柚子茶
2026-02-12 19:26:10
774文字
Public 短編
 

ぬけがら

ものすごくフライングした2026年の虫の日記念
ツチニンの進化システムに思いを馳せてたらできたお話

 夏の終わり、テッカニンが死んだ。
 泣き崩れる兄の傍で、ヌケニンは静かに浮いていた。

「俺が死んだらヌケニンを頼む」
 きっかけはなんだったか。取り留めのない日常会話の中で、夕飯のリクエストでもするかのように兄は言った。
「やだよ」
「なんでだよ。確かにむしタイプだけどさ、お前の好きなゴーストタイプでもあるぞ?」
「別にむしが苦手だからじゃないわ。ニンちゃんは好き。家族だもの。でもだめだよ。ヌケニンは兄さんの為のポケモンだもの。ねぇ、ニンちゃん?」
 ヌケニンはただ、そこに浮いていた。


 兄が死んだ。ヌケニンは兄の傍を離れなかった。


 四十九日法要は、抜けるような青空のもとで行われた。
 両親曰く、あの日から何をするでもなく、ただ骨壷の近くに浮いているだけだったらしいヌケニンは、兄を連れてくる際、骨壷と共に四十九日ぶりに動いたそうだ。
 納骨の儀が終わると、ヌケニンは役目を終えたかのように、ぽとりと落ちた。
 優しい子だ。旅立ちの時まで、ずっと傍にいてくれたのだろう。いや、これからもという方が正しいのかもしれない。
 あの子はどんな姿で次の世界へ旅立つのだろう。
 短く眩い青春を駆け抜けたテッカニンの姿か。はたまた、火の消えたその後も寄り添い続けたヌケニンの姿か。兄さんと出会って、「ずっと一緒」と誓ったツチニンの姿か。
 ……考えるだけ無駄か。所詮私はオカルトが好きなだけのオカルトマニア。イタコやサイキッカーのような本物たちと違ってあちら側あの世を覗き見ることなどできないのだから。
 兄さんとニンちゃんが一緒にいるのならば、どうあっても笑顔でいるのだろう。私の心配もお門違いということだ。私にできるのは、最期の挨拶くらいだろう。

「おやすみニンちゃん。あちらでも兄さんと仲良くね。――それでは、良き旅を」