紫呉葛
2026-02-09 20:18:25
38571文字
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【オキラス】彼岸の花をこの手に

オキラスオンリーイベントにて頒布した、火ルートif小話寄せ集めの本編

▼ 雲の上のAntares ラスティ視点
▼ 外灯照らす黒牡丹百合 オキーフ視点
▼ 蒼炎 残光未来花  C4-621視点     
▼ 天津風  ラスティ&オキーフ
▼ アセンブル



▼ 雲の上のAntares   ラスティ視点

微かに残る意識の中で聞こえた言葉があった
『それでも、生きろ』
その声が、私を繋ぎ留めていた

生き延びてしまった。
真っ先に思ったことが、それだ。
ルビコンⅢの解放を掲げて生きて、しかし、散ることを厭わずに高く飛ぶ事を望んだ。
そして落ちた。
その後の事は、この白い空間の中では何もわからなかった。
重い瞼を押し上げれば、ぼんやりと映る一面の白。
次第に焦点が合ってくると、そこは日光を弾く白の天井に蓋をされ、鈍色の鉄パイプに垂れ下がるカーテンに囲われている場所なのだと認識した。
さらさらとした布の感触が無意識に動かした末端である指先に伝わる。手繰り寄せるように数度指を軽く曲げ、ゆっくりと手に力を集中して、鉛のように重たい右腕を上げる。
光を遮るように視界に入った自分の腕に幾本もの管が繋がれている。
燭台に並ぶ蝋燭一本ずつに火を点けるように、意識上に乗る感覚が増える。
一定の間隔で届く電子音は、バイタルを明確にしているものだ。
その聴き覚えのある音に呼応するように直前の記憶をぽつりぽつりと思い出していく。
『ラスティ』と名乗り、スティールヘイズ・オルトゥスを駆けさせ、『独立傭兵レイヴン』と戦った。そして負けたのだった。
持ち上げ眺めていた己の腕を、力尽きたようにパタリと布の上に落とす。
此処はあの世では無いらしい。地獄と言うにはあまりにも静かすぎる。
どうやら生き延びてしまったらしい。
ラスティは、何処かの病院らしき場所のベッドの上にいた。
誰が此処まで連れて来てくれたのかはわからない。
何故生き永らえたのかわからない。
体も心も鉛のように重くて、それに抗う意思も無かった。
生きる目的は既に無い。
これまでこの手を散々汚し続けた。同胞の生きる場所を救う為に、その同胞を屠りさえした。そう易々と自らを終わらせることなんて許されない。
ぼんやりと天井を見上げ、目を閉じて意識を落とす。そうやって傷の癒えている体をベッドの上に乗せたままの日々を過ごした。
時々室外から聞こえてくる話し声によって、ルビコンⅢが『独立傭兵レイヴン』によって焼き尽くされたことを知った。『レイヴン』が消息不明となっている事も知った。
悲しいとも悔しいとも、この燃え尽きた心には何も響かなかった。
全てを失った。もう何も無いんだ。
このまま微睡みの中で何も成すことも無く朽ち果てるのを待つだけだ。
そう思っていた。その時までは。

『コーラル狩りの傭兵がいるらしい』

ルビコンⅢの星系から遠く離れた一つの星。
切り取られたような高い岩壁やひたすらに広い砂の荒野が大半を占める中、人が住み着き街が所々に生えた地。
その星の荒野の一角。
再利用も叶わない砂色に染まり朽ちた機体や船体が打ち捨てられ、幾つもの小さな山を築く廃材の野。
動くものは何も無く、風一つ吹きはしない。
そこに、錆が回り塗装も剥がれ、動くことだけは確実と謳われる寄せ集めパーツで構成されたACが一機、空を見上げていた。
操縦者は、ラスティ。
すっかり包帯も取れ、必要最低限の操縦装備で座席に収まっている。
彼の視線の先には機体レーダー。今乗っている機体を中心に、視認の範囲の少し先までを定期的に探索し続ける。
沈黙していたレーダーは、短く音を立てて一点の反応を点す。
背後から向かってくる、識別情報の一切を隠したAC。
岩と砂をがりがりと擦る着地の音がコックピット内に流れてくる。
武器を構えず、通信も無く、相手は距離を取って排気音を轟かせた。
ラスティの乗る機体がゆるりと振り返り相手を真正面に捉える。
「コーラルに関連する物を持つとやって来る、とは聞いていたが……どうやら本当だったようだな」
相手機体に通信を送る。
「『コーラル狩りの傭兵』……いや『独立傭兵レイヴン』」
『独立傭兵レイヴン』が搭乗する機体ローダー4に向けて。
ザイレムで戦った時と同じアセンブルとエンブレム。封鎖機構やアーキバスが現存する中で、巧妙に身を隠して行動しているらしい。
ラスティの声に、『独立傭兵レイヴン』は急に撃ってくることは無かったが返答をすることもなかった。
こちらの動きを窺っている。無警戒に銃口を真下に下げる癖は健在のようだ。
ラスティは通信を続ける。
「久しぶりだな。……君を、ずっと探していた」
やっと見つけた。やっと会えた。星を焼いた『独立傭兵』。
君が生きているという噂を聞いて、燃え殻だった私の心に火が灯った。
身体を軋ませリハビリを重ねて動きを取り戻し、血反吐を吐きながらも駆けずり回り機体を得て同じ独立傭兵の道を選んだ。
君に牙を突き立てる、その為だけに。
「一言くらい、くれても良いだろう?それとも、スティールヘイズに乗っていないと、私だと認識出来ないか?」
皮肉を飛ばしても相変わらずの無口、言葉に対する反応は滅多にくれやしない。
ならば、行動をもってリードすれば良い。
ラスティは操縦桿を握りしめる。
機体が構え、左手の近接武器レッドシフトを展開させる。
赤い光を収束させて、横薙の一閃。
赤い斬撃がローダー4に向けて飛びかかる。
ローダー4は瞬間的に炎を吹き、軽々と避けた。
廃材の山一つが吹き飛び、頂上から半分が平らになった。
ラスティが右手のバーストマシンガンで間髪入れずに攻撃する。
廃棄機体の装甲が弾け飛び、鉄板が火花を散らして大きく凹み、砂埃と金属片が乾いた音と共に舞い上がる。
クイックブーストを繰り返し続ける獲物に、まだ休ませないと言わんばかりに左肩の四連ミサイルを放つ。
「君は、まだコーラルを焼き足りないと言うのか?」
瞳をギラつかせ、低く唸るような声を投げかける。
ルビコンⅢを救う為にと全てを捧げてきた。
『独立傭兵レイヴン』によってその救いたかったモノは全て奪われてしまった。
背景を得たことによる行動なのだと、納得はしている。しかし、許すことはできない。
それでも行方が知れないままならば、灰に埋めていられた。
だが、ルビコンⅢを根こそぎ焼き殺した大罪人は、君は姿を現した。
奪われ続けて来たんだ。許せなかった。許せるものか。
――その両腕を食いちぎってやる
――その両足をへし折ってやる
――そのコアから引きずり出して
――そして……
だが、性能の低い寄せ集めの機体では、ラスティの腕を持ってしてもローダー4を追い詰めきれない。
それにラスティ自身、未だルビコンⅢにいた時の実力を出せないでいる。
確実に消耗させてはいるが、それでも余裕はあるのだろう、避けるだけでレイヴンは攻撃をしてこない。
苛立たしさに、ラスティは舌打ちすらしてしまう。
それでも撃ち続ける。元から弾薬費など気にもしていなかったが、出し惜しみした所でローダー4の足止めにすらならない。
もう一度、レッドシフトを展開する。
収束する赤い光は、
「くっ……!」
宙に霧散する。
ローダー4の放ったアサルトライフルの銃弾は、機体の右腕とレッドシフトの接続部を切断した。
ラスティの機体が身を捻りバーストマシンガンを向けるよりも速く、ローダー4はクイックブーストによる急接近そしてパルスブレードでレッドシフトを破壊した。
真っ二つにされたコーラル使用武器であるレッドシフトは、火花を元に燃え爆ぜる。
モニターを数秒間、光で埋め尽くされる。
それが引いた時には、ローダー4は腕を下げラスティの機体に背を向けていた。
それが何を意味するかに気付き、ラスティは叫ぶ。
「待て!レイヴン!!」
だが振り返ることも無く、ローダー4は背に炎を広げ空に掻き消えた。
ラスティは追わなかった。追えなかった。
思った以上に身体の方に負荷がかかってしまって、酷い発汗と息切れを起こしていた。
……また、届かないのか」
見逃された。何も答えてくれなかった。
歯がゆさに、操縦桿を強く握りしめる。
それでも、諦めるつもりは無い。
ラスティは空を睨み上げた。

一通のメッセージが入っていた。
送り主は仲介を担ってくれている情報屋。
『独立傭兵レイヴン』の情報の買い取りの返事をくれたようだ。送ってからそれほど時間が経ってもいない、その早さにも一目置いている。
傭兵業と並行しながらレイヴンの情報を求め、辿りついたのがアルフレッドと名乗る情報屋だった。
信憑性の高い情報を持っていると評判だが、実際その通りだ。何せ出会って挨拶もそこそこに《情報が欲しいのだろう?独立傭兵レイヴンと……V.Ⅲオキーフの二人分の》と言い放ったのだから。
行方不明となりながらも高額の懸賞金が掛けられているレイヴンを追っている奴は何処にでも居る。
だが、戦死扱いだが実は存命していると噂されているオキーフを探している人間はごく僅か。居るとしても表には出さない。死体ですら貴重なデータを抱えた情報媒体となる者を探していると知られれば、厄介な連中、主にアーキバスに目をつけられて、レイヴンを追うどころではなくなってしまう。
ラスティもそれを知っているからこそ極力までオキーフを探していることを隠してきたが、どうしても消せない痕跡を掴んで来たのだろう、この情報屋の収集能力と推察力は相当高いものだ。
こうもあっさり指摘されては、取り繕ったところで無意味だ。相手の人間性を信じるしかなかったし、信じるに値する人物でもあった。
まるで、何処ぞの情報部門の長官のようだとさえ思ってしまった。
《まだ情報自体は持っていないが、どちらも高くつくぞ。血眼になって探してる奴らばかりだからな。支払いの当てはあるのか?ランク外の独立傭兵》
一介の傭兵に対して心配までしてくれるときた。
「まだツテが無くてね。貴方が、良い仕事を紹介してくれないか?」
思わず笑って強請ってみた。
《良いだろう。働き次第では優先して振ってやる》
案外あっさりと承諾し、それ以来、仕事上の付き合いを続けている。
面倒見の良さも彼に似ているが、あくまで似ているだけに過ぎない。有用な情報屋を逃す訳にもいかないので追求するつもりもない。
レイヴンを追うことだけに集中したい。
………
買取りに関する文字の羅列の端に来て、視線を離す。
画面を閉じようとして、もう一通のメッセージが届いた。
次の仕事の連絡だ。
ラスティは余計な考えを遮断して機体へと向かった。

『お求めの情報が入って来たぞ』

買い出しと情報収集の為に街に来ていた。
自然の緑よりも岩と砂の方が圧倒的に多い星ではあるが、人が集まれば物も集まり彩りも生まれる。
入植船を使わずこの星にある切り出した岩と少数の持ち込んだ建材で造られた、機能重視の家や店。
星特有の香草や鉱石を取り扱う露店から何処で集めたのかわからないジャンクパーツを売るような専門の店が建ち並ぶ、根無し草達の中継地点として発達した街。
その中をラスティは小さな紙袋を片手に歩く。
素顔を晒していたところで『V.Ⅳラスティ』だと気付く者は居ない。
気付いたとしてせいぜい似ていると思われるだけだ。本人だと確証する術は無い。あるとすれば、特定の思い出話を持ち出すくらいのものだ。
周りの人間に溶け込むような足取りで、しかしその顔には微笑みすら無く。
レイヴンが立ち寄るパーツ店があるらしいと聞いて、有力とされた店を回ってみたがどれも有益な話は聞けなかった。
残りの買い物を済ませる前に軽く食事を取ろうと歩を進める。味は泥に近いが安い値段で飲めるフィーカがあると耳にしたカフェを目指して。
治安が良いとは言えない場所故に警戒はしていた。それでも予想外というものは思考を一拍抑え込んでくる。
まるで川の中に鎮座する岩を避ける水のように、他の人間たちが無意識に歩みを躱す、その中央。
男が一人、立っている。
……オキーフ……?」
ラスティは瞳を極限まで引き絞り思わずその名を声にする。
無表情で、冷たさだけを含んだ眼差しを向けてくる元同僚。
アーキバスの基地で何度も言葉を交わし合った、あの時と同じ顔で。似た姿で。
直感はこの男をオキーフだと捉えているが、まだ本人という確証は無い。
それでも、彼の生存という報せはラスティの荒んだ心に燃え広がる復讐の火を微かに揺らす風ではあった。
「貴方と話したいことがある。時間はあるだろうか?」
ラスティは数歩だけ近づき、笑みも無く声を掛ける。
逃したくはない。例え本人でなくても。
「一杯だけなら奢ってやる」
漸く男から発せられた声は、かつて彼の自室でよく聞いた言葉と声音だ。
目的地であるカフェの扉を開き進むその背にラスティも続いて行く。

石の壁の作る暗さと大きくくり抜かれて出来た窓からの明かり、そして店員一人のみという静かよりも寂れたがしっくりくる店内。
オキーフとラスティは奥の窓際の座席に向かい合って座る。
店員に注文を告げて、二人は音を潜めた。
互いを探る。表情、装い、些細な動きから。
アーキバスに居た時と殆ど変わらない、せいぜい目の下の隈が少しだけ解消された程度と言っても過言ではない。
時間が掛からず運ばれてきたフィーカがテーブルに置かれた。
先に白い湯気の立ち上るカップを手に取り、一口、喉を揺らすさまをラスティはジッと見つめる。
どうやら情報どおり泥に近い味なのだろう。真正面に座る男は微かに眉を寄せている。
「まだ『オキーフ』という人間の証拠が必要か?ラスティ」
真偽を探っているのを見兼ねたようで、カップとソーサーを小さく鳴らし、おもむろに片手を差し出してくる。
納得出来るまで探ればいいという事だろう。直に触るのも、生体情報を引き出すのも。
過去に同じやり取りをしている。あの時はベッドの上で、冗談めかしながら「こんなにも優しいなんて、貴方は、本当にオキーフなのか?」と口にした疑いに対してだ。
その骨ばった手に触れる必要は無い。このやり取りだけで充分証明された。
ラスティはかぶりを振る。
「貴方と、こうしてまたフィーカを飲めるとは、夢でも見ているのだろうか?」
オキーフに向ける。獲物を狙うギラギラした瞳を、口の端を吊り上げて。
軽口には乗ってくれないらしく、オキーフは手をカップの傍にまで引いた。
構わずラスティは本題に入る。
「単刀直入に言おう。貴方が『コーラル狩りの傭兵』、いや『ルビコンⅢを焼いた独立傭兵レイヴン』のハンドラーだと言うのは、本当か?」
傭兵の中にもお喋り好きはいるものだ。こちらからアプローチしなくても戦場でしか知りえない話を安売りしてくれる。
そこで得たのはコーラル狩りの傭兵には飼い主が着いているらしいという情報だ。
ルビコンⅢにいた頃の『レイヴン』と名乗っていた傭兵にはハンドラーが居た。そして、そのハンドラーはもう存命していない。ザイレムの上での戦いで、対峙した相手が見せた全力の強さが物語っていた。
ならば、今は別の誰かが雇い主なのだろうと考え探り、噂話の行く末に辿り着いた先がよく知る人間の名だった。
オキーフはまた一口フィーカを啜る。
その癖はまだ残っていたのか。彼は肯定の代わりにフィーカを一口飲む場合がある。
なるべく肯定したくない、か。
「それを知ってどうする」
その声音には動揺も弾みも無い。
「貴方は、私が何の為に戦っていたか、知っているはずだ」
アーキバスに身を置いた時、真っ先にラスティの偽装を暴き突きつけ、ルビコンⅢの解放を目指す者であると見抜いた。己を犠牲にすることを厭わない姿まで掴んでいた。それらを知った上で黙っておく選択をしてくれたのは、紛れもない彼だ。
復讐に染まることを予測出来ないはずがない。
煮えたぎるような怒りを、無理やり押し留める。
………
オキーフは真っ直ぐラスティを見るだけで何も言わない。
「何故、『レイヴン』と共に居る?貴方の目的は、何だ?」
問いかける声が唸り声のように低くなる。
…………
何も返してこない。
「教えてくれ、オキーフ。『レイヴン』は何処に居る?」
掴みかかりたい程の衝動が、理性の鎖を今にも引き千切らんとしている。
幾ら肌を重ね、想いを残している相手であろうとも、邪魔をするならば容赦はしない。
「ラスティ」
オキーフが、宥める時のように名を呼ぶ。
「関わるな」
その一言は、警告だ。それも、彼が出す一番重い譲歩無しの物言い。
だがそれで引き下がるわけが無い。わかった上での言葉など何の効果も持たない。
「貴方はもう第三隊長ではない。命令に従う理由はない」
普段出さない程の低い声。あくまでも答えようとしない相手に焦りと苛立ちが募る。
「ならば、俺もお前もただの他人でしかない。他人を関わらせるつもりは無い」
冷酷を思わせる目を向けられる。自己を悟らせず、相手を圧す時の彼の眼付きだ。
「以前のお前ならば、それを口にすれば不利になると判断できたはずだ。冷静さを欠いている今のお前に出せる情報も無い」
指摘されて、漸く相手に反論の余地を与えてしまっていたことに気付く。以前ならばこのような隙を意図的に利用することはあれど突かれるようなことはしなかったのに。
主導権がオキーフに握られている。だが、取り返そうにも復讐にしがみ付く中で対抗策が見つからない。
それでもと食い下がろうとして。
先にオキーフが言葉の刃を振り下ろした。
「『レイヴン』には関わるな。奴への復讐は何の意味も成さない」
確かに耳に言葉が入ってきたのに意味を上手く受け取れずにぐるぐると頭の中に回り続け、何かを言いたいのに言葉にならずに唇が僅かに揺れる。
……貴方が……それを、言うのか……?」
いつも肯定も否定もせず唯受け止めてくれていた彼に、真っ向から正論で否定された。その事実が無意識下に深く突き刺さる。
支えを奪われる危機に変換されて、吹き零れそうな怒りが寒気の如く背筋を震わせる。
手を引けと言うのか、唯一の成すべきことを捨てろと言うのか。
熱湯を流し込まれたように熱く刺すように痛む喉を締め上げながら声を絞り出す。
皮膚が軋む音を立てるほどに拳を握り締める。
オキーフは組んだ両手を膝の上に置き、身を背もたれに預ける。背筋を伸ばし、やや下げ気味の眼差しがラスティを捉える。
それは、会話で相手と対峙する時の諜報局員としての彼の姿勢だ。
「お前なら何処か別の星で安全な稼ぎ口を持ち、家庭を築いて、穏やかな余生を過ごす、そう言う生き方をすることも出来るはずだ」
諭すように淡々とオキーフが言葉をかける。それも、真正面からだ。
……それが、許されると……本気で思っているのか……?」
引き絞られたラスティの瞳が揺れる。胸の奥から炎が溢れる寸前だ。
多くの同胞を屠ってきた。
故郷を救う計画はひっくり返された。
敵わないとわかっていた、それでも超えてみせると全力を尽くした。
……もう私には……『レイヴン/復讐』しか無い」
星を守れなかった。
レイヴンに勝てなかった。
成すべきことを成せなかった。
全てを賭けてやってきたことは、この手の上に、何も残さなかった。
もう何もなかった。
生きる理由が無い。
行ける場所も無い。
「それすらも捨てて、生きろというのか……?貴方は……!」
とうとう激昂の声を上げた。
荒く息を吐き、今にも目の前の男の喉笛を噛み砕かんばかりに睨み付けて。
それを、オキーフは怯むことも憐れむこともなく、ただ何の感情も見せない凪のような眼差しを向けてくる。
「これ以上関わるのは、やめておけ」
あくまで、それ以上を語らない。
ラスティは歯を食いしばり、俯いた。握り拳から血が滲み溢れる。
平行線を辿るだけだと理解してしまった。どれだけ言葉を交わそうと、揺さぶろうとしても、お互い譲ることは無いのだと。
外の喧騒がこの窓際の陰りを微塵も気付いていないように流れてくる。
カップとソーサーが再び小さく鳴る。
オキーフはフィーカを飲み干し、二人分の代金をテーブルに置いて、立ち上がり、席から離れて行った。
それをラスティは追うことも、手を伸ばすことも、ましてや顔を上げることもしなかった。
遠ざかる足音を、扉が閉まる音を、冷めたフィーカを眺めながらただ聞くことしか出来なかった。
もう彼と肩を並べることは出来ない。
復讐に囚われ、邪魔をするならば貴方をこの手で殺すことすら厭わないと平気で思ってしまっている。
もし先に貴方のことを知ったのならば、違う道を選んで居たのだろう。
だが、もう潰えた道だ。
爪がくい込みまだ血が滴る、かつて彼と握りあったこの手が、酷く痛む。

『コーラルを狙う理由は誰も知らない。関わった奴は無事では済まなかったのだから』

復讐への道を突き進む限り、オキーフとも何処かで対峙するだろうと思っていた。
情報屋からローダー4とバレンフラワーが出撃しているという連絡を受けて、急いでラスティは機体を走らせた。
爆発の残り火が上がる兵器の残骸達が点々と転がり、道標となっている。岩の壁に隠れていた兵器工場のあるこの場所でどうやら戦闘が行われていたらしい。
状況を拾いつつ、標的を探して飛んだ。
一等大きな煙が立ち上るその場所が見えてきて、そして、ラスティは一瞬息が詰まった。
ローダー4と、その奥に、バレンフラワー。
機体反応も生体反応も二機分レーダーに表示されている。
だがバレンフラワは大破寸前の値を示している。それもパイロットに危険が差し迫る程の状態。APが尽きれば機体は爆発を引き起こす。
間に合ってくれと思わず願い、機体の限界速度を出していた。
だがローダー4はバレンフラワーに対して火力型アサルトライフルを突き付けている。
その狙う先は機体のコア、射線上にあるのはコックピット。
何をしようとしているのか、何が起きるのか、予想によって酷い震えが背筋から頭の裏まで駆け上がる。
「やめろ!!」
と声にするために口を開く方が遅かった。
人間にとっては大砲のような大きさの銃弾が、装甲を突き破り、中の物を極限まで圧縮し、コアの形を歪ませる。一拍遅れて内部パーツの損傷により破裂が起きる。煙と炎が貫通した箇所から抜け出てきた。
直前まで表示されていたバレンフラワーの機体反応及び搭乗者の生体反応は、消失した。
…………
思考が途切れ途切れになる。目の前で起きた事実を否定したいのに、理性はそれを許さない。
敵対するならこの手で仕留め、相対しないで済むならば……生きていて欲しいと願った相手は無惨にも消し飛ばされた。
ラスティの内で一本の糸がぷつりと切れた。
負荷もお構い無しに機体を更に加速させ、ローダー4に向けて突撃する。
銃を撃つその間も射線も正確だった、だが荒れた思いを見透かすようにローダー4は軽々と避けていく。
ひらりひらりと憐れむような動きに翻弄され、頭に血が上っている自覚があるのにラスティ自身歯止めが効かなくなっていた。
銃弾が尽きて、武器を投げ捨て、拳をローダー4に放つ。
それもクイックブーストで躱されて。
「くっ……!」
伸ばした右腕の関節にパルスブレードが叩き込まれた。
機体の状態を知らせる画面が吹き飛んだ部位にLOSTを表示する。それでも残った腕を更にぶつける。
今度は銃弾を入れられて肩部ごとごっそり地に落ちた。
まだ右肩のミサイルがあったが、放つことは出来なかった。
ローダー4からの強烈な蹴りを受け、コックピットが激しく揺らされる。ミサイルの誤射を無意識に避けてボタンから指を外してしまった。
直ぐに体勢を立て直そうと正面を見れば、バレンフラワーにまとわりつく火が近くにあった建物に燃え移り、爆発を始めた。
それは周りにあるタンクにも火の粉を振らせている。周囲を破裂させるまであと数分もかからない。
ローダー4は頭部をラスティの機体に、そして空に向けて、翻り、その背に炎を広げ何も言わずに飛び去った。
追いかけたいが所々から小さな爆発音が上がり、この場を離れなければ危ういのは自身の方だとラスティは漸く冷静さを取り戻す。
脚とブースターは潰されていない。それに、蹴り飛ばした位置も逃げやすい所を選んだのだろう。
レイヴンに生かされた。
もはや悔しいとさえ感じない。
殺す価値さえ無いと言われようとも、どんな手段を使ってでも君に追いついてみせる。
――私には、『レイヴン』、もう君しか残されていないんだ。
ラスティは強く強く操縦桿を握りしめた。

『本当に復讐を求めているのか?あぁ、答える必要は無い。だがお前は、何に対しても偽るのが得意だろう?』

一件のコールが入った。
ベッドに座り込み俯いて、呼び出し音が鳴るままにしていた。
数十秒、数コール、どうやら持久戦をご所望のようだ。
体が鉛のように重たく思考することすら億劫な中で端末に視線を向ければ、発信者は情報屋のアルフレッドだった。
切る選択もあったが、出なければならない気がしてラスティは通話を繋げた。
《生きていたか》
相手の第一声に対して何も返さなかった。だがそれでも相手はいつもお構い無しだ。
《お前に伝えておくことがある。情報屋は今日を持って閉店だ。お前への仲介もここ迄になる》
淡々と告げられて、ラスティは僅かに瞼を下げる。
情報を扱う者が高飛びすることは珍しくない。彼等も常に口封じや独占の為に狙ってくる連中に警戒している。そもそもこうやって連絡を送って来る事はリスクでしかない。何か目的が有るのだろう。
「貴方には随分と世話になった」
だから、先手を取る。聞き出す前に消えられては手詰まりになる。
「最後に教えてくれ……レイヴンは何処にいる?私は、あの傭兵に追いつかなければならない。本当は、情報を持っているのではないのか?」
夜空の星の音すら響きそうな静寂と共に端末からの音を待つ。
《ならば答えろ……もし奴を倒したとして、お前はその先どうするつもりだ?》
問われ、ラスティは口を噤む。
レイヴンをこの手で討ったその後のことなど、考えたことなんてなかった。
追いつけないままにずっと追いかけるだけで、それで手一杯。奪われて、失って、それでもレイヴンを目指すことで何とか生きてきた。
だから、相手の望む答えは出せない。偽ることもしたくない。
「それは、レイヴンとの戦い次第だ」
ラスティの答えを聴いたアルフレッドは、小さく息を吐いたようだ。
《それがお前の答えか。……わかった、レイヴンの居場所を教えよう》
端末にメッセージ受信の音が響き、開いて見ればそこには二つの座標が入っていた。
《向こうもお前を指名して来た。その座標にある物を使って指名地点に来いとのことだ》
簡易の地図には、倉庫と荒野が示されている。
前者には暗号を使うよう示されている。ご丁寧に倉庫の中身まで明記されて。
後者には日時が指定されている。最後のチャンスの場を用意されて。
これ程にまでお膳立てされて、憎い気持ちが振り切れ乾いた笑い声さえ零れてしまう。
《情報屋としての仕事はこれで終了だ》
この通信が切れれば、もうアルフレッドという人間との縁は終わる。
この戦いが終われば、レイヴンと名乗る仇敵と二度と会うこともないだろう。
本当に独りになる。どう転んでも復讐という原動力は失われる。
それを、アルフレッドも勘づいたのだろう、危惧したが故に未来を問うてきた。
アーキバスに居た時も一度問われた。『成すべきことを成した時、お前はどうするつもりだ?』と。
あの時も答えははぐらかした。浮かんだ理想は叶うはずもないからと現実を見て。
どうもアルフレッドと話していると、彼と共に居た時のように火の揺らめきが鎮まるような感覚になる。
もう少し話していたいが、時間切れだろう。繋げた時間の総数が裏を渡る者のリミットを告げている。
「アルフレッド、貴方には感謝している」
ラスティは別れの言葉を最後に送る。自然と微笑みを浮かべながら。
すると、相手は一呼吸の間の後に、
……お前の望むように戦え。『お前なら出来るだろう?』》
通信は切れた。
ラスティは目を見開き暫く端末を見つめる。
全く別の声、イントネーション、間の置き方。なのに、もう居ない彼の姿を重ねてしまう。
かつて言われたその言葉を反芻し、瞼を伏せた。

『これは長官命令だ。お前なら出来るだろう?ラスティ』

赤茶色の砂と石がまぶされた地、所々にそびえ立つ岩の群れが見える、荒野。
指定された地点に、指定された時間にラスティは辿り着いた。
相手の用意したナハトライアーシリーズ……機体名スティールヘイズに搭乗して。
そこには、ローダー4と登録された機体とその操縦者である『レイヴン』と名乗る傭兵が背を向けて佇んで居た。
アセンブルに変化は見られない。お互い知っている兵装で挑もうと言うのだろう。戦い方も既に見せ合っている状態だ。純粋な勝負を望んでくれているらしい。
《やぁ、『独立傭兵レイヴン』。君からの招待、心から感謝するよ》
その声音は、かつてルビコンⅢで親しげに声を掛けていた時に自然と似ていた。
ゆるりと振り返る機体を、ラスティは鋭く睨みつける。
ローダー4はスティールヘイズを正面に見据えてくる。
不要な前置きは必要無い。
《この戦いで、終わりにしよう》
ラスティの言葉に、相手からの返事は無い。
だが、その無言は了承だ。
操縦桿を握り直す。
この戦いに全力を尽くす。己の全てを賭けて。
必ず仕留める気迫が篭った瞳を向けて。
スティールヘイズの脚が、砂と石を巻き上げた。
速度300400500。
真っ向からブーストによって距離を縮める。
両手を伸ばし、バーストハンドガンを数発、合間にバーストライフルを一発放つ。
機体との距離600500400。
左にクイックブーストを行い、そのままブーストをオンにして横に避けるローダー4。
火力型アサルトライフルをスティールヘイズの軌道予測に合わせて発砲してくる。
僅かに右に逸れ、弾丸との接触をすることなく走り抜け、クイックターンからのプラズマミサイルの発射、それと同時に地上走行に切り替えるスティールヘイズ。
ローダー4が跳ね、右肩の六連装ミサイルが蓋を開いて順に中身を宙に放つ。
プラズマミサイルに六連装ミサイルが当てられて爆音が轟き、紫の電流と灰色の煙が両機の視界を遮る。
それに乗じてラスティはスティールヘイズを煙の中に飛び込ませた。
機体自体の速さに加え煙の横から出ると見せかけての急な切り返しに、さすがのローダー4も反応が僅かに及ばなかったようだ。
先の鋭い脚部の蹴りが、相手の腕部に大きな二本の傷を引く。
後退するもよろめく敵機体に、スティールヘイズが溜め終えていたバーストライフルを叩き込む。
三点バースト射撃は全て命中し、ローダー4の左腕の装甲を剥がし飛ばした。
だがローダー4も反撃を繰り出す。
右腕のアサルトライフルがスティールヘイズの脚部の端を抉り、ケーブルが剥き出しにされた。
――やはり、私にはこの機体が向いているらしい
機体の一挙手一投足が体に馴染んだ動きに合わさり狙いの正確さを上げている。
『独立傭兵レイヴン』と渡り合えている。
本気の戦いを望まれて、憎いはずなのに喜びが湧き上がったのも事実。
それでもラスティは静かな怒りを燃やし続けている。
「『独立傭兵レイヴン』……君があの日……ルビコンⅢを焼き尽くした……!」
ローダー4からのグレネードキャノンをスティールヘイズは旋回で避ける。
飛行距離を終えて背後で爆発音が鳴り響く。
距離を詰めたスティールヘイズが左腕に青白い光を迸らせる。
回転するレーザーの刃がローダー4に襲いかかるも、深いダメージを与えるまでには至らなかった。
ローダー4がパルスブレードを構え、スティールヘイズはバーストハンドガンを突きつけ。
二機のACが戦い続ける。
岩を削り、土を跳ね上げ、空薬莢が舞う。
ケーブルが切断された、装甲を深く穿ってやった、脚先がひん曲がって、ブースターの一つが音沙汰もなく。
お互いに被弾が積み重なり、残弾数も残りは多くない。
APも30パーセントを切った警告が鳴り響く。
息が切れ、汗が滴り落ち、視界がブレて、腕が重たくて。
心臓が激しく鳴っている。血が煮えたぎる。意識が吹き飛びそうになる。
だがそれがどうしたと両者撃ち合う。戦い続ける。
ラスティは口走っていた。
《何故、コーラルを焼く?》
スティールヘイズの銃弾がローダー4の腕部接合部を撃ち抜く。
《何故、私を生かした?》
ローダー4のミサイルがスティールヘイズの肩を大きく潰す。
《何故、オキーフを殺した?》
スティールヘイズの蹴りがローダー4のアサルトライフルを吹き飛ばす。
《教えてくれ》
ローダー4の拳がスティールヘイズの頭部の左側を叩き割り削る。
《私には、もう何も残っていないんだ》
胸の奥から絞り出した本音を声に乗せる。
――知りたい。
ルビコンⅢが焼かれなければならなかった理由を。
コーラルを焼き尽くす理由を。
君達が何を求めて戦い飛ぶのかを。
星を守れなかった私は他の生き方がわからない。
助けられた命を自死で失うこともできない。
だから私は君を追いかけた。頭上に飛ぶ鴉を道標とした。
わかっている。復讐という理由に逃げ甘んじているだけだと。
君と戦えば、成すに値する生きる理由を、妥当な死の理由を得られるだろうと、勝手に期待したんだ。
誰かが生きろと言った。
私には生きる理由が無い。この命の使い道がわからない。
君が、彼が、それでも生きろと望む理由がわからない。
――何も知らない。
スティールヘイズが弾丸の尽きたバーストハンドガンで殴りかかる。
避けきれなかったローダー4の右肩が断線し腕部を一段階垂らした。
殴打の衝撃でスティールヘイズの腕先が砕け飛んだ。
《何も、何も知ることも出来ないままに、しないでくれ!》
距離をとり、立つ。
スティールヘイズがレーザースライサーを起動する。
ローダー4が応えるようにパルスブレードを起動する。
「戦友!!」
地を蹴ったのは、同時。
真正面からぶつかり、青白い刃と薄緑の刃が機体の周りで混ざり合う。
僅かにスティールヘイズの方が速く、ローダー4は追う形で力を掛ける。
二色の光が駆け抜け、宙に掻き消えて。
お互いに後方に一歩離れて着地した。
スティールヘイズのコアが裂け、火花を散らしている。
………
ローダー4は炎を灯し煙を上げる。
そして、片膝を地に着けた。
コアから光が漏れ出て、爆発を引き起こし出した。
赤く煌めく炎に包まれ、剥き出しになったケーブルが白い電流の筋を弾けさせて。
片膝を地に着ける。頭部を、上半身を、前屈みに傾かせ少し沈み込んだ機体は完全に動きを止めた。
スティールヘイズは半分光を失った青緑色のセンサーアイを向ける。
レーダーの表示から赤い点が消えた。
『独立傭兵レイヴン』を討った。
何一つ答えをくれないまま。
オキーフは先に行ってしまった。
独りになった。

これが、燃え残った者の結末だ。

END  



▼ 外灯照らす黒牡丹百合   オキーフ視点

これは懺悔だ
全ての業を背負っていく
その道のりにすぎない

この狼は、運が良い。
ルビコンⅢがレイヴンの火に巻かれる直前、バレンフラワーは大破した新型機体――登録機体名スティールヘイズ・オルトゥスをレーダーに捉えた。
搭乗者が誰なのかを知った上で、火より先に拾い上げた。

独立傭兵レイヴンによってロックスミスが落とされ、V.Ⅰフロイトの生体反応も消失した。
アーキバスの敗北は、その知らせが決定打となった。
V.Ⅱスネイル率いる部隊の通信も途絶えた今、バスキュラープラントに進路を取る恒星間入植船ザイレムの阻止に出撃していた全部隊の指揮権はV.Ⅲオキーフに移された。
寄せられた各部隊からの報告、そしてザイレムの進行状況により、作戦続行不可の判断を余儀なくされる。
オキーフは迷うことなく直ちにザイレム及びルビコンⅢからの撤退を指示した。
一人でも多く、少しでも遠くに離れ、失うモノを減らせと。アイビスの火の情報を持っているからこそ、既に大量のコーラルを溜め込んでいるバスキュラープラントに火が点いた場合の規模は計り知れない。
艦隊やMT達が離脱に走る中、バレンフラワーは別方向に駆け抜ける。
中間圏を越え、熱圏へ。カーマン・ラインよりはまだ下の域。
独自に走らせていたレーダー網に所属不明ACの反応が乗った。
場所はザイレムの通過した地点。
得ている情報が確かならば、あれには解放戦線のACパイロットが乗っているはずだ。それも、短期間で乗りこなせるほどの腕の立つ人間。思い当たる人物が一人居る。
生体反応は……離れすぎていてまだ掴めない。
アサルトブーストを起動して距離を縮める。
飛散し漂う金属片の流星を潜り抜け、漸く目標の機体を見つけた。
星に引かれ落下しつつ、しかし残っていたオートパイロット機能が途切れ途切れの炎で落ちる速度を緩めている。
受け止めたその新型機体は既にまともに戦える形はしていない。自力飛行も今停止した。
アクセスを掛けて機体から情報を引き込む。パイロットのバイタルを率先して。
表示された結果に、オキーフが僅かに瞳を引き絞った。
まだ助かる見込みがある。
この場では応急処置が出来ない、牴牾しいがコアの外は宇宙空間だ。急いで艦の一つにでも乗り込む方が適切。
一人の人間の命を救うため、というのであればその行動が最善ではある。
だが、この機体のパイロットをと言うのであれば、助けるべきかは別だ。
何の為に、何を賭けて戦って来たのかを間近で見てきた。この男がどういう人間であるかを知っていた。
――これは、最悪な選択なのだろう
バレンフラワーは両手の武器を投げ捨て、新型機体を掴み直し、アサルトブーストを起動する。
脚部とコアの接続部付近にあるブースターに青白い光の粒が収束し、一気に爆炎を吹く。
ザイレムと、それと共に進む独立傭兵レイヴンはコーラルを焼こうとしている。あのコーラルが密集している地帯を狙って。
此処から距離はあるが、このまま最速で星を出たところで無事で済むかはわからない。
それでもカーマン・ラインに駆け上がり、最大までENを保ったまま外気圏に突入する。
少しでも星の外へ。
「それでも、生きろ」と願いながら。
やはり、この狼は運が良かった。
幸運が重なり。
二人揃って火から逃げ切った。
此奴は一命を取り留めた。

比較的治安が良く、医療も安定して受けられる星に行き着き、新型機体のパイロットであり嘗てのV.Ⅳであるラスティを病院に放り込んだ。
傷は癒えたが目を覚まさない彼を見守り続けた。
彼が意識を取り戻したと聞いて、顔も合わせることなく離れた。
如何せん、もうヴェスパー部隊もルビコンⅢでの出来事を直接知るアーキバスの関係者も、オキーフだけになってしまったのだ。
貴重な情報持ちになったがために四方八方から追っ手がかかる。
一人ならばどうとでもできる。撹乱し翻弄し返り討ちにすることも。触れられたくないモノから遠ざけることも。
ラスティの傍には居られない。
彼を病室に、何処かの星に残して、遠くへ。
定期的に連絡を受け取り、彼の様子は聴いていた。
食事も薬も碌に取らない、と。
ぼんやりと天井を眺めてばかりだ、と。
リハビリに取り組みだした、と。
生きる気力を取り戻してくれた事に安堵はしたが、その切っ掛けが判明したのは、ラスティが病院から忽然と姿を消した後だった。
『独立傭兵レイヴン』のことを知って、彼奴は動き出した。

やはり、追わずにはいられない、か

『独立傭兵レイヴン』と呼ばれた人間は此処に居る。
オキーフの管理の下、子飼いの傭兵として。
別の星を転々としながら、時に逃げ、時に追う生活。
追っ手は企業だけではなかった。同じく生き残ったオールマインドもまた刺客を送ってくるようになっていた。
何処かに潜み、コーラルリリースを再度試みようとしているのだろう。ルビコンⅢで失敗した前科を持ちながらも嘗ての賛同者であり裏切り者を未だに狙ってくるならば、その理由が妥当だ。
逃走とリリース計画阻止を続けながら情報屋を営むオキーフだったが、集めた情報の中で妙な噂が入ってきた。
旧世代型強化人間やコーラル関連のパーツを狙って襲ってくるACが居る、と。
独立傭兵に賞金が懸けられることは珍しくない、パーツからコーラルを取り出すことを目論む輩も存在するだろう。大抵金絡みだ。
しかしオキーフには別の可能性を持つに至る過去がある。星を焼く大火の生き残りという事実がある。
噂のACに襲撃されたとされる傭兵達の情報を洗い出し、懸賞首に該当しない者や中和手術記録を持つ者が含まれることやコーラル関連のパーツを確実に破壊していることが判明した。ルビコンⅢを焼いた張本人の確率が高いとの結論を出す。
そして、遠からず接触することになるだろう。
旧世代型強化人間手術で付与された脳内コーラルを中和すべく新世代型の手術を受けた。だが中和は完全とはならず、未だに片目の視界が赤い波に染まることがある。
あの傭兵相手に戦いともなれば勝ち目は薄い。
バレンフラワーには過酷な飛行を強いたが故に、一度は廃棄の判断を下す寸前になるほど操作を受け付けなかった。修理を重ね、流通しているパーツ性能と同じくらいには可動できるくらいに戻したが、頭部の性能は明らかに落ちている。
逃げに徹した方が手堅い。
それでも、オキーフは接触することを選んだ。
『独立傭兵レイヴン』と真正面から対峙した。
バレンフラワーに視線を向けるローダー4は、煤と砂と傷に塗れ迷彩のようになっている。手入れどころか禄な修理も出来ていないのだろう。切れたケーブルをロープで雑に括り付けた箇所や装甲を無理やり叩きつけて平らにしようとした部分が見受けられる。
新たな飼い主の情報は出てこず、雇ったことが有るという人間もほとんど居ない。まともな生活も送っているか怪しく、精神状態がどこまで安定しているかわからない。会話より先に武器を撃つことの方が大いにあり得る。
オキーフは可能性に賭けた。話を持ちかけた。
「お前一人でコーラルを全て焼くつもりか?」
ローダー4からの反応は無い。
相手との通信回線は繋がってはいるが、物音を拾うことができない。
此奴も隙を伺い狙いを定める時は息を潜めるタイプか。油断はならない。
「オーバーシアーとしてか?それとも……
バレンフラワーの視界越しに、ローダー4を見る。
どう出る?燃え残りに火を点けた独立傭兵。
「お前の飼い主の依頼か?」
武器を構える様子は無く、ただ佇んでいる。
どうやら聴く意思を持ってはくれたようだ。
こちらの機体名と搭乗者情報を送る。一度も接触したことの無い名の知らない奴が相手では警戒も解けないだろう。
送ってもやはり反応は無いのでオキーフは話を続けた。
「コーラルにはもう一つの危険性がある。そして、それを利用しようとする者の計画はオーバーシアーも見逃すには値しない内容だろう」
コーラルリリース計画、その概要と危惧する内容を嘘偽りなく話した。
オーバーシアーが知っていたとは考えにくい計画だ。『独立傭兵レイヴン』の飼い主だったハンドラー・ウォルターやザイレムを起動したシンダー・カーラの二人を中心に調べたが、計画に触れた形跡が無い。
現在、ルビコンⅢは既に廃星ではあるが、焼ける前に持ち出されたコーラルはまだ存在する。それを元にコーラル武器も製造され在庫がある兵器工場も存在する。
次はそれを使おうとオールマインドが動いている。オキーフとしてはそれを見逃せない。
「こちらとしては、リリース計画が阻止出来るのであればコーラルの除外も厭わない。お前がコーラルの完全排除を目的とするならば、利害は一致するのではないか?」
淡々と語る中、ローダー4の頭部中央のレンズはバレンフラワーを映していた。
オキーフには、見極められているという感覚がずっと突き刺さっていた。慣れた感覚。交渉の時は常に纏わりつくものである。
最後の一手を送る。
「一人でやるには限度がある。こちらは戦力不足だ。情報屋としてコーラルの情報を提供できる。『独立傭兵レイヴン』、いや『C4-621』、お前は……協力する気はないか?」
オキーフは口を閉ざして返事を待つ。
あの傭兵は寡黙な人物だ、と言うのはかつての同僚の談。
果たして、弾丸が飛んでくるのか、動作で示してくれるのか。
繋がっている通信から、幾ばくかの雑音が入ってくる。電源を久方ぶりに入れたかのようなくぐもった音だ。
…………
確かに聞こえたのは、声。
《あんた、が、俺の、ハ、ンドラーに、なるの、か?》
拙い機械音声がバレンフラワーの中に届いた。『C4-621』からの応答だ。
オキーフは再教育の時のC4-621とハンドラー・ウォルターのことを知っている。
モニター越しに見た。何度もハンドラーを呼ぶその姿が、時折猟犬の名を零す様子が、記憶に残っている。
「お前が必要ならば」
ローダー4から感じていた圧が消えた。
わかっ、た。よ、ろしく、ハンドラー》

そうして、オキーフはC4-621のハンドラーとなった。
オキーフが依頼を取ってきて与え、ミッション中はオペレーターとして補佐をする。
C4-621は破壊も護衛も卒なく達成してくる。対AC戦ともなれば、この傭兵を超えるものは早々出ては来ないだろう。オキーフを狙うオールマインドからの刺客も軽くあしらうように撃破している。
それにコーラルを感知する嗅覚が日に日に鋭くなっている。解析より先にコーラルの存在を言い当て、そして一つ残らず手に掛けた。
そうやってある程度上手くやっている。
ウォルターと機体とコーラル以外にほとんど興味を示さないC4-621に、オキーフがハンドラーとして以上に世話を焼くことも含んだ上で。

贅沢な人選だ、と笑いたくもなる

その日、また一つ、コーラル武器を破壊した。
「目標は達成した。帰投しろC4-621」
離れた場所からモニターに映し出される状況を元に、オキーフは指示を出す。
帰還経路を飛行する様子を映す画面を視界に入れつつ、敵性反応が無いかを確認する。
≪ハンドラー、コーラル反応がある≫
C4-621から通信が入った。
オキーフの方では観測出来ない、だがこの猟犬が言うのならばハズレではないだろう。
「どの方向からだ?」
示された方向にレーダーを合わせる。
モニター上に、機影と登録情報が表示される。
「ACが一機。所属不明か」
流れるように表示される情報にはアセンブルも表示される。どうやら、コーラル武器を持っているようだ。
≪排除する?≫
相手を消してしまう方が早いが、武器の入手先を知っておきたい。旧世代型でないならば無闇に殺す必要もない。情報を得るためにも生かしておくのが無難だろう。
「接敵後、武器の出所の解析にあたるしばらく時間を稼げ」
≪了解≫

C4-621から視認した機体の情報を受け取る。
所属不明のその一機からローダー4に届いた声は、ラスティのものだった。
彼の機体にコーラル武器が装着されている。購入先を問いただすことは無理だろう。尋問するには相手が悪すぎる。
それ以外からはコーラルは無いとC4-621は言う。
外部から読み取れる型番などの情報を解析に掛け、漸く結果が出る。判断を下す。
「武器の破壊だけをしろ。相手は、殺す必要は無い」
オキーフが淡々と指示する。
≪わかった≫
C4-621が無機質な返答をする。

ラスティの機体の武器だけを破壊して、ローダー4はその場を去った。
それを、知らないフリしてオキーフは見届ける。
通信は全て聞いていた。
情報屋である限り、腕の立つ奴や派手に動き回る奴等は知る機会が増える。
逆手を取って『独立傭兵レイヴン』が近くを通る情報を彼の耳に届くようにと根回しもしていた。
人当たりの良さで言葉を引き出すのが上手い彼なら、遠ざけようとしても自力で辿り着き、C4-621と接触するのは確実だろう。
機体の状況からして、分はC4-621の方にある。ラスティの機体を破壊したとして一度失われた程度で諦めてくれるならば復讐を支えに生きることも出来ないだろう。
なるべく接触しないよう調整してきたが、それも今日までだ。
オキーフは一つ息を吐いた。

「普通の人生」とは、俺達には無縁の生き方の事だ。

人目の無い岩壁に囲まれた場所に、拠点としている小型の星間移動用トレーラーを置いている。
機体二機分の格納庫を連結させて、星と星を移動して、人間の生活域の有る星に一時的に滞在、暫く其処で傭兵業を営む。そういう暮らしをオキーフとC4-621は続けていた。
その日は街に出る。物資補給だ。
C4-621はジャンク屋に行きたいと言う。
いつものパーツ漁りかと思いつつ、何処に行きたいか聞いておく。C4-621の迎えに行く場所と時間を決めるためだ。
漸く普通に動けるくらいに回復したとは言え、元は冷凍保存されていた旧世代型の強化人間、加減をしなければまた倒れる羽目になる。
C4-621が示した場所を指し示し、オキーフは私用に支障は無さそうだと、思いながら、許可を出した。

街に出て、合流地点を改めて確認し、お互い目的の場所に向かう。
誘導は既に掛けている。ある程度の範囲を示せば自ずと行く先を絞ると見込んで。
髪型と服装を普段とは少し変えている。アーキバスにいた時に近いものにして。
ほんの小さな要素でもあればすぐに気付くだろう。追っている獲物の一つともあれば。
――二度と目の前に現れるつもりはなかったんだがな
見つけて、足を止めて、ほんの数秒だけ注視した。
人の往来はオキーフを避けて行く。その流れの中でもはっきりとその男の姿が見えていた。
こちらに気付き足を止め、瞳を引き絞り、その微かに動いた唇が「オキーフ」と紡いだのが見えた。
――本当にお前なんだな、ラスティ
前触れも無く直接会うことで揺さぶりを掛けられると踏んでいた。『オキーフ』の生存情報も探っていたくらいなのだから。
そして、相手の瞳が揺れたのを見た。どうやら、まだ『俺』という存在に有効性は残っているようだ。
ラスティの方から言葉をかけてきた。以前のような笑みは無い。
「貴方と話したいことがある。時間はあるだろうか?」
彼が進めた歩みによって、お互いに腕を伸ばせば届く距離。その手足が、いつでも地を蹴り掴みかかれる用意をしている。自然なまでに軸の安定した構えを姿勢に忍ばせている。この人混みの中でも追跡し、道を誤れば逃してはくれないだろう。
「一杯だけなら奢ってやる」
逃げないと示すように、扉を押してカフェに入る。

来る者に極力関わらないことが長続きのモットーと言わんばかりにこちらをちらりと横目で見ただけの店員以外誰も居ない静かなカフェ。
オキーフが入り、ラスティが着いていく。
奥の窓際の二人席に、向かい合って座った。
静かに寄ってきた店員にフィーカを頼むと、それに続いてラスティも同じ物をと続ける。
店員が離れ、二人きり。
お互い口を閉ざしたまま、探るように視線を送る。
オキーフはラスティの顔色を見た。
少々の白さはあるが血色は良い。抱えていた紙袋を見るに、どうやら、ある程度の生活はできているようだ。
機体の操作からも、彼の体はアーキバスに居た頃に近いところまで回復している。
その点には安堵している。
笑顔が無いのは、仕方ない。
彼の眼は、真正面の獲物を推し量っている。
半信半疑と言ったところか。『オキーフ』を模倣する別人か、彼自身が見ている幻覚という可能性を考えているのだろう。
思考を遮るように、注文したフィーカが運ばれてきた。
安い値段で飲めるが故に、泥と形容したい部分には毎回目を瞑っている。此処以外でまともなフィーカを取り扱っている店は無い。
一口喉に流し込めば、やはり泥だと評したくなる。
だがそれも、今回で最後なのだろう。
人が飲む様を見つめている男に、そろそろ先を進めるとしよう。本来『ラスティ』と会うために来たのだ。
「まだ『オキーフ』という人間の証拠が必要か?ラスティ」
カップをソーサーに一度戻す。
そして手のひらを上向きに、左手を前に差し出す。
手に触れさせようとするのは二回目だ。これで納得できるのならば構わない、そしてお前は理解した上で拒むだろう。
その予想通り、ラスティは頭を横に振って断った。
「貴方とこうしてまたフィーカを飲めるとは、夢でも見ているのだろうか?」
期待に添えられない。これは夢ではない。
オキーフはその冗談には乗らず、手をカップの傍にまで引いた。
本題に入ろう。
先手はラスティからだった。
「単刀直入に言おう。貴方が『コーラル狩りの傭兵』、いや『ルビコンⅢを焼いた独立傭兵レイヴン』のハンドラーだと言うのは、本当か?」
その情報を提示した覚えはない。ならば、他のルートから得たのだろう。特定されないようにと痕跡を消してはきたが、勘の良い傭兵達の目は誤魔化せなかったか。
オキーフは回答の前に一口フィーカを飲んだ。
彼の中では殆ど答えは出ている。即答する必要は無い。
それに、この仕草の意味も覚えているだろう。否定的な肯定と受け取るだろう。
「それを知ってどうする」
カップを置いて、答えを置いて。
「貴方は、私が何の為に戦っていたか、知っているはずだ」
知っている。ラスティが何を求め、どれだけ多くのモノを捧げて来たのかを。
共にアーキバスに所属している間に一番近くで見てきた。時に手助けすることもあった。
………
ラスティの目を見つめる。今の彼は復讐こそが命綱。
「何故、『レイヴン』と共に居る?貴方の目的は、何だ?」
此奴の元にある情報は『レイヴンがコーラルに火を付けようとしている。それによりルビコンⅢに甚大な被害がもたらされるだろう』というあの日『誰か』が流したものだけなのだろう。コーラル自体の危険性は理解していない、と見るのが妥当なようだ。
ならば、リリース計画の事も知らずに済んでいるのだろう。今の彼の目に嘘は見られない。
まだ、ラスティは努めて静かに尋ねてきている。
…………
コーラルのことも、『レイヴン』C4-621との目的も、知らないのならばその方が良い。関わればこの男の場合さらに苦しむことにしかならない。
俺にできる選択は限られている。
「教えてくれ、オキーフ。『レイヴン』は何処に居る?」
ラスティの睨みが強くなる。
まるで今にもこの首に牙を突き立てて来そうだ。
だが、ラスティに踏み込ませるわけにはいかない。
「ラスティ」
変わらぬ眼差しで名を呼ぶ、しかし、ラスティが怒りに染めた瞳を揺らすことはなかった。
「関わるな」
この一言は、最後の警告だ。
「貴方はもう第三隊長ではない。命令に従う理由はない」
ラスティは降りる気は無い。
「ならば、俺もお前もただの他人でしかない。他人を関わらせるつもりは無い」
これで引き下がってくれるのならばどれだけ良かっただろうか。だが、簡単な奴ではないからこそ、直接赴き対峙しようと決めたのだ。
『レイヴン』に執着する状態ならばそれを利用してこちらの流れに乗せるまで。
「以前のお前ならば、それを口にすれば不利になると判断できたはずだ。冷静さを欠いている今のお前に出せる情報も無い」
自覚し尚も食い下がろうとするラスティを突き放す一手を打つ。
「『レイヴン』には関わるな。その復讐は何の意味も成さない」
一人分の呼吸の音が、一瞬止まった。
……貴方が……それを、言うのか……?」
今まで聞いたことのない、悲痛さを含んだ声をラスティが出した。
生憎と痛む心は持ち合わせていなかった。
彼を少しでも此方から引き離すために、追撃する。
「お前なら何処か別の星で安全な稼ぎ口を持ち、家庭を築いて、穏やかな余生を過ごす、そう言う生き方をすることも出来るはずだ」
ありきたりな普通の人生を提示する。彼が選ばないであろう選択肢を敢えて。情報を提示すれば加味する奴だと知っている。今は、選ばなくても構わない。
……それが、許されると……本気で思っているのか……?」
ラスティの揺れる瞳を、沈黙の中で真っ向から見据える。
オキーフとて重々承知だ。どれだけ己の手を汚してきたことか。
その事実を突き付け、目の前の獣を追い込む。
……もう私には、……『レイヴン/復讐』しか無い」
今更お前を咎める者が何処にいると言う。
ラスティには贖罪すべき相手はもう存在しないのだ。
何もかもを捨てて、自分のために生きる自由がある。
「それすらも捨てて、生きろというのか……?貴方は……!」
やっと、俺に吠えてくれたな。それで良い。俺はお前の敵で良い。
お前はこれ以上背負う必要は無い。
これは俺のエゴだ。お前だけは『人間』として、真っ当な人生に進んで欲しいと願ってしまった。
「これ以上関わるのは、やめておけ」
彼の求める先に自分が居ないのは望ましい事である。
ラスティが俯く。それ以上踏み込むことが出来ないと理解してくれたのだろう。
お前のその手の血を拭うことも出来ない『俺』のことなぞ唾棄して忘れてしまえ。
次を紡げない目の前の男を視界に捉えつつ、残りのフィーカを飲み干す。
宣告通り、二人分の代金をテーブルに置いて席を立った。
ラスティは追ってはこなかった。
人混みに紛れて誰にも追跡させないように、歩く。

未来を定めてしまった俺達と違って、まだお前は未来を選べるのだから

「最後のブリーフィングを開始する」
ハンドラーであるオキーフが、傭兵であるC4-621に言い渡す。
「ミッションは二つ。一つは最後のコーラル武器所有施設の破壊」
お互いの目的はもう少しで達成する。
オキーフはコーラルリリース計画の完全阻止。
C4-621はコーラルの絶滅。
既にオールマインドは排除した。
不眠の種だったものは、彼女を敵と認識した鴉があっという間に飲み込んだ。実に呆気ないものだった。
ルビコンⅢの外にあるコーラルをかき集め、リリース計画の再始動を目論んでいた彼女の持つデータを手に入れて、合間に痕跡を辿り得たハンドラー・ウォルターやオーバーシアー達の持っていた情報も組み合わせて、コーラルに関する大きなデータは把握済み。
それからは早かった。
オキーフが情報を元に道を示し、C4-621が狩りをする。
施設を、武器を、強化人間を、悉く屠って来た。
そうやって今日まで生きた。
「もう一つは、最後の旧世代型強化人間の排除」
第二世代であるオキーフと第四世代であるC4-621。二人はコーラルを使用した強化人間の旧世代型。
オキーフは中和手術を受けたが、それでもコーラルは足掻くように残った。視界から消えない赤に心底うんざりしたものだ。
コーラルを全て焼く。それは自分達自身も含んでいる。
ハンドラーと専属傭兵の契約をする時に決めていた、覆ることのなかった条件。
……お前は」
オキーフはC4-621に問おうとして、しかし一度口を閉ざした。
無意味な質問だ。聞かずとも答えは分かっている。
C4-621は視線だけをオキーフに向けている。疑問も無く急かすこともせず、静かに次を待っている。
どうせこれが最後だからと、人間らしく無駄なことをする。
「人のまま生きる気は無いのか?」
今のC4-621は、己の意志で道を選んでいる。
叩き起こされた独立傭兵として唯周りに流されるだけの猟犬、ルビコンⅢを焼いた後の自身の生存を蔑ろにしてコーラルを追っていた狩人、そのどちらでもなくなった。
この『人間』自身の言葉が聴きたかった。
秒針だけが音もなく先を行く。
C4-621は真っ直ぐオキーフを見上げる。
口を動かした。機械音声ではなく、己の声で言葉を紡ぐ。
音声装置を使わないその声は、向き合わないと聴き取れない。瞼を極力動かさず、オキーフは感覚を澄ます。
C4-621が言葉を言い終えて、オキーフは一度目を閉じた。
「元よりそのつもりだったな」
オキーフは一度、再手術を受けないのか尋ねてはいた。だがC4-621は選ばなかった。
コーラルを焼くには、旧型でないと見つけられないから、と。
リリース計画の候補者に挙がる程の適性を持った旧世代型だからこそ、その赤を捉えられる。
残り香でも感知するほど感覚が鋭いらしく、中和で薄まったはずのオキーフのコーラルですら視えていたと言う。
揺るぎない意志に敬服を。
〔頼みたいことがある〕
C4-621が機械音声を入れた。
オキーフにしか出来ないことだから、生きている今のうちに、と。
「了解した」
全てを聞き届けて。
C4-621が少しだけ目元を緩めた。まるで嬉しそうに。
オキーフは目を細めた。まるで諦めたように。
「以上をもってブリーフィングを終了する」

〈あんたには残っていない〉

手放して行く。
資料を、拠点を、経歴を。
切らなければならないものがまだ残っていた。
偽りの身分を切らなければならない。
そうして通信を入れた。
相手の気持ちは変わらないようで、小さく息を吐くように「……そうか」と呟きを零して。
それがお前の選んだ道ならばと餞別を贈る。
見届けられない結末を託す。
『戦え』と送り出す。

締めはC4-621に任せた。
後はオキーフのオペレート無しでも奴はやり遂げられるはずだ。
仕上げに入る。
「強化人間、V.Ⅲ オキーフを殺せ」と。
まだ正確な死亡報告が無く追っ手も多い厄介者だ。はっきりと喪失の情報を流して憂いを晴らす。
これで良いんだ。
瞳に火を映して。

ローダー4がバレンフラワーを撃破する。

舞台は整えた。
もう俺に、してやれることは無い。
全く、うんざりする役回りだ。
人間として生きていいはずの連中が、それを捨ててでも戦おうとするのだから 。

座席に身を預け。
祈るように組んだ手を膝の上に降ろして。
切り取られた外を眺めた。

END



▼ 蒼炎 残光未来花   C4-621視点

これを君が見ている時
俺は全てを焼くことが出来たのだろう
知りたいと言った君に
言葉の代わりに此の花を

『621 最後の仕事の時間だ』

『すべて/ルビコンⅢ』に火を点けた。
引き受けた依頼として。俺の意思で。
『友』を倒して、火が溢れて。それからどうやって此処まで来たのか覚えていない。
これからどうすれば良いのか分からなくて。
赤い光がまだ残っているのが見えて、まだ俺の仕事は終わっていないのだと気付いて、機体を動かしていた。
ウォルター、俺は、火を点けます。コーラルを焼きます。
赤い光を追って戦って、時々友人を思い出して真似て依頼を拾って、傭兵として戦って。
壊れた所は自分で直した。カーラやチャティがやっていたみたいに。繋ぐだけなら出来るようになったんだ。
そうして今まで過ごしていたら、ある日、アリーナで見たことのある機体が現れた。
中から薄っすらコーラルの赤が見えたから、壊さなければならないと思った。
《お前一人でコーラルを全て焼くつもりか?》
勝手に繋げられた通信から、知らない人の声が届いた。
何故コーラルを焼いている事を知っているのだろう?と疑問は浮かんだが、浮かんだだけだった。排除しなければという意思は動かなかった。
《オーバーシアーとしてか?それとも……
この人は、カーラ達の事を知っているようだ。
C4-621はローダー4の銃口を向けようとしていた腕の操作を取り止める。
知っている単語が、意識を届けられる音声に留めていく。
《お前の飼い主の依頼か?》
「飼い主」と言われて、ウォルターのことが脳裏に浮かんだ。
そうだよ。ウォルターの依頼だ。それを俺は引き受けた。
何故それを知っている?彼は、何を言おうとしている?
送られてきた情報。機体名バレンフラワー、搭乗者オキーフ。元アーキバスのヴェスパー部隊の隊長。
ラスティと同じ所属の人だ。そう認識した瞬間、ザイレムの上での戦いが、写真のスライドのように脳裏を流れていった。
オキーフは話しを続ける。
《コーラルにはもう一つの危険性がある。そして、それを利用しようする者の計画はオーバーシアーも見逃すには値しない内容だろう》
彼は理解できる言葉を使い、聴き取れる速度で話してくれた。
コーラルリリース計画と言うモノのことを、コーラルがどういう使われ方をされようとしているかを。
そして、彼が何をしたいのかを。
《こちらとしては、リリース計画が阻止出来るのであればコーラルの除外も厭わない。お前がコーラルの完全排除を目的とするならば、利害は一致するのではないか?》
そうなのかな?そうかも?今の俺にはそれが正しいのか判断できない。
コーラルを持っているから焼く対象であることには変わりない、相手は強い人だと勘が告げているから動けるうちに倒してしまいたい、だが、それが今なのかを考えた方が良いのではないか?という思考にたどり着く。
殺気は無い。だけど、なんだか近寄りにくい。敵か味方か。倒すか倒さないか。
決まらなくて。
漠然と、相手は必要な何かを持っている気がして。
だから、オキーフの次の言葉を待つ。
《一人でやるには限度がある。こちらは戦力不足だ。情報屋としてコーラルの情報を提供できる。『独立傭兵レイヴン』、いや『C4-621』、お前は……協力する気はないか?》
『C4-621』『621』、かつてハンドラーが呼びかけてくる時に使っていた名称。俺の名前。
ウォルターと共にいた時のことを思い出す。ハンドラーが仕事を取ってきて情報をくれて、『621』が戦った。そうやって、ウォルターはコーラルに辿り着いた。
起こされる前の記憶も記録も無い『621』には、それが過去の全てだった。
同じようにすれば、ウォルターの依頼を果たせる気がする。
オキーフは何も言わず、答えを待ってくれている。
通信は彼が繋げてくれているから、声を出せば会話が出来る筈だ。
再手術で取得していた機械音声の装置を起動させるが、殆ど使っていなかったが故に操作方法にもたついてしまう。
声の出し方はどうだったかと己の腹や喉をあれやこれやと動かし模索して。
…………
やっと、一音発声できた。
〔あんた、が、俺の、ハ、ンドラーに、なるの、か?〕
音程も区切りも速度も疎らな言葉。上手く伝わっただろうか?
《お前が必要ならば》
ハンドラーになってくれると彼は答えた。
だからまだ焼かなくていい人。これから戦う為の道を示してくれる人だと認識する。
わかっ、た。よ、ろしく、ハンドラー〕
C4-621はオキーフの専属傭兵となった。
バレンフラワーのパイロット、いや、俺のハンドラーとなった人は、初めて顔を合わせた時、俺の過ごし方を聞いてきて、そして、変な顔をしていた。

「生活の基礎指導から必要か……まだ暫くはまともに眠れんな」

ローダー4が出撃していた。
任務は依頼内容で指定されたACの撃破。コーラル武器も所持しているとのこと。
《周辺の迎撃装置はこちらで遮断した。正面800の距離に標的が居る。撃破に向かえ》
オキーフが離れた場所でサポートを担う。
C4-621はそれに従い機体を走らせる。
レーダーに敵機体を捕捉した。そこからは、早い。
ブーストを維持したまま右手を突き出す。
アサルトライフルから数弾、機体の前を駆けるそれらが先手を取って敵機体のコアにダメージを叩き込む。
どうやら相手は迎撃を選んだようで、ローダー4に向けてミサイルを繰り出す。
真っ向少し上方から迫ってくる実弾ミサイル十本を、減速することなく前進することで全て回避するローダー4。
急接近からのバズーカを叩き込み、スタッガーさせて、総攻撃。
敵機体はコーラル武器ごと爆炎を上げ、レーダーには敵を示す赤色が消えた。
《目標は達成した。帰投しろC4-621》
オキーフからの通信が入る。どうやら引き受けた依頼もコーラルの排除も達成できたらしい。
ローダー4を拠点の方角へと飛ばす。
不意に、漂う赤い色が見えた。
〔ハンドラー、コーラル反応がある〕
オキーフへ通信を送る。
《どの方向からだ?》
大まかな方角を伝える。距離はC4-621にも分からない。レーダーに機体情報が無いということは、範囲外かもしくは生身か。
こういう場合は、ハンドラーの調査に任せるしかない。彼の広域レーダーならば更に広い範囲の索敵が可能だ。
《ACが一機。所属不明か》
ハンドラーの反応からは相手が味方では無い雰囲気がある。
〔排除する?〕
判断はハンドラーに委ねる。今後の作戦の為に生かすか殺すかは彼の考えに任せている。実行はこの猟犬の仕事だ。
《接敵後、武器の出所の解析にあたるしばらく時間を稼げ》
届いた指示に従う。
〔了解〕
ローダー4が赤い軌跡を辿って行く。

廃材置き場にACが一機。
ザっと見たC4-621は、コーラルは左手の武器だけに集中している。それ以外には無いとオキーフに知らせた。
背を向けていたその機体は、振り返り、ローダー4を見据えて、そして聞き覚えのある声を送ってくる。
《コーラルに関連する物を持つとやって来る、とは聞いていたが……どうやら本当だったようだな》
ルビコンⅢで何度も聞いた声。
カーラが覚えておいてやれと言った相手。
《『コーラル狩りの傭兵』……いや『独立傭兵レイヴン』》
機体のパイロットは、ラスティだ。
彼が生きていると理解して、ザイレムの上で戦った時のように胸の奥が熱くなった。
それが感情ということをC4-621は分かってはいない。
《久しぶりだな。……君を、ずっと探していた》
届く声にまるで銃口を向けられているような鋭さがある。それに対して、怯むことも悲しむことも無く、ただ漠然と敵視されているとだけ感じながらC4-621はオキーフの指示を待つ。
《一言くらい、くれても良いだろう?それとも、スティールヘイズに乗っていないと、私だと認識出来ないか?》
ラスティの言葉に返すだけの言葉が思いつかず思考も追いつかず、沈黙する。
機体に乗って戦う、それだけに特化させているので感情などの思考は極端に遅い。だが、ラスティの機体が左手の武器に赤い光を収束させ、放った一閃に対して難なく回避することはできる。
バーストマシンガンの弾丸が向かって来る。それも即座に反応し躱す。
まだハンドラーからの指示は無い。
今のハンドラーに絶対的に従っている訳ではない。己の感覚に沿って戦う選択は出来る、はずなのに。何故か銃口を向けようと言う意思が湧かない。
四連ミサイルが飛んできたのに。ラスティは壊しにかかって来ているのに。
《君は、まだコーラルを焼き足りないと言うのか?》
焼き足りない、ではなく、焼かなければならない。だが、それをラスティに伝えるべきではないとC4-621の思考は判断する。
『これは友人からの……
どうして今ウォルターの言っていたことを思い出したのだろう?と浮かんだ疑問を、入り込んできた通信が遮った。
オキーフからだった。
《武器の破壊だけをしろ。相手は、殺す必要は無い》
それは今までやったことの無かった戦い方。だけど、そうしたいと思えた指示。
〔わかった〕
と機械の声でハンドラーに返事する。
避けながらも動きは見ていた。ラスティの乗っているあの機体は、彼の操作と噛み合っていない。武器を破壊するのはそこまで難しくないだろう。
それに、今の彼はなんだかとても窮屈そうだ。ルビコンⅢに居た時は、もっと自由な感じだった。
もう一度、ラスティの機体がレッドシフトを展開している。
今度は、打たせる前に、ローダー4が銃を放った。
アサルトライフルの銃弾でレッドシフトの接続部を切断する。
ローダー4を駆けさせ、パルスブレードを起動、そのまま対象である武器に叩き込み破壊する。
爆ぜる赤い光が宙に霧散した。高音域の音がした。
背後にはまだ他の武器を持ったラスティの機体が居る。
だが、ハンドラーから帰投命令が出た。
C4-621は、ローダー4の背に炎を灯して飛び立った。

「『戦友』とは何か……か。……なるほど……ならば彼奴は……。こちらの独り言だ、気にするな。……良いだろう、この調整が終わり次第教える時間を取る。他にも知りたいことがあるなら全て言え」

コーラルに対しての嗅覚が強くなった。赤い光が見え、独特の匂いがして、表現の難しい音がするようになった。
彼らの傍に近かったモノ、特にルビコンⅢに在った物はコーラルの光が染み付いている。
ジャンクパーツ屋に行けば、星が焼ける前に持ち出されたであろう品に出会う。
その中で、最初は偶然、だけど、見つけるたびに買ったパーツがある。傭兵の仕事の報酬を注ぎ込んで、一式揃いきったのがつい先日。
破損が大きいが、極力修理という形で依頼を掛けていた。
メッセージが届いていた。機体の修理が完了したと。
灰を被り解体されて頭部だけとなったスティールヘイズを見た時に、『彼』はまだ飛ぶのだろうと思った。
だから、誰かの元に渡り砕かれる前に買い取った。残り香だけの赤い光は小さな火で掃えた。吹き飛んだままの腕は新しい腕を繋げてもらった。
『彼』をどうするかなんて決めていなかった。集めなきゃと思って掻き集めていた。
だけど、ラスティともう一度会えて、オキーフに色々聞いて、どうするのかが決まった。
そろそろ迎えに行かなければ。
オキーフが街に行くようだから、近くまで連れて行ってもらおう。
他にも買いたい物がある。だけど、俺は買い方がわからない。そして、それはオキーフには知られたくない。
敢えて、行くジャンク屋を増やしておいた。店と店の間に行きたい場所がある。
大丈夫。この場所なら、接触しない。

「お前にはまだ機能が残っている。ゆっくりで良い。お前が認識できるものを真似ていけ」

「最後のブリーフィングを開始する」
ハンドラーであるオキーフが言葉を掛ける。
「ミッションは二つ。一つは最後のコーラル武器所有施設の破壊」
もうすぐ、終わる。
「もう一つは、最後の旧世代型強化人間の排除」
自分を焼くことを決めていた。
彼を焼くかを見極めてきた。
……お前は」
オキーフは言うのを止めた。
続きを聴きたくて、彼の目を見た。
「人のまま生きる気は無いのか?」
彼が雇い主となってから、知った事や出来る事が増えた。
彼はウォルターとは全然違う。なのに、似ている何かを持っていると感じていた。それはわからないままで、わかることも無いのだろう。
自分の声で答えたいと思った。だから機械音声を入れず、口を開く。
どれだけ空気を出し入れしても、音にはならなかった。
それでも伝える。彼も聴いてくれている。
〈俺は、コーラルに火をつける。燃え残った全てに。その為だけに生きてきた。それは変わらない〉
ウォルターの望みを叶える為だけにこの命を燃やしてきた。
〈ハンドラー、俺は依頼を遂行する〉
C4-621は事実を伝えた。
オキーフが少し苦そうに目を細める。
「元よりそのつもりだったな」
その声が、なんだか重たそうだった。
……あんたがハンドラーで、良かった〉
ウォルターとは違う。けど、彼が居なければきっと燃え残った全てに火を点けることはできなかっただろう。
機体から降りれば、ベッドの上で複数本の管と繋がったままの生活。
幾度もコーラルを浴びた結果、脳の中のコーラルが体の中で増殖と侵食を始めた。
再手術しても、手遅れだ。
それで良いと思った。ウォルターの依頼を果たすためには必要なモノだから。
〔頼みたいことがある〕
目を開けたオキーフにデータを転送する。
スティールヘイズの入った倉庫の画像と座標と地図。
〔別の名前で誰かと話していたのは知っている〕
オキーフが黙り込んだ。驚いただろうか。
〔相手はラスティだろう?〕
観念したように、オキーフが一つ頷いた。
〔全力でやるには、これがいい〕
ラスティとの最後の決戦を望む。それを、彼も気付いてくれた。
日時は最後の破壊の時と合わせて決めてくれると言ってくれた。
「了解した」
俺はそれが嬉しかった。
オキーフは目を細めた気がする。
「以上をもってブリーフィングを終了する。」

〈さようなら、ハンドラー〉
「やり遂げろ、C4-621」

コーラル武器を所有していた最後の兵器工場を襲撃した。
ローダー4が先陣を切り、バレンフラワーが援護する。
制圧に時間はかからなかった。もう此処には二人の乗る二機しか動く者は居ない。
《始めるぞ》
バレンフラワーが四本の脚を地に着けた。

『V.Ⅲオキーフ及びバレンフラワーの排除』
それが完了すれば、残るコーラルはC4-621だけだ。
バレンフラワーは今回の出撃が限界だってオキーフが言っていた。
頭部が壊れてしまったって。オールマインドとの繋がりを切る為に無理したんだって。
贅沢な人選で最後にしたいって。
『V.Ⅲオキーフ』も生きたままだから、殺しておいてくれって。このままだと、ずっと探し回る人達がいるんだって。
レーダーに機体反応。搭乗者はラスティ。機体は前と同じものだ。
彼には証人になってもらうって、オキーフが呼ぶ用意をした。
予めバレンフラワーのAPは削っている。あと一撃も耐えられない。
撃てとの合図が届いた。
コアに機体の銃口を突きつける。コックピットはこの位置。
撃った。
機体にとっては小さい、人間にとっては大きい穴が開いた。
ジェネレーターがショートして、火が回る。爆発が起きる。
四脚の姿勢が崩れる。
レーダーからも、バレンフラワーとオキーフの表示が消えた。
ラスティの機体が銃を撃ってきた。
避ける。沢山撃ってきたけど、銃を捨てて殴ろうとしてきたけど、全部避けた。
ラスティ、退いて。此処はそろそろ危ない。
避けるだけでは止まってくれないから、戦いの意思を削ごうと相手機体の腕を落とす。
攻撃すれば止まってくれるかと思ったけど、ダメだ、その前に工場が爆発する。
蹴って弾き飛ばす方が早い。
大きな炎が上る。バレンフラワーも燃えて行く。ラスティは生きてる。
後は大丈夫だって。
視界が赤くぼやけている。少し動きすぎた。
帰投を……

スティールヘイズの機動を確認した。
もう大丈夫、君は飛べる。
間に合って良かった。
ハンドラーには君のことを頼んでいる。
君にはラスティの事を頼む。
次に会うのは戦場だ。
またその時まで。

障害物の少ない場所。この辺りが良いと大まかに地図で示し、ハンドラーが戦いの舞台を揃えてくれた。
背後から接近する一つの機体反応。
機体名はスティールヘイズ。搭乗者はラスティ。
オキーフに託した物をラスティは受け取ってくれたのだ。
《やぁ、『独立傭兵レイヴン』。君からの招待、心から感謝するよ》
届いた声音は、ザイレムの上で聞いた時に似ていると思った。
ゆっくりとローダー4を振り返らせる。
C4-621は何も言わない。ただただこの戦いだけに全てを向ける。
《この戦いで、終わりにしよう》
ラスティもわかってくれている。
スティールヘイズが真っ直ぐ向かって来る。
バーストハンドガンと合間のバーストライフルの銃弾がコアと腕を狙って飛んでくる。
クイックブーストで避けて、ブーストをオンにしてローダー4を走行させる。
火力型アサルトライフルを放つが、スティールヘイズは逸れることで躱して来る。
プラズマミサイルに対して六連装ミサイルで迎撃を狙う。スティールヘイズが地上走行に切り替えたのが見えた。
彼はおそらく、煙を壁にして横から仕掛けて来るだろう。
だが、違った。
煙の中を突っ切っての蹴り……回避しきれない。
着地点が良くなかった。岩を踏んで機体が少し傾いた。
左腕の装甲が剥がされた。
前の機体と動きが格段に違う。やっぱりラスティにはスティールヘイズが合っている。
《『独立傭兵レイヴン』……君があの日……ルビコンⅢを焼き尽くした……!》
彼が俺に怒っているのはわかる。だけど、今俺は彼とこうして戦えて嬉しい。
グレネードキャノンは当たらなかった。
レーザースライサーが掠った。
装甲が削れる。弾丸が飛ぶ。
楽しい。
視界を、意識を、赤い光が埋め尽くそうとしている。
まだだよ。俺は、ラスティと、戦う。
《何故、コーラルを焼く?》
依頼を受けたから。
《何故、私を生かした?》
死んで欲しくないと思ったから。
《何故、オキーフを殺した?》
必要だったから。
《教えてくれ》
それは出来ない。
《私には、もう何も残ってないんだ》
俺はもう、戦う、ことしか、できない。
《何も、何も知ることも出来ないままに、しないでくれ!》
応える。
スティールヘイズがレーザースライサーを起動した。
ローダー4がパルスブレードを起動する。
「戦友!!」
ラスティの声にC4-621は目を見開く。
呼吸が止まり、手が止まり、なのに意識は赤を払い除け澄み渡る。
それは瞬きよりも短い間の停止だった。
確かにスティールヘイズに刃は届いた。
そして、ローダー4にも刃は届いた。
勝った。スティールヘイズが。ラスティが。
………
モニターは見えない。アラートは聞こえない。
だが、接続されたケーブルから、もうローダー4は戦えないのだと伝わってくる。
コックピット内に火が回る。

俺には『友』が居た。
ハッキングが得意だったり、人工知能だったり、武器を作るのが得意だったり。様々だ。
その人達から教わったことがある。
俺は『友』について知った。
そう呼ばれる意味を、俺のハンドラーの代わりになってくれた人が答えてくれた。
俺ができることをずっと考えてきた。

焼ける指を意地で伸ばす。
モニターが操作を受領する。

君は、まだ『戦友』って言ってくれるんだ。
ありがとう、ラスティ。俺を友と呼んでくれて。
だから、君に託そう。君なら飛べる。

機械の発声装置は壊れたけど、まだ『声帯』が残っている。
燃え尽きる前に全てを振り絞った。
「はし、れ!」

遠く飛び去る影が、帷の降りる視界の最後。
「終わったよ、ハンドラー・ウォルター」

END



「あの時、『友』と言ってくれた君へ」



▼ 天津風   ラスティ&オキーフ視点

走れ
届いたのは友の言葉
思考より先に手が動き、機体は応えフルスロットル

ラスティは見つめていた。
炎に包まれ赤い輝きを立ち昇らせるローダー4を。
かつて戦友と呼んだ相手と命を懸けた戦いは身も心も燃やし尽くし、確かに相手よりも高く飛ぶことができた。
だが、終わってみれば、残ったのは灰色の心だけだった。
この火が消えれば、もう何も残らない。
守りたかったモノも、追いつきたかったモノも、知りたかったモノも、何も。
モニターが機体も生体も反応を失ったことを示した。
炎が爆ぜる音がする。
ラスティに瞳には、モニター越しの揺らめく火をぼんやりと映るだけだった。

メッセージを受信した音が響く。
緩慢な動きで視線を向け、指が吸い寄せられるように開封を押す。
届いた一通のメッセージ。送り主はC4-621。
其処にはコックピットのシートの横を示す画像。
何かあるのだろうかと手を伸ばす。右肩に近い位置の、座席のクッション素材とそれを固定する金属部分の隙間、指を差し込めば挟み込まれただけのその箇所の奥に硬い物体が挟まれていた。
引っ張り出すと、それはカードくらいの大きさの電子端末。
電源を押せばすんなり明かりが点り、表示された三つの情報。
座標とチケットとカウントダウン。
座標の位置は列車の駅。
何故こんなものを?とラスティは訝しむ。
カウントダウンは回り始めている。おそらくこの時間内に座標地点に辿り着く必要があるのだろう。だが表示位置はかなり遠い。
スティールヘイズで最速を出せれば、このカウント内に間に合うだろうと反射的に計算してしまう。
ラスティは俯く。
それでも、動く気にはならなかった。
今更追求したところで何の意味がある。
私は高く飛んだことによって燃え尽きたのだ。
………
通信の繋がる音がした。
ザリザリと電波が乱れるノイズが鳴る。パチパチと火が弾ける音がする。
あぁ、これはローダー4との通信だ。機体がまだ機能を失いきっていないようだ。
まるで足掻くように。
なんだ、まだ燃やし足りないのか、君は。
皮肉のつもりだった。
だが、ラスティは弾かれたように顔を上げた。
燃える音の中で確かに届いた言葉。
《はし、れ!》
戦友の、声を受け取った。
心臓が強く打つ。視界が一気に澄み渡る。
燃え尽きたものばかりに埋もれ気付けていなかった。
機体を、端末を、贈ってくれたのは誰でもない君だと言うのに。
君はいつも、戦うことで答えてくれていたと言うのに。
「はははは!」
その瞬間、笑いが込み上げてきた。
戦友、君は、私に火をつけるのか。
まだ私の前を飛ぶのか。
そして、越えろと言うのか。
下がっていた口角が、釣り上がる。
「君から託されたんだ。成し遂げてみせるさ!」
目の下を一度拭って、操縦桿を握りしめる。
スティールヘイズがローダー4に背を向ける。
ブースターに光の粒を収束させる。
足先が砂を巻き上げた。
炎の尾を引き、地平線のその上へ。

戦いの傷は思ったよりも深かった。
まともに受ける風で発生する大きな振動はコックピットにも響いてくる。
スティールヘイズの様々な部位が悲鳴を上げている。
ラスティ自身も全力の戦いで体力をかなり消耗してしまっている。
額から汗が幾重にも流れ落ち、肺の痛みも治まりそうに無い。
それでも、最大速度で空を翔ける。
戦友は限りなく以前のスティールヘイズに戻してくれていた。
手に馴染む操縦桿は大破しかけていると言うのに細かな動きをスティールヘイズに伝え、機体はあの頃に近い速度を叩き出してくれている。
カウントダウン以内に追い付くことが出来なければ、本当に全てを失う。その感覚に突き動かされている。
戦友が繋いでくれたものを、此処で途絶えさせたくない。その感情に背を押されている。
辿り着いた先に何が待っているのかはわからない。だが考えるのは後だ。今は、飛ぶことだけに集中する。
バキンッと嫌な音が聞こえた。おそらく、脚部のパーツの一部が風圧に負けて折れたのだろう。被弾していたはずだったから。
修復されたとはいえ脆くなっているスティールヘイズ。
機動を重視された機体ではあるが、フォルムが崩れれば風の掴み方も狂ってしまう。
腕部が落ちた。脚部が取れた。コアの装甲の一部が落下した。
モニター表示はひび割れた視界以外は既に使い物にならない。
警告が鳴り響く、今すぐ脱出しろ、と。
頭痛がする、視界が狭まる、耳鳴りがする。
それでも、走る。
もう少し。
もう少しだけ、共に飛んでくれ、スティールヘイズ。
コックピット内の電光画面が一つまた一つと消えていく。
それでも、視界モニターだけは、端を削りながらも映し出してくれている。
あと少しの距離でとうとうスティールヘイズが落ちた。
うつ伏せの姿勢で岩の地を長く長く滑る。地に深く大きな轍を付ける。
運が良く、守り抜いてくれたように、コアの扉は塞がれる事無く開閉も手動で行えた。
コックピットを開けて、ラスティは端末を握りしめ、振り向かず、駆け出す。

カウントダウンが迫る。
辿り着いたのは大きな街。
人を掻き分けて、駅に向かう。
其処にあるのは列車。
端末を使って改札を突っ切る。車両が見えた。
ドアを閉じる警告のベルが鳴り響く。
重たい脚を、それでも前に前にと出し続ける。
開閉を担うドアのモーターが稼働する音がする。
一番近い車両の一番近い扉に、駆け込もうとして。
手を伸ばす。
だが、もう扉は動き出して。
一歩足りない、間に合わない。
それでも指先をその先へ。
「!?」
腕を引っ張られて閉まるギリギリで車内に引き込まれた。
「無茶をする!」
ラスティの目の前に、オキーフが居た。

星間移動シャトルの駅に向かうための列車。
その座席にオキーフは居た。その身一つで。
C4-621は確かにオキーフと言う『存在』を殺した。
もう動くことの出来ないバレンフラワーのコックピットに収まっていたのは、コーラルの中和が行き届かなかったオキーフの右の眼球。改造と接続を施して生体反応を偽る装置として使った。
追って来る者を完全に断ち切るために。
C4-621曰く、オキーフは再度受けた中和手術によってコーラルは殆ど除去されたらしい。目を取り除いた後は、確かに視界が赤く染まることも無くなった。
オキーフはC4-621を雇う際に一つの条件を提示していた。もしコーラル侵食の可能性が無くなれば、生きてオーバーシアーを引き継ぐと。
燃やしきれたのはあくまでハンドラー・ウォルター達とオールマインドが持っていたコーラルの情報だけに過ぎない。
恐らくその情報の範囲内が、C4-621がコーラルの侵食に耐えていられる限界だろうと判断した。実際バレンフラワーを葬った頃には、戦闘か睡眠かだけの生活になっていた。
コーラルは、過去にルビコンⅢの外に持ち出されたことがある。この広い宇宙の何処かにそれらが残存していないとは言い切れない。
残りの人生を全てオーバーシアーとして、コーラルを探索・監視することに捧げる。
一度はリリース計画に加担した、その行いの贖罪の為に。『人間』を奪わせない為に。
オキーフという名も過去も捨てて、その役割に命を費やす。
誰でも無い一人の人間が、星を出るところだった。
ラスティとC4-621の戦いの結果を知ることは出来ない。
彼らが悔いの無い戦いを遂げる事を祈るしかできない。
もし、ラスティが生き残ったのならば……何にも囚われずに生きて欲しい。
病院から抜け出したと知ったあと、結局放っておけずに探し出した。偽りの名『アルフレッド』という情報屋として接して、仕事まで斡旋して。
全くを以て、己のどこまでも酷い有り様にうんざりする。
何気なく窓の外に視線を向けた。
ホームには見送る者や次の列車を待つ者達がちらほらいる。
奥から走って来ている者もいる。あれは間に合わないだろう。そう思ったが、その人間に視線が止まる。
何故彼奴が此処にいる?生き延びる可能性はあった、だが此処を突き止められるのは想定外だ。一体どうやって……まさか、あの傭兵の『頼む』という意味は。
関わらせるべきではない。お前の未来に居るべきでは無いからと、突き放し続けた。
そのはずなのに。
オキーフは思わず席を立ち、ドアの方へと駆け足で向かった。

崩れ落ちそうになるラスティを、オキーフは片腕で抱えるように受け止め支える。
反射的に、オキーフの肩にラスティは掴まれていない方の手を掛けた。
すれ違うように、お互いの顔を確かに見た。間違いなく彼だった。
「っ……はっはぁ貴方の、おかげで……間に合った、ようだ……
肩を大きく揺らして荒い息を続けるラスティが無理やり言葉を紡ぎ出す。
オキーフは口を閉ざしてラスティを見下ろしていた。
……私は……結局、生き方を……見つけられなかった……
見届けた炎は生きろとしか示さなかった。
この手からは多くのモノが零れ落ちてばかりだ。
……貴方が、私を……拒む理由は、想像がつく」
眉頭を寄せ、目を細め、オキーフはラスティの紡ぐ言葉を聞き入る。
引き寄せずにいられなかったその手を掴んだまま。
「貴方と戦友が、何を成そうとしていたのか、私は、知らない。……関わることで、悪い結末になるかもしれない……だが、それでも……
ラスティは、声を絞り出す。
「頼む、共に居させてくれ。もう手の届かない場所で、大切なモノを失いたくは無い……!」
生きることで苦しみが長引いた、失う経験ばかりを積んだ。
自ら死を選べず、だが、相手からは死を貰うこともできず。
最も自由に飛べる位置を望んだ。
………
それが、お前の本音か、ラスティ。
これが、お前の頼みか、C4-621。
オキーフはゆっくりと口を開いた。
「もう二度と他の生き方を選ぶことは出来ない。その覚悟があるか?」
ラスティが顔を上げる。
見上げれば、片目の男が真っ直ぐ視線を向けて来ている。
普通の人生を提示した。まだ引き返せる。
だが、許されないから選べないとはもう思っていない。
「もちろんだ」
ラスティが、口の端を吊り上げて、鋭さを込めた眼差しを向けて答える。
オキーフが、かつて長官として接してきた時と同じ、『同僚』に向ける表情で綴る。
「良いだろう。ならば、全てを話してやる。この列車が着いても終わらんだろう」
その言葉に、ラスティは笑顔を浮かべる。
「それは、退屈しなくて済みそうだ」

ラスティはオキーフの隣の座席を選んだ。
二人を乗せた列車が走り出す。

END



▼ アセンブル
ローダー4

右手:RF-025 SCUDDER
左手:HI-32:BU-TT/A
右肩:BML-G2/P03MLT-06
左肩:SONGBIRDS

頭部:HC-2000 FINDER EYE
コア:CC-2000 ORBITER
腕部:AC-2000 TOOL ARM
脚部:2C-2000 CRAWLER

ブースター:BST-G2/P06SPD
FCS:FCS-G2/P05
ジェネレーター:AG-E-013 YABA


ラスティ 寄せ集め機体

右手:MA-J-201 RANSETSU-AR
左手: IA-C01W7:ML-REDSHIFT
右肩:なし
左肩:BML-G1/P20MLT-04

頭部:AH-J-124/RC JAILBREAK
コア:AC-J-120/RC JAILBREAK
腕:AA-J-123/RC JAILBREAK
脚:AL-J-121/RC JAILBREAK

ブースター:AB-J-137 KIKAKU
FCS:FCS-G1/P01
ジェネレーター:VP-20S