柚子茶
2026-02-12 19:16:03
2338文字
Public 短編
 

ぴーちゃんの約束

2024年6月4日に虫の日記念で書いたもの
バタフリーが約束を守るお話

 ワガハイはバタフリーである。名前はぴーちゃん。
 ぴーちゃんには大事な使命がある。今日はその使命を果たすため、はるばるやってきたのである。
 森から離れて花畑を越えて、町を過ぎたら山を飛び越える。大きな川を渡ったら、みえた! 大きなみかんの木と人間の住処!

 おっといかんいかん、ワガハイとしたことが大事な使命の前にしっかり身支度を整えなくては!
 川の前まで引き返し水面を鏡に全身チェック。巣にお邪魔するのに汚れたままでは失礼だ。ぴーちゃんはできるバタフリーなので礼儀もしっかりしているのだ!
 全身ピカピカ、鱗粉もキラキラ。最後に羽と同じ柄のリボンを整えて……ととの、整え…………なんだこれ難しいな!
 ねえそこのハハコモリ殿これ結べる? ……うんうんバッチリ! これでこそぴーちゃんであるな! あ、これ地元の森で採れたあまいミツです。お礼にどうぞ。

 準備はできた。いざ出陣なのだ! お邪魔しま〜す!
「あら、ぴーちゃん。今年も来てくれたの?」
 当然である! ぴーちゃんは約束を守るバタフリーなのだ!
「でもごめんね。あの子は今ここにいないの」
 えー! なんだってー!?

みかんの木からすこーし遠く。(ほんとに少し。暗くなるまで飛んだけど、ぴーちゃんはすごいバタフリーなのでへっちゃらなのだ!)ここに目的の人間がいるらしい。
 さーてどこにいるのかな?
 ……この巣、でかくない? しかも同じような部屋で人間も多くない? ミツハニーの巣かよ。
 そこのランプラー殿、こういう人間知りません? ふむふむなるほど、むこうの部屋ね? これお礼にどうぞ。いらないの? ご馳走が待ってる? そりゃ仕方がない。えっ、もうすぐ寝ちゃうの!? 確かにもう夜だもんね! いそがなきゃ!親切にありがとうね。

 教えてもらった部屋にいそいで飛ぶ。今なら森のスピアーたちより速いかも!
 おや? この匂いはみかんの花? あそこの穴あきの部屋からかな? ということは!
「おや、君は」
 ハルくん! ぴーちゃんが使命を果たしに来てやったぞ!
「ぴーちゃん! よくここが分かったねえ」
 ワガハイがんばったので!
 さすがのぴーちゃんでも、初めての場所はちょっと大変。ハルくんはたくさん褒めるべき。具体的にはこう、酷使した触覚をですね。ほわ〜! これこれ、これを待ってました!

「ぴーちゃん、これまで毎年会いに来てくれて、本当にありがとう」
 ふふん! ぴーちゃんは約束を守るバタフリー。これくらい当然であーる!
「でもごめんね、来年からはもう来なくていいんだ」
 は? 何を言ってるのだ?
「ずっと友達でいてくれてありがとう。君たちのおかげで僕は寂しくなかったんだ」
 ………………
「今度のぴーちゃんは男の子だったんだね。じゃあぴーくんの方が良かったかな?」

 ワガハイはバタフリーである。名前はぴーちゃん三世。
 最初のぴーちゃんであるおばあちゃんとそのお友達のハルくんの約束を守るために、 森も花畑も町も山も川も越えてみかんの木を目指して飛んできた。
 ぴーちゃんはハルくんの巣のみかんの木で育った。当然家主の人間とも仲良しだった。
 ハルくんはぴーちゃん以外の友達がいなかったから、ぴーちゃんが旅立つときすごく寂しそうだった。だから約束した。
「みかんの花が咲く頃に毎年里帰りしてあげる!」
 ぴーちゃんは約束を守るバタフリーだから、毎年ちゃんと里帰りした。里帰りするといつもハルくんが喜んでくれて嬉しかった。友情の証だってつけて貰ったリボンは、森中のポケモンに自慢した。
 でもぴーちゃんは人間じゃなくてバタフリーだから、そのうち帰れなくなった。
 だから、ぴーちゃんは産まれてくるキャタピーにお願いした。
「私の代わりにハルくんとの約束を守って」
 そうしてぴーちゃん二世になったおかあさんは、毎年ハルくんに会いに行った。ハルくんは会いに行く度喜んでくれるから、ぴーちゃん二世もハルくんが大好きになった。
 でも二世になってもぴーちゃんは普通のバタフリーだから、また会いに行けなくなった。
 だからぴーちゃん二世も産まれてくるキャタピーにお願いした。
「わたしの代わりにハルくんとの約束を守って」

 そうやって約束と友情のリボンを受け継いだのがぴーちゃん三世たるワガハイである。
ずっとずっと、キャタピーのころからハルくんに会うのを楽しみにしていたのに。それなのに、もう来なくていいとは何事か!

「僕はもう永くないから、きっともう来年には会えないんだ」
「ここまで来るのは大変だっただろう? だからもう、約束は忘れてほしいんだ」
 ……そんなのもう無理だよ。ハルくんとぴーちゃんの友情は、もう遺伝子に記憶されているんだ。それくらい仲良くしておいて忘れろだなんて、そんな虫のいい話があるか!!
「ああ、ごめん泣かないで。そんなに悲しんでくれるなんて思わなかったんだ」
 ないてない! おこってるんだ! ふくがんから流れてるのはおやつに舐めたミツだから涙じゃないのだ!
「きっともうお話することも、こうやってふれあうこともできないけれど、それでも、また会いに来てくれるかい?
 ……もちろんだ。だってぴーちゃんは、約束を守るバタフリーなのだから!

 やあ人間! 今年もぴーちゃんが来てやったぞ!
「あらぴーちゃん、今年も来てくれたのね」
 もちろんだ。だって約束だからな!
 わがはいはバタフリーである! 名前はぴーちゃん五世! 先祖代々の約束のために、森も花畑も町も山も川も越えて、みかんの木まで会いに来た!
 わがはいたちは、誇り高きバタフリーなのだ!