワード:背伸び・芝居がかった・エスコート