むかしむかし、あるところにひとりの陶工がいました。陶工の腕前は平凡なものでしたが、いずれは歴史に残る大傑作が作れるはず、と来る日も来る日も作り続けました。
人との関わりを捨てても、食事の間を惜しんでも、眠気を置き去りにしても、それでも理想の器は作れません。
陶工は考えました。文字通り魂を込めたものでなければ大傑作には至らないと。
そうしてできた五つの茶入は、陶工と交友関係のあった商人に買われたのでした。
むかしむかし、ある商家に五匹のチャデスがいました。大切にしてくれる主人が大好きで、人間に隠れて日々鍛錬に励んでいました。ただ一匹をのぞいて。
「ねぇ兄弟、どうして強くなろうとしないの」
「そうだよ兄弟、僕たちを大切にしてくれるご主人様たちをちゃんと守らないと」
「まったく、毎日カチャカチャとうるさいなあ。ぼくはケッサクなんだ。そんなことをしなくたって、居るだけでみんな大切にしてくれるのさ」
「なんてやつだ。親父殿が知ったらどう思うか」
「こいつに何を言っても無駄さ。私たちだけで守ればいいよ」
茶入の底に裏印が入ったチャデスは、自分だけがケッサクなんだと毎日ふんぞり返っていました。兄弟たちのお説教もなんのその。きっとボンサクどもの嫉妬だろうとどこ吹く風です。
ある日の晩こと。商家に夜盗が入りました。
四匹のチャデスは大活躍。茶で生気を奪い夜盗を退治し、怪我をした者を治し、壊れたものを金継ぎし恩を返したのです。商家の人々は突然動き出した茶入たちに驚きましたが、助けてくれたチャデスたちに感謝して、今まで以上に大切にしたのでした。
めでたし、めでたし。
なんてことだ、割れてしまった、欠けてしまった。よりにもよって親父殿の印の場所が。兄弟たちめ、なんて薄情なんだ。親父殿のケッサクであるこのぼくのことを、ちっとも助けてくれなかった。人間たちもだ。あんなに大事にしていたくせに、連れて行かれるぼくに見向きもしないでボンサクたちのことばかり。盗っ人野郎にも腹が立つ。親父殿のケッサクのこのぼくを二束三文で売りつけやがって。
ああ身体が煮えくり返る。
そうだ仕返しをしよう。強くなって煮えたぎった茶を掛けてやればスッとするはずだ。こんなに茶碗があるんだ。きっと一つくらいはぼくの目にかなうものが。
「おや驚いた」
「手本にしようと買ったが、おれの目利きも捨てたものじゃないな」
「魔獣が宿っているとはやはり名のある陶工の作に違いない」
「割れているのが辛いのか。どれ、おれが直してやろう」
「こっちの茶入に移れるか。おれの習作で悪いがしばらく我慢してくれ」
ああやかましい! お前は壊れた急須か! けれどもまあ、直すと言うのなら従ってやろう。こんなボンサクでも、数日なら我慢してやる。
どうやらこいつは陶工らしい。親父殿には程遠い、平々凡々な作品しか作らない。しかし、土練り三年、ろくろ十年というしな。もう何年か経てば、きっとケッサクが生まれるはずだ。そうすればこんな凡人ともおさらば。楽しい楽しい復讐の時間だ。
「お? 茶碗がほしいのか? 今回のはいい出来だぞ。……うわっ!」
それにしてもこの男、才能云々の前にドジ過ぎやしないだろうか。こんなにいくつも茶碗を割って、売りものになるのはいくつ残るんだか。
……売れなかったら金が入らないな。そうするとぼくのご飯はどうなるんだ。
これは一大事だ。仕方がない、この凡人にケッサクの力を貸してやろう。
「こいつァすごい。お前さん金継ぎができんのかい。しかも腕前も一級品ときた! まるで初めっからこんな作品だったみてぇだ!」
さすがぼくだ。少しばかりてだすけしてやっただけで、こんなに売れるようになるなんて。
しかしこいつ、ちっとも上達しやしない。ずっとつまらん茶碗ばかりだ。まあ、おやつが出るようになったから良しとしよう。
「なあお茶っ子。今日のはどうだ? 結構いいんじゃあないか?」
調子に乗るなよ! 親父殿のケッサクが次に宿るんだ。こんなものじゃあ認めないぞ!
おかしいな、おかしいぞ。忘れていた。ぼくは復讐するはずだったのに。楽しくてすっかり忘れていた。
そうだ、楽しかったはずなんだ。なのに最近ちっとも楽しくない。あいつが全然かまってくれないからだ。
「だめだ。これもだめだ。こんなんじゃあまだ足りねえ」
ずっとこうだ。どうしてそんなにこだわるんだ。凡人が作ったケッサクなんて、ボンサクの上の方にしかならないのに。
ぼくは別に、もう強くなんてならなくたって、こいつと茶碗を作っていられたのならそれでいいのに。
「もっとだ、もっと魂を、魂を込めねえと」
そういえば、ぼくたちを作った親父殿はどうなったんだっけ?
むかしむかし、この地には不思議な陶工がいました。その頃はまだ魔獣と呼ばれ、恐れられていたポケモンと共同制作をしていた陶工です。そう、ポケモンと作家ユニットを組んでいたんです!
本人はそれほど陶芸の才には恵まれていないようでしたが、当時には珍しく、ポケモンと心を通わす才能があったようです。
彼と組んでいたポケモンは、タカイモノのすがたのチャデスだったとも、マガイモノのすがたのヤバソチャだったとも伝わっています。諸説ありというやつですね。
ここ、分かりますか? この金継ぎがチャデスかヤバソチャによるものです。
作風は平凡ですが、人間とポケモンの合作ということで彼らの作品は現代でもそれなりに評価されています。
それでは次の展示を見ていきましょう。
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