Hizuki
2026-02-10 21:52:12
1828文字
Public あんスタ[零薫他]
 

メルティ・トリック

【あんスタ】零薫。零にバレンタインのチョコレートを食べさせてあげようとする薫の話。2/8 VRF2026無配SS。たまにはこういうのもいいよね。



「今年もおいしそうじゃのう」

ソファの俺の隣に座ってテーブルの上の箱を開けた零くんが、嬉しそうな声でそう言った。側には箱を留めていた紫のリボンと、中に入っている一口サイズのチョコレートの味を記した紙が置かれていた。時は2月14日、バレンタインデーだった。

「試食もさせてもらったし、きっと零くんも気に入ってくれると思うよ」
「薫くんも忙しかっただろうに。毎年ありがとう」

この日のためにどこもかしこもチョコレートの催事が行われている。恋人のため、友人のため、自分のため、理由はそれぞれではあるけれど、お目当てのもののためにそこへ足を運ぶ。俺もまたパンフレットである程度の目星を付けて、できる限り人の少ない時間を狙って零くんへのチョコレートを用意した。もちろん、自分用のものもしっかり買っている。

「さ、どれから食べたい?」

箱の中には7粒のチョコレートが並んでいる。シンプルなものから、カカオ分が違うのもの、フルーツのジュレを中に閉じ込めたものなど、色々と楽しめるものを選んだ。中でも目を引くのは中央に収められたハートの形の赤いチョコレートだ。零くんは説明が載った紙を手にして現物を眺めている。

「それぞれ味が違うとなると迷ってしまうがまずはスタンダードなものからにしようかの」

隣から紙を覗いて、零くんがご所望のチョコレートを確認する。

「だったらこれだね。はい、あ~ん」

箱の中からそれをそっと摘まみ上げると、手を添えて零くんの方に差し出した。

「え!?か、薫くん!?」
「ん、どうかした?」
「どうかした、ではなくその手は

驚いたような上ずった声を上げて、俺の方を見る。そこまで驚くようなことはしていないつもりだけれど、零くんにとってはそうではないらしい。

「せっかくだから食べさせてあげようかと思って」
「いや、あのそれは

今季一番の寒波が到来する、という天気予報の煽り文句通り、今日は本当に寒い。帰ってきてすぐに暖房を付けて、今はもう部屋の中は大分暖かくなっていた。チョコレートをそのまま置いておくにはあまり適さない温度になりつつある。それに、俺自身の体温もある。完全に溶けることはないにしても、表面は柔らかくなっていくだろう。

「ほらほら、早くしないと溶けちゃうよ?」

ちょっぴり急かしながら言葉を続ける。もちろん零くんの好みに合わせたつもりだからこそ、答え合わせをしたいというところもある。俺達しかいない部屋の中で迷うことなんてないだろうに、なんて考えていると、零くんが顔をこちらに近付けてきた。そうして、俺の指の間にあったそれは零くんの口の中に消えた。

「どう?」
「うむおいしい。流石の薫くんチョイスじゃ

さっきの焦った様子はどこへやら。満足そうに首を縦に振る零くんを見て、俺も口元が緩んだ。

「ふふ、よかった。次はどれがいい?」
その前に」

そう尋ねながら視線を箱に向ける。残りは6つ。そこで言葉を切った零くんが気になって、顔を上げるのと同時にぱっと手首を掴まれた。状況が理解できないまま目を瞬かせていると、零くんは俺の手を口元に持っていく。そして、人差し指の先をそのまま口に含んだ。

「ちょ、零くん!?」

温かくて柔らかいものが触れたかと思うと、それは指を這うように動き始める。零くんの舌だ。行動の意図が読めずに名前を呼ぶも、零くんは動きを止めない。一度離したかと思うと今度は親指を。ちらりとこちらに向けられた視線には楽しんでいるような様子が見えて。静かな部屋に水音が鳴る。あえて立てているだろう音は俺の熱をじわりと上げていく。解放されたのはしばらく経ってからだった。

「い、いきなり何を!」
「ん~?このままでは味が混じってしまうじゃろ?」

何でもないというようにさらりとそう言った。零くんの言わんとすることは分かる。でも、それならティッシュで拭うでもよかったはずだ。だというのにわざわざこんな行動に出た理由は一つしかない。さっきの俺の行動に対しての零くんからの仕返しだ。

「さて、どれにしようかのう~」

躊躇いを吹っ切ったらしい零くんは上機嫌で箱のチョコレートに目を向ける。ちょっとしたサプライズのつもりが、しっかりとやり返されてしまった。きっとこれは全部食べ切るまで続くのだろうなと思いながら、零くんの次の選択を待つことにした。