匣舟
2026-02-14 10:14:00
1503文字
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口にする勇気を

バレンタイン企画の長乱です。


 私が好きな人は、五つ上の本を読むことが大好きな人であった。気づけばいつも本を読んでいて流石図書委員会委員長だなあ。と思うのだが、そんな彼にはひとつ、ある特技がある。それは、ボーロ作りが得意だということだ。
 寡黙な彼からは想像できないギャップ萌えに、私は何度射抜かれたことか分からないし、その矢が可視化出来るのであればきっと私の心臓には無数の矢が刺さっているのであろう。
 そんな六年ろ組の中在家長次の事を密かに好きな一年は組の猪名寺乱太郎は、現在、中在家先輩へ。というメッセージと共に飴が入った包みを後ろに持って彼の部屋の前で右往左往している最中であった。
うう、どうしようっ!」
 本当ならば面と向かってこれ、受け取ってください!というのが一番効果覿面であるのは分かっているのだが如何せん本人を目の前にしてしまったら本当の気持ちなど乱太郎には伝えられるはずもなく、バレンタインに飴を送り、こうして長次が居ない間に自室に置いておこうとしているのだが勇気が出せず、ずっと彼の自室前を行ったり来たりしている訳だ。
 かれこれ数十分この状態なのでそろそろ腹を括るしかないか!と戸の前に置こうとしているのだが、こうやって置いては誰から来たのか分からないんじゃ?それなら直接渡す?いやいや、それは無理!と脳内の自分が喧嘩をしており、考えがまとまることなく歩き続けているのだ。そんなことをしていると背後から急に声がかけられ飛び上がってしまう。
乱太郎?」
「ひゃうっ!?あっ、あわわ!なかざいけせっ、んぱいっ!?」
「どうしたんだ、こんな所で。」
「あ、あのっえっとっ……!」
 振り返った先にはまさか乱太郎が思いを寄せている相手である中在家長次が立っていて、まさか戻ってくるとは思っていなかった乱太郎の心臓が一気に鼓動を打ち付け始めた。
 だって今日は図書委員会があるってきり丸に聞いていたから。どうしよう、どうしよう。何と言えばいいのか分からず思わずぎゅう、と手のひらの小さな包みを握り込んでしまう。そのまま握り潰す勢いでいると、そんな私の手元を見てから目線を合わせるようにしゃがんでくれた先輩がふ、と微笑みかけてくれる。
「私に何か用だったか。」
「あ、はい!……えっ……そのっ、これ!」
……これは?」
「あ、あめ……です。」
「貰ってもいいのか。」
はっ、はいっ!」
 長次に飴が入った包みを渡した乱太郎は、そ、それでは失礼致しますっ!と言って回れ右をして立ち去ろうとしたが、後ろから手が伸びてきて、乱太郎の腕を掴んだ。彼の腕を掴んだのは言わずもがな長次で、乱太郎は沸騰したような真っ赤な顔を見せたくなくて顔を反らす。
 しかし、腕を引かれながらそちらに向くように促され、仕方なく顔を上げてみると、目の前には長次の顔があり、乱太郎は再度飛び上がるほど驚いた。
「〜っうっ!!」
 声にならない言葉を出して驚いている乱太郎を横目に長次は自分の指先と乱太郎の指先を絡ませて、そのまま乱太郎の指先にキスを落とした。そんな長次の突然の行動に驚きすぎて固まっている乱太郎に再度唇を寄せて耳元で小さく呟く。
ホワイトデーは楽しみにしておけ……。」
 その一言だけ告げて長次は立ち上がり、ありがとう。という言葉を添えて乱太郎の頭を撫でるとその場を後にした。暫く放心状態であった乱太郎は正気に戻った瞬間、顔から湯気が出そうな程熱くなっていて、たまたま通り掛かった伊作に熱があると疑われ医務室に即座に転送されてしまったのだとか。

ワード:本当の気持ち ・指先・顔を逸らす