やっと四限目の大学の講義が終わって背伸びをした勘右衛門は、最近流行りの曲を口ずさみながら上機嫌でだいすきな恋人が居るアパートへと帰宅していた。
今日の街中はどこもかしこもどこか甘い匂いを漂わせていて、食べることがだいすきな勘右衛門にとってまさに天国のような日であった。
なぜ街中が甘ったるい空気を漂わせているのかと言うと、今日はバレンタインという一大イベントがあるからだった。
勘右衛門の通う大学でも女子同士が登校してすぐに友チョコを渡していたり、講義の先生から市販の大容量パックのチョコをもらったり、はたまた廊下で本命チョコであろうものを男子に渡している女子がいたりと様々な所で盛り上がりを見せていた。
いろんなバレンタインで浮ついている人々の光景を見ながら帰宅している勘右衛門だけど、彼もバレンタインというイベントに熱を浮かされているひとりであるということを忘れてはいけない。
「ふんふーん〜。」
るんるん気分で恋人が住んでいるアパートの合鍵を手に持って階段を駆け上がる。勘右衛門の脳内には早くだいすきな恋人に会いたい気持ちと、彼の恋人である乱太郎が作るバレンタインスイーツを食べたくてたまらない気持ちでいっぱいだった。
ああ、早く乱太郎に会いたいし、早く乱太郎の作ったものを食べたい。どんなスイーツを作ってくれているんだろうな。といろんな期待を胸に秘めながらいつもしているように合鍵を鍵穴に入れて回して、ガチャリとドアノブを回す。
「たっだいま〜!」
ついつい楽しみすぎて声が大きくなってしまったが、ドアを開けた瞬間に街中よりも甘ったるい匂いが部屋中に広がっていて勘右衛門はさらに期待を膨らませて靴を脱ぐと、おかえりなさい〜。手洗って来てくださいね〜!とドアの向こう側で乱太郎の声が聞こえた。
「はぁい。」
乱太郎の言う通りにすぐさま洗面台へと足を進め手を洗ってリビングに行くと、部屋の中に充満していた甘ったるい匂いがドアを開けたことによって一気に勘右衛門に降り注いだ。
「おかえりなさい、勘右衛門さん。」
台所でエプロン姿のままこちらを見つめておかえりなさい。と言う乱太郎を見た瞬間に抑えられなくなって勘右衛門は彼に抱きついた。ぎゅぅ〜と強く抱きしめた瞬間乱太郎からはふふっ、と笑う声が聞こえた。
「こらぁ〜、急に抱きついちゃびっくりするじゃないですかぁ〜。」
「ごめんってぇ〜。俺の恋人がかわいくて我慢できなかったんだもん〜。」
そんなことを言い合いながら勘右衛門と乱太郎はしばらくの間お互い抱きしめ合っていた。お互いの体温を感じ合ってどちらともなく顔を上げて軽く唇を合わせるだけのキスをする。ちゅ、ちゅう。と数回繰り返しているうちにだんだん欲が出てきて舌を絡めようとした時にぺちんと頬を叩かれた。
「こぉら、勘右衛門さん。まだあれもこれも作業が残ってるので、」
ここからはおあずけ、ですよ?と言いながら人差し指を自身の唇に当てながら勘右衛門を見る乱太郎に思わずゴクリと喉を鳴らす。そんなとろんとした瞳と、そんな表情されたら余計にいますぐにでも抱きたくなるだろ……!と理性と戦っていたら乱太郎に再びぺちんと頬を叩かれた。
「…いいこの勘右衛門さんなら分かりますよね?」
ほら、いいこにしてて待っててくださいね?と頬をサラリと撫でてバレンタインの作業に戻っていく乱太郎に完敗してしまった勘右衛門はぐらついている理性を抑えながら、スタスタとテーブルの席に着くのだった。
ワード:あれもこれも・いつだって・期待
了
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