【フェ主♂】ファーストキス

何の脈絡もないキスシーンです。例によって(?)話の半分がキスシーンの濃いめなやつ。

 ファーストキス

 
 フェンさんと恋人になった。
 フェンはソリにとって人生初めての恋人であり、憧れた兄貴分であった人物だ。兄貴分のままだって、全然良かったかもしれない。でも、少なからずもっとそばにいたいだとか顔を見ない日があると寂しいだとか、他のやつと話してると気になるだとかがあった。そしてそれは、兄貴分の方も同じだったというわけだ。
 で……
 ソリは今から、兄貴分とキスをしようとしている。もちろん、初めてのキスだ。女と付き合ったことがないし、スティアと住んでいてもその気にならなかったし、生まれて初めてキスをする。
 それが好きな人とであることは、たぶん、とても幸せなことだ。
 キスとかしてみるか? という話になった時も、正直すごく乗り気だった。してみたかったから。
 けれど……。けれども。
「んじゃ、ここに座って」
「お……おう」
 酒場にほぼ併設のフェンの私室に招かれ、いざその時、となったら、急にどきどきしてきた。
 ここ、と示されたのはベッドの上。先に座っているフェンの隣。そうだよな、近くないとできないもんな。頭ではわかっているし、これまでかなり普通に横にいたのに、もうなんだか全然違うのだ。
 緊張を押してベッドに座る。自分の重みで少し木が軋む。どうしよう、靴脱いどいた方がいいのかな。
 考え込んでじっと足元を見ていると、ソリより先にフェンが靴を脱ぎ始めた。あ、やっぱ脱ぐんだ。脱いどくか。
 いそいそと靴の紐を緩め、足を抜く。どきどきしていたのが紛れ、靴を脱いだ足を思い切ってベッドに上げてしまった。
……っ、ん゛ん゛」
「どうした? フェンさん」
 片膝だけベッドに乗せた格好で座ったフェンが、急に妙な咳払いをして顔をそらした。首を傾げると、瞳だけがこちらを向く。
「いや……かわいいな、お前」
「おれのことかわいいっていうのフェンさんだけだぜ」
 かわいい動きをした覚えは微塵もない。が、きっと兄貴分は何かを気に入ってくれたんだろう。ソリは掛布の上にぺたんと膝をつけて座り、彼の行動を待った。
「よし」
「うん」
「やるか」
……頼むぜ」
 どうやら気合いを入れ直したらしい兄貴分を、真っ直ぐに見る。目が合う。眼差しも熱いし、ついに肩に触れてきた手も熱い。
 ゆっくり抱き寄せられ、顔と顔が近づく。散々見てきたはずの兄貴分の顔なのに、初めての表情をしていた。少し伏目で、それなのに熱さを感じる青い瞳。形のいい鼻。ふっくらした健康的な唇が、薄く開いて色気を醸し出している。
……待って」
「ん……?」
 心臓の音、聞こえていないだろうか? そう思ってしまうほど自分の中に鼓動が響く。やばい、フェンさんの顔がかっこいい。好きすぎて死にそう。このまま近づかれたら、この胸は破裂するんじゃないか? だって、身体中熱い。
「心臓ぶっ壊れそうなんだ」
 自身の服の胸元を掴み、ソリは正直にそう伝えた。死ぬにはまだ早い。
「ば……馬鹿野郎、俺もだよ……!」
 余裕そうに見えた兄貴分の顔がみるみる真っ赤になっていく。服を掴んでいた腕をとられ、彼の胸元へ連れ去られる。布越しでも感じる、体温と鼓動。
「はは……
 なんだ、同じか。そう思った瞬間、緊張が解れた。解れて、笑いがこぼれてしまう。兄貴分の大きくて厚い手が、ソリの輪郭を捉えたのはその時だった。
……っ」
 頬を撫でられ、顎を上向きにされる。ずきん、と胸に甘い痛みが走った。目を閉じる間もなく、唇を奪われる。思わず結んでしまった唇に優しい温度と感触が触れ、そっと離れていく。
「はっ……、ん……
 息を吸おうと薄く開いた唇に、すぐさま二回目がもたらされた。輪郭をなぞっていた手がうなじを抱いてくれて、力が抜ける。二回目は長かった。長いと感じていただけかもしれない。熱い唇が、唇の柔らかさを確かめるみたいに優しく食んでくれて、ほろほろ溶かされそうな気持ちの良さに包まれる。
 いつの間にか、目も閉じていた。ずっとこのままでいたい、なんて、乙女みたいなことを考えてしまう。
「ソリ」
 夢見心地の頭に大好きな兄貴分の声が響く。今名前を呼ぶなんてずるい。好きすぎていかれちまう。
 薄く瞼をひらけば、焦点の合わない視界に青色が霞む。まだこんなに近くにいる。呼吸が触れる。名前を呼び返そうと息を吸い込むと、吐き出す前にまた唇を塞がれた。
「んっ……ん、う……
 首が反るように上手く腕を回され、密着され、唇と唇の境がなくなる。もがくように兄貴分の白いシャツを握り締め、離れないよう踏ん張る。それが精一杯だった。苦しさと切なさで胸が張り裂けそう。身体中火がついたみたいに熱い。
……‼︎」
 何度か息を継ぎながら啄まれ口元は緩み切っていた。そこに、熱い塊が侵入してくる。舌だ。舌同士がぶつかり、ソリの舌は驚いて奥に引っ込んでしまった。ぢゅ、と音を立てて下唇を吸われ、またくっつく。
 歯の裏、口蓋、舌の表面。入ってきた舌先が丁寧に口の中をなぞっていき、その度に味わったことのないむず痒い痺れが広がる。ささやかに甘くて、もっと強い刺激が欲しくなってしまう、そんな、もどかしい痺れだ。
……ソリ……
……?」
 息を混ぜ合わせ、呼吸をつなぐ。名を呼ばれ、力の抜けた目ですぐそばの瞳を見た。
……名前呼んでくれ」
……ふぇ……んっ」
 言われた通りに、最後までできなかった。最初の一音を発するために開けた口に、すぐさま蓋がされてしまったからだ。緩んだ舌を兄貴分の舌に絡め取られる。逃げるより前に舌の側面を舐められ、喉の奥で喘ぐ。舌先が吸われ、甘噛みされ、押し寄せてくる快感で頭の中が溶ける。騙し討ちだったこともあっという間に忘れ、いつの間にか必死になって舌で舌を追いかけ、フェンの肩に、首に縋って手が勝手に動いていた。
 キスってこういうもんなのか。気持ち良すぎてやめられない。もっと食いたいし、食われたい。何度も向きや角度を変えて絡み合い、支えてくれる手に掴まれた髪がほつれていく。
 ようやく顔を離した時、お互い服はよれよれ、髪はぼさぼさでひどい有様だった。兄貴分が肩で息をしながら、胸に抱き留め、背を撫でてくれる。
「気持ち、良かったか?」
「うん。もっと……してえ」
 正直にそう伝えると、なぜか兄貴分は小さく震えた。震えた後、小さく首を振られる。
「なんでだ? フェンさんすげーうまいじゃん」
「お前、こんにゃろ……っ、俺……これ以上は我慢できねえぞ……
……?」
 これ以上があるのか?
 なんだかわからないが、この日はもう一回だけ唇を触れ合わせるだけのキスをしてそのまま寝た。

 だけれど兄貴分が教えてくれた、醒めやらぬ口付けの熱い感触に、ソリはすっかり虜にされてしまったのだ。毎日のようにキスをせがみ、深く激しい愛に溺れる。
 フェンの我慢が限界を迎える日はたぶん、近い。