ガイベル
2026-02-09 23:59:24
3864文字
Public お話
 

取り置き、お願いできますか?

できてる前提のサニバジですがオモバジ要素と濃度も強め。
オモリの香水の発送通知に興奮して書き殴ったため粗はご容赦頂きたい
年齢制限をかけるほどではないもののいかがわしい描写が微量に含まれます、おたのしみに!(?)

 「サニーくん!みてみて!」
 じゃーん!という言葉と共にバジルが見せてきたのは、手のひらに収まる程度のガラスの小瓶だった。中心に繊細なチューリップのデザインが施されたその中身は、おそらくは香水だろうか。開けたばかりというのがわかるほどに中身はたっぷりと満ちて、なんならキラキラと光っている。自然なものを好む普段の彼のイメージからすると、珍しい買い物な気もするけれど、まあそれはそれ。
 「買ったの?」
 「うん!パッケージがかわいくて……
 そうだろうなとは思っていたけれど、誰かからの贈り物じゃない事に改めて胸を撫で下ろした。バジルは元々自分と違って人並み程度かあるいはそれ以上におしゃれなものや新しい物に興味があるらしいということは、昔から今にかけても察するところがあったから。……逆に僕が効率重視で、そういう方面には頓着がなさすぎるだけなのかもしれないけれど。

 それが感じられるのはたとえば、ふらりと大きめのショッピングモールに行った時とかだろうか。世の中の女の子ほどではないとは思うけれど、バジルは服やアクセサリー、小物の棚の前でどれにするかをしばらくウンウン唸っていたりしたこともあった。悩む事に時間がかかりすぎて、時々何故か僕に判断を仰いできたりもして……
 「サニーくんごめんね。えっと、これと、これとかが……気になるんだけど、どっちがいいかなって……
 「? どっちもいいんじゃない」
 「う、うーん……それはそうなんだけど……。さ、サニーくんなら、どっちがいいと思う?」
 どっちが似合うかより、とりあえず僕が好きな方でいいって事?と思いながら、商品とバジルを何度か交互に見比べて、自分がより好ましいと感じた方を素直に答える。……ただし散々悩んでいたバジルに比べたら、かなりてきとうに選んだような自覚はあった。
…………こっちかな」
「! そうなんだ。ありがとう」
 身につけるものは本人が好きなものを選ぶのが一番いいと思うけれど、結局、彼は僕が良いんじゃないかと言ったほうをすぐに手に取りレジに向かっていった。手持ち無沙汰になった僕は、そのままぽつんと置いて行かれた、今回選ばれなかった方の商品を改めて眺める。……どちらかと言えば、こちらの方がバジル自身が好きそうな雰囲気かなとは、思ったんだけど。あんなに悩んでいたのに、結局二つ返事のように僕の好みを優先して良かったんだろうか。僕は少しの逡巡のあと、まだ彼がレジカウンターから帰ってこない事を確認してから、近くの店員に話しかける。営業スマイルを崩さないその人は、話をいくつか聞くと『任せてください!お待ちしてます』と快く返事をしてそれを受け取り、すぐに棚の整理に戻っていった。休日で人の多いお店の中は賑やかで忙しそうだ。……あまり外出を好まないくせにまた来る予定を作ってしまった。でもこればかりは仕方がないだろう。今度来れる日に、うっかり雪なんかが降り積もらなければいいんだけど。
 季節は冬、そろそろ二月に入ろうかという頃だった。


 「それでね、香りはこんな感じで……
 意識が現在 いまに戻ってくる。色々と説明したがりのバジルが、香水は体温の高いところにつけるとわかりやすいみたいで……などと言いながら手元に少しだけプッシュしたその香りを漂わせた。
 ふんわりした白いチューリップの香りを、バジル自身が選んで彼の生活の中に取り入れようとするのは、よくよく考えなくてもむずがゆいような気もするけれど、別に悪い気もしなかった。むしろ今みたいな自分たちの関係で、わざわざ僕を象徴する花がメインのものを選びたがるのはいじらしくて、可愛いとさえ思うような……こういうところは、割と確信犯なのだろうか。
 自分たちを中心にして静かにふくらむ香り。それにつられるようにふわふわとした思考が、僕にとって、もっともっと都合のいい夢の世界に想像を引っ張っていく。


 「オモリくん!今日はぼくのお家に来てくれてありがとう!なにして遊ぶ?それとも、少し休んでいく?」
 花冠をつけたバジルが、いつものように『オモリくんならぼくのベッドも好きに使っていいからね!』などと、相変わらず現実以上に都合よく甘々でベタベタな事を言ってくる。いや、これもバジルだから。別に浮気とかでは、ない。絶対ないし。
 ない、でしょ。ないんだよ。うるさいな。……一体自分は誰に向けてこんな言い訳のような事を言っているんだろうか。マトリョーシカのような思考を上手く説明するのは難しい。
 そんな事はさておき、今日はいきなりこの部屋まで潜ってきたから、普段探索についてきてくれるみんなも近くにはいないみたいだった。きっといつも通りに各々好きに遊んでいるんだろう。そもそも大変な探し人でもない限りは、エネミーがあふれる世界とはいえパーティを組んで行動することの方が珍しい。あとは現実の僕たちが落ち着いて、そちらのバジルともいい仲になってからは、僕は一足飛びにここへ来ることも増えた。
 つまり、より一層この世界の花冠のバジルと二人きりでまったりすることも、キスやそれ以上の行為に発展するような事も増えたということ。恋人になったなら全部現実ですればいいって?……そんなの、現実ですぐ叶えられないような欲望やフラストレーションを発散したい事だってあるんだから、放って置いてほしい。思春期以降も人間には色々あるのだ。他人に迷惑をかけないならそれぐらい自由にしたっていいだろう。え?僕が床上手の処女好きっぽい……?一体なんだそれは……ほんとにうるさいな!
 先ほどの今日はどうするかというバジルの問いかけに、自分の思考の中に入ってうんともすんとも返事をしない僕の事もいつもの事として気にしていない様子の彼は、ベッドに座ったまま僕に寄りかかってくる。そしてこれまたいつものように、甘えるようにくっついてきた。ここでの彼は何も言わずとも、息を吸うように僕の望む事だけをして、言って欲しい言葉をくれる。
 「オモリくん、それ、なあに?」
 僕が手に持っているものが何かって……、香水の瓶だ。白いチューリップの。……さっきの現実の流れでつい、この世界にも顕現させてしまったらしい。僕は先ほど見てきたようにその瓶を持つとプシュ、と一度だけその中身を部屋の宙に向けて放った。人工的な、でもうるさくないくらいの香りがバジルの花の部屋に混じっていく。
 「わあ、いい香りだね。ホワイトチューリップかな?」
 さっきのアクションでアイテムを使った事になったのだろうか。まだ効果とかは決まっていなかった筈だけれど、少しの感情変化とともにお互いのテンションも上昇した感覚があった。ぽかぽかとして暖かい気持ちだ。感情についてはバジルが僕の状態に引っ張られることも多いから、彼に出ている影響は自分がにこにこ状態になってしまったせいかというのは、判断がつきにくい。
 でも効果はともかく、これがもし、中身が底をつかない限り繰り返し使用できるものだとしたら。バトルではかなり破格の効果になってしまうだろう。一応ゲームバランスを考えるのも僕の仕事のうちだけど、せっかく作ったものを削除するかどうかも悩ましい。結局これは、隠しアイテムとしてバジルの家に預けておく事になるかもしれない。このままバジルにあげたら、それはそれで喜びそうだし。
 しかし、想像というのはさらに都合よく膨らんでいくもので。いつもはお友達のスキルや消費アイテム、はたまたバジルにわざわざ頼まないとできない種類の数段階にわたる感情変化を、制限のないこのアイテムで自分が好きなだけ使えたら。そんな事を思う。そう……たとえばもし、この香りを、この部屋を満たすためだけに使ったとしたら
 ……きっとむせ返るような芳香が満ちる中で、その空間にはテンションの上がり切った、さいこ〜状態の自分たち、二人だけがいて。
 『──くん、こっちにきて……
 花冠以外には何も身につけていない姿のバジルが、その香りだけを纏って。そして寝心地のいいこのベッドの上で、僕に両手を広げて誘ってきたりしたら、それは…………


 「うわっ?!」
 香水の瓶を手に持たされたまま、夢歩きのままにぼーっとしていたら、思わず手に力を込めていたらしい。現実の方のバジルの顔に向けて、思いっきり香水をプッシュしてしまった。びっくりして一気にこちらの世界に意識が戻ってくる。いきなりの事にゲホゴホとむせたバジルの背を撫でてやりつつ、小さな声で謝罪をする。言い訳にはなるけれど、これが唐辛子スプレーとかじゃなかったのは、不幸中の幸いだったと思う。あと、自分の思考が顔に出ないタイプでよかった。色々な意味で彼に悪い事をしたとは思いつつも、より一層強くその花の香りをまとう事になったバジルに、夢世界と同じような、少し よこしまな気持ちが膨らんでいく。なんとか雑念を払うように頭を振った。
 咳が落ち着いてふーっと息をついたバジルが会話を仕切り直してくれる。
 「サニーくんも、もし良かったら使ってみてね」
 「……うん」
 僕はそのままバジルをぎゅ、と抱きしめて首元に顔を埋める。いつもの落ち着くバジルの香りに混じる、慣れないホワイトチューリップの香りに、やっぱりどうにもたまらなくなって……
 これを自分が使う必要はそう多くはなさそうな気がするな、と思った。

end.

___