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2026-02-08 22:08:22
5850文字
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燭鶴「世話焼き」

三日月さん←の世話を焼いている鶴さん←の世話を焼いている光忠くんという図の燭鶴+三日月さん。付き合ってる二人が本丸で二人でほかの誰かと仲良くしてるのが見たくて。この三日月さんは付き合ってる燭鶴のこと「仲が良い😉」と思ってる。微笑ましい程度に焼きもち焼いたりしています。
私が書く話に出てくる燭鶴以外の男士はみんな二人のことを「二人は仲良いね〜」とあたたかく眺めてるポジションなのでそれ以上でもそれ以下でもないよ(伝われ)!でもあらゆるカップリングを否定しません
あとうっすら審神者の気配アリ

 文机の上の記録帳をめくっていた光忠は、おや、と時間を確認した。
 この時間から近侍の光忠は審神者の代理として、教育番長である鶴丸の報告と今後の方針についての連絡を聞くことになっていた、のだが、時間になったのに彼が姿を現さないのであった。

 鶴丸国永という刀は確かに自由奔放な側面が人柄の中にある――光忠は恋仲であるのでそれをとてもよく分かっている――けれど、こうした報告や軍議といった公的なことについてはかなり几帳面なタイプだ。だからこういうとき、彼のほうが先に相手を待っていることが多いくらいで、つまり、今日はとてもめずらしい。

 何かあっただろうか?呼びに――探しに行くかどうするか光忠が少し考えはじめたところで、勢いよく部屋の障子戸が開いた。

「うぉい!すまん!遅れた!」

 走ってきたらしい鶴丸が髪をやや乱しながら部屋に入ってきて光忠のそばに慌ただしく腰を下ろしたので、光忠は微笑んだ。

「大丈夫だよ、後に押す予定もないし」
「そうか、すまんな」

 走ってきたことで暑くなったのか、鶴丸は手団扇で胸元を扇いでいる。光忠は手を伸ばして彼の乱れた髪を整えてやった。

「いや、ちょっと言い訳させてもらっていいか」
「僕は言い訳しなくてもいいと思うけど……、あ、いや、えっと――、聞かせてもらおう、かな?」

 光忠としては本当に何も言い訳する必要はないと思ったのだけれど――実際、時間に遅れたといってもそこまで遅れてはいないし、光忠は何も困ったり不快になったりしていないので――、鶴丸が喋りたそうだったので、聞く態勢にシフトした。

「あのお月さんがな、」
「三日月さん?あれ、主と一緒に例会に行くってことじゃなかった?」

 この報告を光忠が審神者の代わりに受けているのは、この時間、審神者が「例会」とやらに出発するくらいの頃合いだからだった。その付き添いに三日月宗近が指名されていたはずである。

「いや、そうだ。それであいつは式典用の背広を着ることになっていただろう?そのネクタイが結べないから、結んでくれと、また俺に頼ってきて」
「そうなんだ。鶴さん、このあいだネクタイの結び方、三日月さんに教えたって言ってなかった?」
「教えたさ。だが俺が教えた普通の結び方では嫌なんだと。主の前で格好つけたいから、複雑な結び方がいいと言って聞かないんだ、あのこだわりの強いお月さんは」

 格好つけたいから複雑な結び方がいい、というくだりを三日月の口調を真似して再現した鶴丸は、やれやれ、と言いたげに机に頬杖をついている。
 光忠は、あの三日月宗近にも格好をつけたい、という気持ちがあるんだなと思って微笑ましく聞いていた。まぁ、確かに、この本丸の審神者は三日月宗近という刀(刀剣男士というよりは刀そのもの)をとっても綺麗だといつも褒めちぎっているので、その賞賛に恥じぬよう格好つけたくなるのかもしれない。

「それで、結んであげてたら時間がかかっちゃったんだね」
「そういうわけだ。だいたい、なんで俺なんだ?もっとネクタイを結ばせる適任がいるだろう!お前は頼みやすいとか言っていつも俺のところにやってくるが」
「あはは、そうだね。ていうか、鶴さん、複雑なネクタイの結び方できるんだ、いつもしてないのに」

 光忠がなんとなしに指摘すると、彼はなんとなく決まりが悪そうに視線を逸らし、たっぷり時間をかけて視線をこちらに戻した。

……、練習したんだよ。まだ手本を見ながらでしか結べないが、そのうちきみのネクタイを結んでやろうと思った。それを三日月で実践することになるとは」
「えっ、そうだったんだ!いいなぁ、僕も鶴さんにネクタイ結んでもらいたい」
「だが、まぁ、さっき三日月に結んでみて思ったのは、あの結びは光坊に似合わない気がするな。普段きみがよそ行きのときにしている結びが一番似合うんだろう。そっちを練習しておく」

 光忠が普段よそ行きのときにしている結び方はエルドリッジノットと呼ばれるものだが、鶴丸が練習したのは違う結び方だったようだ。なんだろう。クロスノットとか、トリニティノットとかだろうか。手本を見ながら彼が練習している様子を思うと、とても微笑ましい。

「ふふ、ありがとう。あ、でも、さっき鶴さんに結んでほしいなって言ったけど、プレッシャーに思う必要はないからね。僕はしてもらうより、してあげたいほうだから」

 こちらの言葉に鶴丸はやわらかく微笑んで、きみは相変わらず世話を焼くのが好きだな、と言った。

「うん、僕はね、これは趣味みたいなものだよ。でも、そうか、そうだね、鶴さんは誰かのお世話をするのが趣味ってわけじゃないだろうから、三日月さんのお世話をするのが嫌なんだったら、手を出さなくてもいいんじゃないかな」
「いや?別に嫌なわけじゃないぜ。ただ毎回、どうもあいつが抜けすぎているというか、ぼんやりしているというか、そのくせこだわりが強いところとか、そういうのに呆れているだけだ」
「あはは、そうだよね、鶴さんは三日月さんにやれやれって言ってるときいつも楽しそうだよ」

 光忠の指摘に鶴丸はとても微妙な顔をして――図星だったのだろうか――、肩をすくめた。

……、まぁ、楽しいかどうかはともかく、だ。人に頼るのはまぁ、悪いことじゃない」
「そうだね、僕としては自分でできるようになるのもいいこととは思うけど」

 光忠は少し考えながら言った。というのは、もし、三日月宗近という人が「格好良くありたい」と思っているとするなら、多少のことは自立してできたほうがその理想に近づくんじゃないのかと思ったからだった。

「自分で?いやいや、いいんだ、あいつはこれ以上何かをできるようになる必要はない」
……?」
「いいかい、光坊、月ってのは、ただそこにあるだけでいいんだ。何かを成したり、誰かを助けたり、そういうことをする必要はない。ただそこにあって、いろんなやつらの憧れや、祈りや、願い、そういった想いを鷹揚に受け止めて反射していればいい。ただそこに明るく輝いている、それだけでいいのさ」

 光忠は彼の言葉に感心して、そして、そのとおりだ、と思った。
 三日月が姿を見せる場はいつもなんだか穏やかで明るい雰囲気が満ちているし、審神者の(やや過度な)賞賛にもいつも自然体で相手をしている。積極的に低練度の者に稽古をつけるほうではないが助言を求められれば的確なことを言うので、そういった点で尊敬されてもいる。

「ま、そういうわけでお月さんはただそこにいればいいんだが、ただそこにいるだけじゃ、周りから遠巻きに見られているだけのようできっと寂しいだろう?だから、たまに俺みたいなのが世話を焼いたりして干渉してやるのさ。月に手が届くと思って手を伸ばそうとする大胆なやつが一人ぐらいはいないとな」

 鶴丸はしたり顔でそんなことを言って、悪戯っぽく笑った。なんだか、月を盗もうとしている大胆な大泥棒のようだった。

「そっか、……

 光忠は相槌を打って、曖昧に笑った。

「なんか、嫉妬しちゃいそうだな、僕」
「光坊が?きみが嫉妬する必要はないだろう。きみもまた一つの灯し火だ。その点では月と同じ枠組みにある」
「そうかなぁ、灯し火と月じゃ、月のほうがやっぱりすごいと思うけど。月は鶴さんに手を伸ばしてもらえるし」
「はは、月にはただ手を伸ばしているだけさ。道を共に歩むのは手元にある灯し火だからな。ま、要するに、俺には光坊ってことだ」

 自信をなくすな、と伸ばされた鶴丸の手のひらで頭をぽんと叩かれて光忠は苦笑した。

「えぇ……、なんか煙に巻かれた気がする、……

 まぁ、でも、いいや、と光忠は肩をすくめて笑った。嫉妬しちゃいそうだな、なんて言ったけれど、それはちょっとおちゃらけてみただけだから。

「しかし、今思ったが、月に伸ばされる手は多いほうがいいかもな。光坊も今度タイミングがあえば三日月の世話を焼いてやってくれ。いつでも俺がどうにかできるとは限らないからな」
「うん、それはもちろん。三日月さんが嫌じゃなかったら」
「あいつは誰が相手でも嫌なんて言わないぜ。ただ声をかけやすいのが俺っていうだけだ」

 やれやれ、と鶴丸はまた楽しそうに笑っている。こうやって呆れながらも彼が楽しそうなのを、あの月は知っているのだろうか。知らないような気がする。だから、教えてあげたい、と光忠は思った。しかし、もうしばらくのあいだはこのことを秘密にしておきたいとも思う。ちょっとだけ大人げないかもしれない。

「っと、余計な話をしすぎた。このあいだの催し物での出陣における部隊員の成長率についての報告だったな」
「うん、じゃあ、僕たちのお仕事をしますか。第一部隊の話から聞かせてもらえる?」


■■■


 その日の夕食の片付けを終えて部屋に戻ろうとしていた光忠は、廊下をふらふらと歩いてくる三日月の姿を捉えた。例会から帰ってきていたようだ。

「あぁ、三日月さん、おかえりなさい。お疲れさ――、えっと、どういう、状況?」
「おぉ、燭台切、これを見てくれるか。行きしなに鶴丸に襟締めを難しく結んでもらったんだが、解き方がわからん。やればやるほど首が締まる」

 三日月がふらふらしていたのは胸元のネクタイを解こうと格闘しながら歩いていたかららしい。実際、彼の首はかなり絞まっている。窒息するのではないか?もう少し慌ててほしい。平然としすぎている。

「うん、ちょっと待って、僕が解くよ。手を離して、そう、あっ、下を向かないで、解きにくいから」

 光忠は固く締まった結び目を丁寧に解いて、するりと三日月の首元からネクタイを抜いた。

「うん、かなり息がしやすくなった」
「ネクタイに首絞められてる人初めて見たよ、僕、……

 大丈夫?と光忠はついでに三日月のシャツのボタンもいくらか外してやった。

「ははは、燭台切はよく気がつく」
「性分ってやつだよ」
「そうか。しかし、お前はあまり俺の世話を焼かないほうがいいぞ。鶴丸が焼きもちを焼く」

 息がしやすくなったらしい三日月は大きく息を吸って吐きながら、唐突にそんなことを言った。その言葉に、光忠は首を傾げる。

……?焼きもち?えっと、……どっちにどういう意味で、なのかな?」
「あいつは燭台切に世話を焼いてもらうのは自分だと思っている。あれはよく俺の世話を焼いてくれるが、俺の世話を焼いているあいだずっと自分がお前に世話を焼かれるときの話をしているからな。『光坊にこうしてもらった、光坊はこうしてくれる』みたいな話だ。だから、お前が俺の世話を焼いていると知ったら機嫌を悪くする。『光坊に世話をされるのは俺なのに』、と」

 三日月は鶴丸の口調を真似したようだったのだが、あんまりにも似ていなかったので光忠は笑ってしまった。それはそうと、三日月の世話を焼いているときの鶴丸に話題にされているとは初めて知る。まぁ、本人がそのことを言わないので光忠が知らないのは当然だけれど、それって惚気を言っているということではないだろうか。意外だ。でも嬉しい。

「そう、なんだ。僕はちょうど今日、鶴さん本人から必要に応じて三日月さんの世話もしてあげてって直接言われたところなんだけど」
「それはなんというか、大人ぶっているというか、強がりだろう。格好をつけているだけだ」

 そうなのかな?と光忠が首を傾げていたところで、廊下の角を曲がって鶴丸がやってきた。

「見つけたぞ三日月、帰ってきたと聞いたからネクタイを自分で解けるのか気になって探していたんだ――、っと、光坊、きみは何してるんだい」
「うん、ちょうど自分のネクタイで首を絞められてる三日月さんに出くわしたから」
「燭台切に解いてもらっていた。よく気がつく、伊達の男だ」

 三日月が解いてもらったネクタイを見せ、胸元を指し示してボタンも外してもらったことを示した。瞬間、鶴丸が何かとても複雑な感情を顔に浮かべて、渋い顔で何か言葉を飲み込んだ。

「そ、うか。俺がそう言ったもんな。すまんな、光坊、その、あー、助か、る」

 かなり絞り出すように鶴丸が言ったのを聞いて、微笑んだ三日月が光忠のほうを見た。

「ほら、言っただろう?」
「そう、だね。三日月さんの言うこと、合ってる……、かも」

 ふふ、と二人で顔を見合わせて笑っていたら鶴丸が不服そうに小さな蹴りを三日月の足元に入れている。

「おい三日月、きみな、光坊に何を吹き込んだんだ」
「さぁ?俺はただ事実を言っただけだ」

 にこりと笑った三日月に何を言っても暖簾に腕押しと思ったのだろう、鶴丸は光忠の方を見て、何を聞いた?と困ったように言った。

「ふふ、まぁ、とりあえず鶴さんがかわいいって話、かな」
「絶対に違うだろ」
「本当だよ」

 にこり、と光忠も微笑んで鶴丸を見たら、二対一で勝ち目がないと思ったのだろう、彼は困っているようにも不服そうにも見える様子で頭をかいた。

「あー、分かった分かった、二人で好きに言ってくれ。……てなわけで、三日月、きみは部屋に戻ったらきちんと背広を吊るすんだぞ、いいな?畳むんじゃなくて吊るすんだ。じゃ、俺は部屋に戻る。帰るぞ、光坊」
「おぉ、二人で良き夜にするといい」

 三日月はなんだか機嫌良さそうに優雅に片手を振った。鶴丸に引っ張られながら光忠は手を振る彼を振り返る。

「三日月さん、本当にスーツはハンガーにかけたほうがいいからね、畳んだままだとしわになっちゃうから。あっでも、しわになっちゃったらスチームとか当てるの手伝うから、いつでも言ってね」
「光坊!三日月のことはいい。あいつのがしわになったら俺がなんとかしておく。……あいつのは俺がなんとかする、が、俺のは必要でも必要じゃなくてもきみがやってくれ」

 む、と口を尖らせた鶴丸がぼそりと最後に付け加えたので、光忠は満面の笑みで微笑んだ。なんてかわいい人だろうと思って。

「うん、分かった。ふふ、大丈夫、僕にとって一番世話が焼ける人は鶴さんだよ」
「やかましいな、きみ」

 鶴丸は完全にこちらを見上げないままで呆れたように呟いたけれど、その横顔はなんだか嬉しそうだった。