みずあめ
2026-02-09 22:25:59
1680文字
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ゆづあい

ワンライお題「ひだまり」

「隣、お邪魔してもいいですか?」
からかうような声が頭の上から降ってきて、俺はハッと顔を上げた。目が合った由鶴は風呂上がりだからか頬がほんのり染まっていて、まだ少し湿った髪が色気を感じさせる。
雪で電車が止まり、家に帰れない由鶴を連れて帰ってきたのは数時間前だった。お礼に夕飯は自分が作るという由鶴の言葉に甘えて二人で買い物をして帰り、由鶴が作った食事を楽しんで、先に入れと由鶴を風呂に押し込んでからどれくらい経ったのか。小さく聴こえるシャワーの水音に意識が向かってしまうのを断つためいつもよりボリュームを上げて流していたレコードはいつのまにか止まっているようだった。
……
「逢さん?」
くすっと笑う由鶴の声に答えないまま、ソファーの空いている場所をぱしぱしと叩く。由鶴は微笑み、ありがとうございますと呟いて俺の隣に腰を下ろした。
「すみません、久しぶりにゆっくり湯船に浸かったら遅くなっちゃって。眠かったら先に寝てよかったのに」
「別に眠くない。……久しぶり? いつもはシャワーで済ませるのか」
「はい、一人だと面倒で、つい」
……
「? 逢さん?」
頬に触れ、首筋を撫で、その体がしっかりと温まっていることを確かめる。由鶴は俺の手を少しも避けることなく受け入れ、ただ俺が何をしたいのかと不思議そうに首を傾げるだけだ。許されている、と感じて、まだ風呂に入っていない俺までぽかぽかと体温が上がった気がした。
……ちゃんと温まったみたいだな」
「ふふ、はい、ありがとうございます。逢さん、少し飲んでますよね。お風呂はどうしますか?」
「後で入る。由鶴は今日は飲まないのか?」
「歯磨きしちゃいました。逢さんが一人だとつまらないなら付き合いますよ」
「どっちでもいい。飲みたいなら好きに飲め。飲まなくても、ここにいろ」
……はい、ここにいます」
暇そうにしている手を捕まえて、軽く引き寄せ俺の太ももの上に置く。距離が近づいた分だけ由鶴の体温も近づいて温かい。こてんと肩に乗った重さに一瞬心臓が跳ねた。
……眠いのか?」
「ううん。ただ、あなたに甘えてるだけです」
……先に風呂に入ってきた方がいいか?」
「ふふ……。ここにいるだけで十分。それとも、くっついてたらだめですか?」
「だめじゃない。……由鶴」
「うん?」
「キスしたい」
……おれも」
ふわりと肩が軽くなり、由鶴の手が俺の顔に触れる。その手に頬を擦り寄らせれば由鶴はそっと目を細めた。
唇を重ねて、離して、また触れて、繰り返しているうちに息が切れた俺に反して、由鶴はそのまま俺の鼻や頬にちゅ、ちゅっとキスを落としていた。視線だけで不服だと訴えていれば気がついた由鶴が目を丸くする。そしてまだ呼吸の荒い俺の酸素を奪わないように笑いながら一瞬だけ唇を塞いだ。
……はぁ、あったかいな」
……?」
「逢さんといるとドキドキして、一緒にいるだけですごく温かくなるんです」
……一緒にいるだけ?」
「ふふ。うーん? できたら、一緒にいるだけよりもぎゅーってくっついていた方があったかいかも」
指を絡めて繋いでいた由鶴の手はいつのまにか俺の腰を抱いていた。鼓動を確かめるように胸がくっつき、額がこつんと重なり合う。
「逢さんってひだまりみたい」
やわらかい声がそう囁いた。……そんなの、どう考えたってこっちのセリフだろう。そっくりそのままお返ししてやる、と、そう言おうと開いた口は不意打ちのキスに塞がれる。自分だけ言って俺には言わせないつもりらしい。
「ゆづる」
「ん」
「おまえのほうが、俺にはひだまりだ」
「ふ、ふふ、わざわざキスを止めてまで?」
「おまえが言わせないからだろう」
「だって逢さんの方があたたかいから」
「は?」
「もういいですか? まだキスしたい」
「っ、こら、」
俺が強引に止めたキスをさらに強引に再開させ、由鶴は流れるように俺をソファーに押し倒した。温かい体に押し潰されて抵抗する力が抜けていく。降り注ぐひだまりの中で、体温があっという間に上がっていった。