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John
2026-02-09 22:15:00
1592文字
Public
武新
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朱砂
武新。
SAITAMAの2人。
血の表現があるため苦手な人はご注意ください。
維新都市SAITAMA、昭和勤王党本部。
その一室は絵画を趣味にする武市瑞山がアトリエのように使っていた。
今、彼は洋風なF3キャンバスに向き合い、
岩絵具
いわえのぐ
を乾いては
塗
ぬ
り重ねている。
真剣な表情で、
骨描
こつが
きを済ませたキャンバスへざらついた色を
丁寧
ていねい
に塗り伸ばす。
絵の具皿には
膠
にかわ
で絵の具になった鉱石の粉が何色も用意してある。
武市は、墨絵をよく描いた。
武市の絵の師である
絵金
えきん
は
鮮
あざ
やかな色彩の絵で有名だが、武市は墨の
濃淡
のうたん
を追求した絵をもっぱら描く。
それは岩絵具が大変高価だからでもある。
藍銅鉱
らんどうこう
、金茶石、
孔雀石
くじゃくいし
、大理石
……
場合によっては宝石として扱われる色鮮やかな石を砕き、膠によって接着力を持たせて塗る。
今の武市は西洋で画材として珍重された
瑠璃
ラピスラズリ
の粉も入手していた。
「だめだな」
しかし、武市は色味に納得いかず、絵筆を置いて目を閉じた。
画材を使い慣れていないからだろうか、いや
……
。
瞳を閉じれば、彼の目の奥へ焼きついた光景が
蘇
よみがえ
った、今描こうとしている景色でもあった。
江戸城流血開城。
あの日、新兵衛が咲かせた赤が、目に鮮やかな
辰砂
しんしゃ
の赤でも表せないのだ。
あの日、武市の絵の師、絵金の残酷絵そのものが現世に立ち現れたようだった。
辰砂は大量に用意されて、
血糊
ちのり
のように赤く絵の具皿へ満ちている。
深くどろりとした濃い
朱
しゅ
で、良い色だった。
が、田中君が無数に描いた血肉の
華
はな
には欠片も及ばない、と武市は感じる。
実際に血を使ったのではだめなのだ。
血では塗った後さして経たず
煤
すす
けた茶に変わってしまう。
血よりもなお色鮮やかに
永
なが
く赤を
留
とど
める岩絵具だが、その本物以上を使ってもなお足りないと彼には思えた。
武市は目を開いて描きかけのキャンパスを再び見る。
なんとかあの、心臓を
惹
ひ
き
掴
つか
まれて直接に
殴
なぐ
られたような、痛いほどの
情動
じょうどう
をキャンバスに描きたい、そう思い彼は再び絵筆をとる。
朱殷
しゅあん
に染まりし江戸の城、匂いと、音と。
あの赤黒い血の海に立っていた新兵衛を見たほどの衝撃が、欠片も表現できない。
描きたい、描きたい、私は描きたいのだ、
焦
こ
がれだけが武市の内で
渦巻
うずま
く。
そう、田中新兵衛は
隆々
りゅうりゅう
とした筋肉をさらけ出し、
鍛
きた
え抜かれた鋼の肉は腰から上はほとんど裸だった。
新兵衛と相対した者はみな、初太刀を受けて絶命した。
その腹も腕も
贅肉
ぜいにく
のない、
隆起
りゅうき
した筋肉が谷を作る体に、返り血が
艶
なま
めかしく
滴
したた
っていた。
あの時の田中君を、絵として表し、私は残したい。
武市は根気強く合間を見てその画題と向き合ったが、満足な完成を迎えることは、ついになかった。
時が流れ。
「チェエエエエエエエエエエエエエッ!!」
高杉、龍馬と対する新兵衛の霊基は崩壊寸前で、今や全身のそこかしこから流血している。
その命を最後の一滴まで燃やそうというのだ、武市をこの
窮地
きゅうち
から逃す、それがたとえ数時間の延命であろうと。
もはや夢破れ、武市が生き延びることになんの意味も無くとも、新兵衛は武市を救うために己の全てを
焚
く
べる。
「ストオオオオオオオオオッッッ!!!!」
埒外
らちがい
の威力を発した一撃に崩壊する勤王党本部から、カルデアの一行とともに逃げる武市の目には、輝く炎と血をまとう新兵衛の最期の姿が焼きついた。
それは、なんとも美しかった。
武市は思う。
君の
朱色
しゅいろ
は宝石でも、いや、この世の何を代わりにしても表わせないのだな、と。
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