うすねず
2026-02-13 20:00:00
6152文字
Public カイスト
 

百年同行

フログラ
生首フロウさんをグランさんが拾うだけの話。
オチとかは無いのでゆるく読んでください。

いい天気だなあと思いながら歩いていたら何かを蹴っ飛ばしてしまった。
ごろんごろんと転がっているのはよく見ると人間の頭だ。悪いことをしたなあ、せめて埋めてやろう。
「うげっ」
結構遠くまで転がっていった頭に近づくと心底嫌そうな声が聞こえたので誰かいるのかと思ったが、誰もいない。
気のせいかと頭に視線を戻すと頭の顔はフロウだったし、頭だけなのに生きていた。
いくらカイストとはいえ、頭だけになっても生きてられるような奴は珍しい。
あ、おいらは平気だけど。
そもそもカイストは死んでも転生するのだからあんまり生存能力に力を入れないのだ。
フロウは特にそうで、死ぬときはあっさり死ぬくせにすぐ帰ってくる、らしい。
転生したら加速成長していつもの姿になっている、らしい。
なので、こうして生首で転がっているのはおかしいはずだ。
……フロウも不死身にあこがれるようになったのかい」
「んなわけあるかっ」


事情を聞いても詳しいことは教えてもらえなかったが、どうやら頭だけになっているのはフロウの意思ではないらしい。
本人が不本意ならずっと頭だけなのも大変だろうし治した方が良いよな。
一言断ってからフロウに触れ、気合を込めてポワーッとする。
あれっ。
結構ポワーッとしたのにフロウは頭だけのままだ。
もう一度やってみる。
再生しない。
もう一度。
やっぱり再生しない。
「ありゃ、うまくいかないな」
うーん、なんだかポワーッとしたものがそのままフロウに入るんじゃなくて別のところに散っている感じだ。
「俺を助けたいと思うならさっさと殺せ」
「殺すのはあまり得意じゃないんだがなあ」
おいらの攻撃力は一般人並みなのだ。
それに、どうせなら殺すよりも殺されない方がかっこいい。
でもまあ、困ってるなら助けてやりたいよな。
いつものやり方で治せないならどうしようもないし。
「ええっと、殴ればいいか?」
正直頭だけの相手をどうすれば殺せるのか判断に困ったので、とりあえず手ごろな大きさの石を探してきてフロウの頭に叩きつける。
石越しに鈍い感触が伝わってきて嫌な感じだ。やっぱり人を殴るのは好きじゃねえなあ。
あれっ。
思い切り石をぶつけたはずのフロウは無傷だった。
ボサボサ頭には傷一つない。
いくらおいらでも成人男性くらいの力はあるはずなんだが。
もう一度殴る。
無傷だ。
もう一度。
やっぱり無傷だ。
この感じ、なんだか覚えがあるぞ。
「やめろっ。もういい」
このまま殴り続けるのはちょっと気分が悪いなあと思っていたので、静止の声が入って安心した。
それにしてもフロウはこんなに頑丈だっただろうか。おいらと一緒で我力防壁は持っていないと聞いていたんだが。
「クソっ、面倒な呪い方しやがって」
なんだか事情があるみたいだな。


難しい話はよく分からないが、今のフロウは面倒な方法で呪われていて限りなく不死身に近いらしい。
思わぬライバルの出現だ。
我力防壁もあるからおいらの目指す不死身とは違うみたいだが、体が無いのは大変だと思う。
呪った相手もこんな誰も通らなそうな荒野に放置していくなんて随分とひどいな。あれっ、でも呪いたい相手には酷いのが普通なのか。
おいらが悩んでる間に、フロウはすごい罵詈雑言をずっと叫んでいる。思い出したらイライラしてきたらしい。それに動けないから他にできることがないんだろうな。
「まあまあ、行きたいところがあるならおいらが連れて行ってやるから」
よっこいせ、とフロウを抱えてどこへ行きたいか尋ねると、すごく不機嫌そうな声で首都の名前が返ってきた。
この世界は帯状の三本の平原が荒野に挟まれる形で並んでいて、真ん中の平原の中央に首都がある。いろいろ凶暴な生物がいるので荒野に人は住んでいない。
おいらが滞在していたのは端の平原の、さらに端っこの方にある村だったので、首都に行くにはこの荒野を越える必要がある。
元々真ん中の平原に移動する予定だったのでいいが、ここから首都に向かうとなると荒野を横切るんじゃなくて斜めに横断しないといけないんだよな。
ちょっと遠いから、急ぐなら一度村に寄って馬とか借りた方がいいだろうか。
おいらは加速歩行とかは使えないので現地の移動手段に乗れない時はいつも徒歩移動なのだ。
「どうして首都に行きたいんだい」
「死ねば解けるってことはわかってるからな、ガルーサ・ネットの出張所周りならカイストもいるだろ」
「なるほどなあ」
おいらじゃ我力防壁を破れなかったもんなあ。
うーん、急ぎなわけでもないようだし、それならこのまま直接行こう。
頭だけのフロウを抱えて荒野を歩く。
荷物にしてはちょっぴり重いが、おいらは不死身の男なので問題ない。
下を向くとフロウのボサボサ頭が見えた。
あ、つむじが二つある。


空はいつまでも青く、荒野は果てが見えない。
たまに四足歩行の獣が駆けたりまばらに生えた草を食んだりしている。そして地面の下に潜む肉食生物に食われた残骸に遭遇することもある。
おいらの目の前にはまさに足を食いちぎられたばかりの獣が倒れていた。
若そうだからきっと疑似餌にでも引っ掛かったんだろう。足を犠牲にしてなんとか逃げ切ったところで倒れてしまったみたいだ。
このままでは数時間も経たずに死んでしまうだろうだし、治してやろう。
「うわっ、暴れるなって」
獣は急に触れられ抵抗していたが、傷が治ると暴れるのを止め、不思議そうな顔で毛づくろいを始めた。
それからしばらく疑うように足踏みしていたが、最後においらの顔をひと舐めすると一声鳴いて跳ねるように駆けて行く。
うんうん、元気でな。
あっという間に遠のく影に手を振って見送る。
「あの調子じゃまたすぐ食われるな」
「それはまあ、仕方がないさ」
フロウの声に振っていた手を下ろし、再び歩き始める。
おいらにできるのは目の前で死にかけている相手を助けるくらいだ。
あいつの道はあいつが歩くしかないからな。


途中でキャラバンとかが通りかかったら乗せてもらおうかな、と思っていたのだが誰も通らなかったので、地面下の肉食動物に下半身を喰われたり空から急降下してきた大鳥に腕を持っていかれたりしつつおいらとフロウは歩き続けていた。
そろそろ平原に辿り着きそうだ。
そうえばフロウといえばすぐに人をおちょくると聞くけれど、おいらが抱えて歩いている間はほとんど無言だったな。
むしろこっちから声をかけていたくらいだ。
といっても、腹は空いてないかとか、頭だけで運ばれるってどんな感じ、とかたいしたことじゃない。
あの戦争の後、フロウと会ったことは数えるほどしかないが毎回そんな感じだ。
以前ガリデュエに、フロウって案外無口だよなと言ったら大笑いされたからそれなりに珍しい状況なんだろう。
おいらってフロウに嫌われているんだろうか。一応あの戦争はおいらの勝ちってことになっているしなあ。
そんなことをぼんやり考えつつ歩き続けていると遠くに街の影が見えてきた。
「お、見えてきたぞ」
フロウは何も言わなかった。おいらと違って五感とかも鋭いらしいのでとっくに見えていたのかもしれない。
あそこがこの世界で唯一の首都……といってもこの世界自体がそこまで栄えているわけじゃないのでそこそこ大きい街って感じの場所だ。だけどガルーサ・ネットの出張所はある。あそこなら他にもカイストが居るだろうし、フロウを何とか出来るだろう。



首都に入ってからなんだか視線を感じるなあと思ったらフロウを持ったままだった。
確かに、平和な街に生首を抱えた人間が歩いていたらみんなびっくりするよな
「うーん、せめて包むくらいした方がよかったか」
でも、今持ってる荷物でフロウを包めそうなものなんて無いしなあ。おいらの服でもいいんだが、半裸で歩き回るのもそれはそれで目立つ気がする。
おいらが悩んでいると、向こうから衛兵が走ってきた。
事件でもあったのだろうか、怪我人がいるならおいらもついていこうかな。
「うわっ本当に生首持って歩いてやがる」
「えっ」
「観念しろっ、この猟奇殺人者めっ」
「えっ」
どうしようかなーと考えていたら衛兵に捕まってしまった。
衛兵の目的はおいら達だったみたいだ。誰かが通報したんだろうか。
「いや、フロウは俺が殺した訳じゃなくて、」
「そうだそうだ、勝手に殺すなんて失礼だろ」
うえっ、喋った。さっきまでおいらが何を話しかけても不機嫌そうに唸るだけだったのに。
「なんだ、あんたらカイストか。どんな趣味でもいいが迷惑だけはかけんでくださいよ」
余計こじれるから困るなあ、と思ったらそんなことなかった。
フロウが喋ったとたん、衛兵はカイストだと納得して去っていったのだ。
よかったようなそうでもないような。
「あの衛兵、なんか勘違いしてた気がするなあ」
目線がやたら生暖かったような。まあいいか。
とはいえ、このままだと色々と不便なことが分かったので袋か何か調達しよう。
なんて思っているとフロウが口を開いた。
「お前、いつまで俺を持ち歩く気なんだ」
「うーん、おいらにできるところまでなら付き合うつもりだけど」
別に予定も無いし。
世のカイストはいろんな依頼をこなしたりするが、おいらはそういうのにはそこまで興味がない。もちろん頼まれたら受ける時もあるけど。フロウを野放しにするのも心配っちゃ心配だし。
「アホかっ、ガルーサの出張所にでも預けたらそのままどっかいっちまえ」
ちょっと不安はあるが、まあ本人がこう言っているならそうした方が良いか。
「じゃあ、そうしよう」
ちょっとぶらぶらしたらおいらも別の世界に行くかなあ。

「えっ、ゲートが使えないのかい」
「はい。現在復旧中ですが、しばらくかかるかと」
なんとゲートの不調らしい。
また使えるようになるのはいつごろかわからないそうだ。あまり利用者もいないから優先順位が低いらしい。
うーん、しばらくこの世界で過ごすかなあ。
それはそれとしてフロウについて誰かしらに手を借りようと思ったら、なんと今この世界にいるカイストはこの場にいるので全員らしい。
つまりガルーサ・ネット出張所の職員と、フロウとおいらだ。
ガルーサ・ネットの職員は大体Cクラスで、何人かに試してもらったけどフロウに傷一つ付けることはできなかった。
最後の方はフロウも楽しくなってきたのか色々言って煽るから、止めるのが大変だった。
一人だけBクラスの検証士もいたけど、この世界の住民の平均寿命分……大体百年前後過ごせば自然死できると保証しただけでフロウを殺してはくれなかった。
あとなんかこの世界から出てもフロウは死ぬらしい。我力をこの世界そのものから供給しているから、らしい。
じゃあどっちにしろゲートが使えるようになるまで待つしかないかあ。
「ところで、グラン様はしばらくこの街に滞在するご予定でしょうか」
「うん、そうだけど」
「それではフロウ様のお世話をお願い致します。こちらでは扱いきれませんので」
「え」
「ガルーサ・ネットからの依頼にしても良いそうです。期間は……そうですね、丁度100年でいかがでしょうか。ゲートが直ったら100年以内でも完了ということで」
「え」
受付のねーちゃんにニコニコと笑顔で押し切られ、結局依頼を受けることになってしまった。
ま、フロウの相手はおいらにしかできないって言われちゃったらがんばろうって気になるよな。
一応依頼って形だったし。
そんな感じでしばらくはフロウと過ごすことになったわけだが、話し相手がいるってのは案外悪くない。
当の本人は勝手に話を進められて不満そうだけど、さすがに頭だけで悪さはしないだろう。しないよな。
「ってことで、しばらくよろしく」
フロウをのぞき込むとすごく不満そうに舌打ちされた。
まあ、気長にやっていこう。


カイストは何日も食べなくたって生きていける。おいらは特にそうだ。
でもどうせなら美味しいものは食べたいし、酒を飲んだら酔っぱらいたい。そうじゃないともったいないしな。
ということで出張所を出たおいらは手ごろな飯屋に入った。
酒場を兼ねた店のようで、酒に合いそうな料理ばかりだったのでついでとばかりに酒も頼む。
フロウはずっと不機嫌そうだった。まあ100年間生首かもしれないのは困るよな。自力で動けないってのは辛いもんだ。おいらも昔攫われた時に手足を取られたことがあるからよくわかる。
とはいえどうしようもないからなあ。
「そんなイライラするなって、ゲートの問題ならしょうがないし……あ、あんたも食うかい」
……食う」
断られるだろうと思いながら聞いたので正直ちょっとびっくりした。
「食わせてくれるんだろ」
おいらが戸惑っていると机の上のフロウが急かす。
そりゃそうだ。今のフロウには手も足もないんだからおいらが食べさせないといけない。
とりあえずパンをちぎって口に放り込む。もぐもぐと咀嚼し、飲み込むと無言で口を開けて催促されたのでまたちぎって食べさせる。
「おいおい、パン以外も食わせろよ」
「え、ごめん」
たしかにそうだ。というわけでスープやら肉やら酒やらを言われるままにフロウに食べさせた。
そういえば、食べたものはどこに行ってるんだろう。
まあ、おいしく食べられるのは良いことだ。
そんな感じでフロウに食べさせつつおいらも飲み食いする。
うん、おいしい。酒もうまいし良い店だ。


飯を食べ終えたので、机に置いていたフロウを鞄に入れて席を立つ。
布製の簡素な肩掛け鞄はさっき道具屋で買ったものだ。
店の主人は生首を抱いて現れた男に驚いていたが、事情を話すと納得して鞄を売ってくれた。
この店の主人も喋る生首を普通に受け入れていたので、こうなってくるとむしろなぜ最初に衛兵に捕まりかけたのかわからない。鞄も買わなくてよかったんじゃないんだろうか。
「おいらが言うのもなんだが、ここの住民図太いよな」
「そんなもんだろ」
ちなみにフロウは鞄に入れられるのがあまり気に入らなかったようで、鞄の中で揺られながらぶつぶつと文句を言っていた。

転んだ子供の怪我を治してやったり、ガラの悪そうな男にフロウが声だけでちょっかいをかけたり、色々あったけどおいらとフロウはなんとかガルーサ・ネットに紹介してもらった宿まで戻ってきた。
部屋はそんなに広くなかったが、実質一人みたいなもんだし問題ないな。
料金はきっちり二人分取られたけどフロウの分はちゃんとフロウのところから引かれたらしいからいいや。
あっ、でもベッドが一つしかないぞ。
「おい何考えてんだ、俺は椅子でいい」
「えっ、そうかい」
せっかくのベッドだけどフロウを抱えて寝るしかないかと覚悟を決めていたら、フロウから止められた。
なんだか悪いなあと思いつつシーツに潜り込む。
やっぱりベッドで寝るのは気持ちいいな。
「じゃ、おやすみ」
今度はフロウも寝れる場所を用意してやった方が良いかなあ、なんて思いながらおいらは眠りについたのだった。