いを
2026-02-08 22:03:17
1292文字
Public 刀神
 

へび

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青嵐
・紫垂月さん【Metol_P】
お借りしています。

 冬という季節は寒い――のは当たり前のことだけれど、それに加えどうしてか心細くなる。これも男が人間らしくなってきた証なのだろうか。
 寧日。ただおだやかな日々。そういったものを退屈だと思っていたのかもしれない。過去のはなしだ。
 衣ずれの音がたおやかに聞こえる。
「青」
 彼の声はねだるようなあまさが滲んだ声に、ああ、と頷き、ほほえんだ。
 顔を近づけると、彼も笑った。目を閉じる。どこかから、水の匂いが流れてきた。
 
 くちびるのラインを、おなじそこでなぞる。ひんやりと冷たいそこが、きっと少しずつ体温を分かち合って、一緒くたになるのだろう。
 それを願っている。体温が今、同じになればいいと願っている。
 畳のへりを爪先で引っ掻くと、滲んだ音が耳に届いた。くちびるを合わせているだけで、満たされたような思いになる。
 早暁、潮が満ちるように。
 その爪に、彼の手のひらがかぶさった。ピクリとまつ毛が震えることを自覚する。
 生気がゆっくりとからだの中から離れていく。彼のなかで循環するように。男のものが、美しいひとの中に満ち始めていると思うと、うっそうとした快感を感じた。
 どちらともなく、舌先をあわせる。
 水音がぬらりと耳まで届いた。なまぬるい肉と肉の感触に背筋がふるえる。おそらく、悦び、恍惚、快感、そういったもの。互いの舌を吸い乍ら、熱くなるからだを持て余した。布ごしの体温は分からない。けれどもぬくいと感じる。自分の生気が彼のなかにあるからと知っているからだろうか。〝私〟をかたちづくっているひとつの生気が、紫垂月頼宗にとって必要不可欠であると知ると、それだけで黒々しい思いがむくりと顔を出す。
 目をうっすらと開け、彼のまぶたをみた。薄い青緑がかった薄い皮膚。ほおに影を落としそうなほどのまつ毛。白いひたいに流れる細くゆたかな前髪。そのすべてが今手を伸ばさずとも触れられる。
 舌を絡め唾液がくちびるの端から流れても、それさえ逃さないとばかりに舌をほどいて啜るものだから、呼吸のすきがない。本能で息をしようとあごをひくと、彼の潤みかかった目とかち合う。
 無意識にすっと息を吸うと、呼吸が許されたような思いになり忙しげに、激しく胸を動かした。
 あつい、と思う。おそらく今自分の顔は真っ赤だろう。血が上っているような――そんな気配もする。
 視界がぼやけ、「しだれづきどの」と輪郭もままならない声で彼を呼ぶ。
 答えるように衣ずれの熱っぽい音が聞こえてきた。そういうものも、自分の幻聴なのかもしれない。きっと――そう。
 生気をゆっくり、そして長時間吸った彼の嬉しそうにゆるむ瞳。そのあおむらさきに、青嵐の赤がゆらめく。

 どこかで聞いた。青と赤を混ぜると紫になると。
 ――私の生気が彼のからだをかたちづくっている一部になると思うと、欲という生きものがとぐろを巻いてこちらをじっと見ているような、そんなすこしの恐れを抱いたのだった。
 晩節、もう悔いはないとでもいえようか。いいやと思う。私なりの欲が、彼のからだに蛇のように巻きついてきっと離れない。