匣舟
2026-02-11 17:17:28
4811文字
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からめとるように愛してあげる

息抜きで書いていたバレンタインの仙乱です。
全然息抜きじゃなくなりました。なんで?

「ねえ、立花先輩いた?」
「いなぁい。」
 どこに行っちゃったのかしら。これを渡したかったのに。とハート型の箱を持った少女たちが乱太郎の前を通り過ぎるのを横目に、彼はひとつため息をこぼした。ため息をついているのは、さっき通り過ぎた少女たちと同じ人物を探していて、なおかつ同じものを渡そうとしているからだ。
 そう、今日は二月十四日、バレンタインデーと呼ばれる日であり、好きな人へ物を送る日である。バレンタインに贈るものと言えば代表的なチョコだが、乱太郎が持っている四角の箱に入っているのは昨日頑張って手作りをしたマカロンが入っている。
 スイーツをあまり作ったことがない乱太郎にとってマカロンを作るなど至難の業であったが、仙蔵に想いを伝えるために何回も試行錯誤を繰り返し、なんとか形になったのが今、乱太郎が持っているカバンの中に入っている。
 いつもならば朝、仙蔵がおはよう。と必ず声を掛けてくれて他愛もない話をしながら学校へと一緒に入っていくのに、今日がバレンタインデーという日が関係しているのか朝はおろか昼さえも姿を見ることはなく、そして今現在の放課後のこの時間でさえ仙蔵の姿すら見ていないのだ。
 ホームルームが終わってからもう三十分は校内をただひたすらなにか用事があるかのように歩いているが、そろそろそれも限界に近くなってきた。もう今日は諦めて帰ろうか、きっとこれはお前は彼と結ばれるべきではない。という神様のお告げなのかもしれない。とカバンの中でいつでも来た時に渡せるようにと持っていたマカロンが入った四角の箱から手を離し、自分の下駄箱がある方へと踵を返したその瞬間、誰かから腕を掴まれ、そのまま空き教室へと入らされた。
「〜っ!」
 突然のことに頭がついていけず、まともな抵抗ができずにいると、腕を掴んできた主は乱太郎を後ろから抱き締めた。その温もりと香りに覚えがあり、ふ、と肩の力を抜くと目の前に垂れ下がるサラサラの綺麗で透き通るような髪が目に入った。自分がずっと探していた人物がまさかこんなに近くに、しかも後ろから抱き締められる状況になるとは夢にも思わず、慌てて離れようとしたがそれを許さないと言わんばかりに強く抱き締められた。
「っ……せ、んぞ、う……先輩?」
……乱太郎、ずっと、お前を探していたぞ。」
……ッ!!」
 耳元で呟かれた名前に体がビクリと跳ね、全身がまるでやかんが沸騰したかのようにじわしわと熱を帯びる。仙蔵はそんな反応をする乱太郎を知らぬまま、名残惜しそうに乱太郎から離れると、こちらを見て、乱太郎の瞳へ何かを訴えていた。
「せ、せっ、先輩?どうかされたんですか?」
乱太郎は今日が何の日かはわかるか?」
「えっと、バレンタインデー、ですか?」
「そうだ。」
「だからそれが……?」
私になにか渡し忘れたものはないか?」
 その仙蔵の言葉に乱太郎の胸がドクン、ドクンと音を立てた。カバンの中にしまってあったマカロンの入った四角の箱をきゅ、と少し握りながらこ、これの事なんだろうか?でも、先輩は私がこれを持っているなんて知らないし。と頭がキャパオーバーになっている乱太郎。
「えっ!?あ、えと……。」
……ないか。」
 テンパりながらもどうしよう、渡すべきだろうか?と悩む乱太郎に、明らかにしょんぼりしてしまった仙蔵を見て。ええい!もうどうにでもなってしまえ!と乱太郎はわたわたと慌てながら、カバンの中にある四角の箱を取り出した。少しシワシワになってしまった袋を気にする余裕もなく、急いで仙蔵に差し出す。
……せ、仙蔵先輩!」
「ん?」
「あの、えっと……これ……っ!」
「これはなんだ?」
「これは……その。」
「乱太郎?」
……!」
 自分の方を見ている仙蔵は優しい微笑みを浮かべていて、それでいて少し楽しそうな顔をしながら、まるでこの時間がとても愛おしいと言うような、そんな表情をしている。
 それの表情に気が付いた途端、乱太郎は何故か恥ずかしくなり、仙蔵からとても視線を逸らしたくなったが、ここで逸らしてしまったらと負けだ!ちゃんとこれを渡すんだ!と心の中で言い聞かせ、ぎゅっと目を瞑り勇気を振り絞って口を開いた。
「こ、これ……あげます!」
「ふふっ、ありがとう。乱太郎。」
「ど、どういたしまして……っ!」
「開けてもいいか?」
「えっ!?あ、はい!」
 仙蔵からの問いかけに素直に答えたものの、やっぱり家で開けてもらった方が良かったかもしれない!ちゃんと出来てるよね?焦げてないよね、大丈夫だよね……?と内心焦りながら、目の前で丁寧にラッピングされたリボンを解いていく仙蔵の手元をじっと見つめる。
 手元を見つめる傍ら彼の顔をちらりと窺ってみると、仙蔵はとても嬉しそうな顔をしていて、その顔を見て乱太郎はほ 、ホッと一安心した。一安心した乱太郎の表情を見て微笑みながら仙蔵がパカッと小さな箱を開けると、中には色とりどりのマカロンがはいっていた。
……マカロンか。」
「あっ、そうです!」
「乱太郎が作ってくれたのか?」
……っはい。……味は保証できませんが!」
「いや、お前が私のために作ってくれたことが一番嬉しいよ。ありがとう乱太郎。」
「〜っ!」
 仙蔵の言葉に胸がきゅう、となって顔が熱くなる。赤くなっているであろう顔を見られたくなくて俯くと、くつくつと喉を鳴らしながら笑う声が聞こえてきてさらに顔が熱くなった。
 そんな乱太郎を見て仙蔵はまたふ、と笑みをこぼすと箱の中から一つ取り出し、ぱくりと一口食べた。いつの間にか俯いた顔を上げた乱太郎が不安そうに、こちらをみているのに気づいた仙蔵は笑みを零しながら乱太郎に目を向けた。
……うん、美味しい。」
「ほ、本当ですか!?」
「本当だよ。嘘なんかつかないさ。」
よ、よかったぁ……。」
「私のために頑張って作ってくれたんだな。ありがとう、乱太郎。」
 仙蔵から優しく頭を撫でられて、また顔に熱が溜まっていくのを感じながら、乱太郎はゆっくりと頷いた。もっと、もっと撫でて欲しいとそう願えば願うほどに甘い感情が胸へと溢れてくる。
 そんな乱太郎の想いとは裏腹に頭を撫でていた仙蔵の手が離れていき、だんだんと寂しさが募っていく。まだ足りない。もっと撫でて、もっと触れて欲しい、と思う気持ちを悟られないようにぎゅ、と我慢していると、彼から自分の名前を呼ばれた。
……なぁ、乱太郎。」
「はい?」
「私は、自惚れてもいいのか?」
「ぇ……
……バレンタインに、お前が、マカロンを、私にプレゼントした意味を。」
「ぅえっと、あの、その、それは、」
「答えを聞かせてくれないか。」
……っ」
 答えを聞くまで逃さないとでも言うように真剣な眼差しでこちらを見てくる仙蔵に乱太郎は思わずたじろいでしまう。まさか、面と向かってマカロンを送った意味を聞かれるなど渡せたらいいなあ〜。と試行錯誤しながらマカロンを作っていた乱太郎には想定外の出来事だった。だって、渡せたらそれで十分だと思っていたし、受け取ってもらえればそれで良いと思っていたのだから。
 どうしよう、どうしようと考える度に自分の心臓の鼓動がうるさいぐらいに聞こえてきて、仙蔵にもこの音が聞こえてしまっているんじゃないかと思ってしまうほど大きい心臓の音に、ますます体に熱が帯びていくのを感じる。顔を真っ赤にさせながら何も言えないでいる乱太郎の耳元に彼の唇が触れそうな距離まで近づく。まるで食べられてしまいそうな、そんな距離。
「なぁ、乱太郎?」
「っ!?」
 耳元で囁かれる低い声に、乱太郎は肩を震わせた。逃げ腰になっている乱太郎を逃すまいと仙蔵は腰に手を添えると、ぐっ、と引き寄せて、ぴたりと乱太郎にくっつく。
 逃がさないぞ?とでも言われているかの如く仙蔵から強く抱きしめられている乱太郎はされるがままになり、ただただ顔を赤くすることしか出来なかった。熟れた林檎のように赤くなっている乱太郎の顔をみた仙蔵は、フッと笑みを零しながら彼の無防備になった首筋にちゅっと軽く口付けを落とすと、乱太郎は釣竿にかかって飛び跳ねる魚のように飛び上がり、ぴゃ!と声を上げた。
「せ、せっ、先輩っ!?」
「ははっ、お前は可愛いな。」
「〜っ……!」
 乱太郎は仙蔵の自分を愛おしそうに見る行動と自分のことをかわいいと笑みを零す言動に驚きを隠せず、声にならない叫びをあげる。
「私もお前のことが好きだ、乱太郎。」
……〜ッ!」
「バレンタインにマカロンを送る意味は、あなたは特別な存在、だったかな?」
「ぁ、ぅ……
「これ以外の答えはないはずだ。」
 なぁ、そうだろう、乱太郎?と仙蔵の声が耳元で聞こえると乱太郎の心臓はドクン、ドクンと早い鼓動を打つ。心臓が自分の身体から飛び出てしまうのではないかと思うほど鼓動が早くて痛い。
 胸を抑えながら顔を赤くさせている乱太郎の前には早く言え、と言わんばかりに彼の綺麗な顔が近づいていた。俯いて目を合わさないようにしていた乱太郎だったが、いつの間にか伸びていた仙蔵の手によって顔を固定され、仙蔵の瞳が乱太郎を捉えた。
 目線が合わさると、その切れ長の甘い眼差しに抗うことなんて出来るわけもなく、乱太郎はぽつりと消え入りそうな声で呟いた。
はい、わっ、わたしも、せんぞうせんぱいのことが、っすきです……。」
 やっとの思いで紡いだ乱太郎の告白の言葉に、仙蔵は嬉しそうに目を細めると再び彼を抱きしめた。 
……ふふ、嬉しいよ。」
「っ……!」
「ありがとう、乱太郎。」
「っ、」
 仙蔵の腕の中でただ小さく震えている乱太郎をしっかりと抱き締め直し、額に軽く口付けると、それに気付いた乱太郎はまた顔を赤くさせた。乱太郎の初心らしいかわいい反応を見た仙蔵は、自分よりも身長が小さく、自分よりも華奢でちいさな体にまた愛おしさが溢れていった。
「乱太郎、すきだよ、」
「ぁ……わ、わたしも……です……!」
「ふふ、かわいいな。」
「っ……
「本当に……だいすきだ、乱太郎。」
「〜ッ!」
 耳元で愛を囁かれるたびに心臓が破裂してしまいそうなぐらいドキドキして落ち着かない乱太郎。そんな心臓が破裂してしまいそうな彼の気持ちを知ってか知らずか何度も耳元で愛を囁いてくる仙蔵に、とうとう限界を迎えた乱太郎は涙目になりながら彼に縋った。
「せ、せんぞうせんぱい……もうやめてください……っ!」
「どうしてだ?」
「だ、だって……こ、こんなの心臓がもたないです……っ!」
「ふふっ、それは困ったな」
 困ったといいながら、全く困っていない顔で微笑む仙蔵は、更に乱太郎を強く抱きしめると、ちゅ、と今度は鼻先に軽く口付けた。
っ!」
 キスをされたと気づいてぴゃ!とまた声をあげる乱太郎をみて仙蔵は満足そうに微笑むと、唇に口付けた。触れるだけの短い口付けに乱太郎は顔を真っ赤にさせ、そんな彼を見た仙蔵は再び軽く触れるだけの口付けを落とした。
 唇が離れたあともしばらく見つめ合ったままだったが、乱太郎が恥ずかしさのあまりに耐えきれなくなったのか、ふいっと目を逸らしてしまったので、仙蔵は彼の耳元でまた甘く囁いた。
……乱太郎。」
「は、はいっ……!」
これからよろしくな。」
「っ、……こちらこそ、よ、よろしくお願いします……。」
 真っ赤になりながらも返事をしてくれた乱太郎の頬に手を添え、親指でそっと撫でてやると、乱太郎は少し擽ったそうに目を細め、嬉しそうに微笑んだ。そんな彼を見て仙蔵はまた心がきゅうっと締め付けられるような感覚に陥り、乱太郎の事を強く抱きしめたのだった。