碧月
2026-02-12 20:57:47
2168文字
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その魔法は俺に効く


学園の裏にある大きな木。それは、星送りの祭りで使われる大きな木だ。レオナは、その木の根元で寝転がっていた。遠く離れた校舎から、授業の終わりを知らせる鐘が鳴る。レオナは、大きな欠伸を一つした。スマホを開いて、ぽちぽちとメールを打つ。相手は、自分の愛しい恋人だ。

メールを打ってから、暫くして、木のそばの小高い丘に、箒に乗った人間が姿を現した。ジャミルだ。ジャミルは、箒から降りると、荷物をそこから下ろし、木の根元にいるレオナに向かって走ってきた。
「はあ、この場所に来るの、苦手なんですけどね」
小さなため息をついている。
「学園から少し離れているし暗い森の向こうにあるし、それに、森で虫でも出たら……
レオナの枕元でそう呟くジャミルに、レオナは大きな欠伸をして、起き上がり木にゆっくりと座り直した。
「その分、ここは静かだ。植物園だと、すぐに邪魔が入っちまう」
レオナは言って、ジャミルが広げている弁当の中から、唐揚げを一つつまみ上げると、ヒョイ、と手で摘んで食べ始めた。すかさず、ジャミルに睨まれる。
……マナー、って知ってます?」
「ああ。でも。お前の準備がゆっくりで、弁当が待ちきれなかったものでね」
手拭きとカトラリーを渡されたレオナはジャミルにニヤニヤと笑いかけた。こうして、二人きりの甘い時間が過ぎていく。
学園から離れたところにある、森の奥。この場所での二人の逢瀬を邪魔する者は、誰もいない。

レオナの隣で食事に手を合わせようとするジャミル。その手首をジャミルはグッと握った。
「ちょっと!」
予想外の行為に、驚くジャミルだが、レオナが、自分の薬指に魔法をかけようとしているのを見て、ハッとする。
「え、ちょっと、待っ……
言い終わらない間に、ジャミルの左手の薬指には、リングが嵌められていた。
「錬金術で作った余り物だ。……やるよ」
そう言われて、ジャミルはじっとそのリングを見つめる。指に嵌める部分は、おそらくプラチナでできていて、そこに、大きいダイヤモンドと、小さめのダイヤモンドがいくつかついている。それぞれのダイヤモンドの純度は、とても高く、売ったとしてもそれなりの値段になるだろう。宝石の生成はとても難易度が高く、三年生であっても、価値が低過ぎて宝石とはいえないものを作る連中もザラにいる。その指輪についたダイヤモンドは、それを作ったレオナの魔法力が相当高いことを物語っていた。
「その指輪には、とある魔法がかかっていてな」
レオナは、ニヤリと笑いながら、話を始めた。
……魔法?抜けない、とかですか?」
「いいや。それは、昼休みが終わったら外してもいい」
「何なんですか……
ジャミルは呆れたようにため息をついた。だが、それと同時に内心では、ホッとしていた。デザインが苦手とか、そういったものではないのだが、授業中にこんなものをつけていたら、揶揄う連中が出てくる。オクタヴィネルの数名の顔を思い出し、ジャミルは、首を横に振った。
「でも、その指輪には、魔法がかかっているからな。お前は、その指輪を外した後、すぐに自分でその指輪をつける。……そういう魔法だからな」
………………はあ」
ジャミルは要領の得ない返事をする。自分からこの指輪を嵌める?レオナがどんな魔法をつけたかは知らないが、ジャミルのユニーク魔法のように、人を操る魔法でもない限り、そんなことがあるはずない。
「そんなにつれない顔するなよ、ハニー」
隣で、レオナが囁く。ジャミルは、指輪のついている手をレオナに絡めた。わざとだ。

――――――

昼休みが終わり、予鈴の鐘が鳴る。ジャミルは、慌てて箒に跨り、校舎へと戻った。次は魔法史だ。教室は二階。遅刻しないように校舎へと急ぐ。
空いている席を見つけ、そこに座る。勉強道具を机に出すときに、きらりと光るプラチナ。ああ、そういえば、つけたままだった。ジャミルは、授業の用意をしてから、それを抜いた。てっきり抜けない魔法がかかっているのかと思っていたが、そうではない。ジャミルの薬指にぴったりの指輪は、するりと抜けた。だが、長時間つけていたため、指の根元には、指輪の跡が残っている。こればかりは、どうしようもない。まあ、時間が経てば、消えるだろう。

通常は、輪のような跡がつく、それ。何気なくその跡を見ていたジャミルは、ふとある場所に目が入った。ジャミルの手の甲側、薬指の付け根に、小さく映る文字。
(なんだ……?)
手を近付けて、ジャミルは声をあげそうになった。もう一度指輪をよく見る。指輪の内側に、微かな出っ張りがある。ほんの微かな出っ張りだが、その仕掛けをジャミルに施すには、十分なものだった。ジャミルの薬指に刻まれた「I love you」の文字。
(うわ〜〜〜〜!!!)
ジャミルは、内心叫びながら、指輪をまた自分の薬指に戻した。

「おや、ジャミルさん。素敵な指輪ですね」
頭上からそんな声がして、ジャミルが顔を上げると、クラスメイトのアズールが、ジャミルを覗き込んでいた。
「素敵な独占欲を持つ相手がいらっしゃるようで。……失礼、お隣、失礼しますね。この時間は、どの席も混んでいますね」
何でもない、というように座るアズールを、ジャミルは、真っ赤な顔で睨んだ。