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🐼🎋
2026-02-08 21:13:23
3564文字
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穂荒
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かくして粘土は握りつぶされた
2/1 VRF内穂・村*荒オンリー「愛の方向に進む船 VR2026」 にて配布しました無配ペーパーよりWEB再録
*半崎視点の穂荒
「なあ、あの二人なんか近くね?」
その言葉が聞こえて、半崎は顔を上げた。
昼のラウンジ。定期考査前で、同じクラスの笹森、佐鳥、別役と机を囲んで勉強会をしていた。防衛任務に出ている小寺がもう少しで戻ってくるので、わからないところを教えてもらう算段だった。
半崎と笹森の成績は平均より少し上というくらいだが、佐鳥は平均より下、別役に至ってはそれよりも更に下なので、考査前は歌川や小寺を呼んでの勉強会が常となっている。
うんうんと唸りながら数学を解いていた時にやけに大きく聞こえて、半崎は声の方へ顔を向ける。
自分達の席の隣から聞こえた声は、パーテーションで区切られていて人物はわからない。ふと視線を動かしていけば、向かいの席の集団が目に入る。向かいの席の集団も、自分達と同じ様に勉強会を開いているようで、同じように机を囲んでノートを広げている。座って問題を解いている者、それを教えている者。席を立って教えている者もいる。半崎の目には、自分らと変わらない、勉強している一団にしか見えなかった。
目を細めてしまう。誰と誰が近いのだろう。全員普通の距離感にしか見えない。
自分の席のメンバーに目をやると、佐鳥が半崎と同じ様に向かいの席へと視線を投げている。気配に気づいたのか、笹森と別役も顔を上げた。
「確かに」
「なにが?」
佐鳥が頷くのに、何も知らない別役が訊ねる。佐鳥は声を潜めて「向かいの席の二人の距離が近い」と囁いた。
別役と笹森が向かいの席に視線をやり、すぐに視線を戻す。
「どれ?」
別役が佐鳥に向き直る。別役も誰と誰かわからなかったようで佐鳥に聞いていると、佐鳥はええ、と驚いた声を上げる。
「ほら、あの立ってる人と、座って教えてもらってる人だよ」
言われて、半崎も視線を向かいの席に向ける。一番手前の席に座っている人と、立ってその人に教えている人。立っている人は座っている人の隣に立って、参考書とノートを屈み気味で覗き込んでいる。教えているなら適切な距離にも見える。奥に座っている人もいるから、隣に座ることも出来ないだろうし、あれくらいの距離感なら自分達でもあるように思えた。
「んん~?」
別役も首を傾げている。笹森も不思議そうな顔を佐鳥に向けていて、佐鳥が「えぇ~?」と言う声を上げた。
「えぇー、距離近くない?」
「普通だと思うけどな。諏訪さんと風間さんとか、あれくらいの距離感だよ」
笹森がそう言えば、それは二人の仲が良いからでしょー、と佐鳥が反論する。
「なら、あの二人もそのくらいの距離感で仲が良いんじゃないの?」
えぇ、とあまり納得のいかない佐鳥が、別役に向く。
「うちの先輩達はもうちょっと距離あるけど、鋼さんとか、あの年代の先輩達ってもっと距離近い気がするんだよな」
「そこはもっと仲が良すぎるからだって!」
まだ納得のいかない佐鳥が、今度は半崎に向く。何も言わずに佐鳥を見ていたら、眉間に皺を寄せて溜息を吐いた。
「半崎のとこも仲良かったわ
……
」
自己完結した佐鳥に頷いてみせる。うちのところの先輩達は仲が良い。あの距離感は普通に思えた。
「やっぱり、普通の距離感なんじゃない?」
そうかなあ、と佐鳥は若干不満気に漏らしたが、程なく小寺がやってきて勉強会は再開されたのだった。
◆
ということがあったのが先日。
今日は作戦室でミーティングの後、射撃訓練までの時間の、自由時間である。
向かいの荒船は端末を眺めており、穂刈はその隣でダンベルを動かしている。加賀美は自分の隣で粘土を捏ねている。
そして半崎は机に突っ伏しながらゲームをしていた。定期考査は終わったばかり。手応えは普通。ゲームは解禁。心置きなくコントローラ
―
を弄っている。
テストが終わった解放感を味わいながらのゲームは堪らない。楽しすぎて時間を忘れそうである。この後の射撃訓練は皆出るから、行くときにきっと声をかけてくれるだろう。更に没入しようと腕を引き寄せた時。
「なあ、穂刈」
荒船が穂刈を呼ぶ声が聞こえて、半崎はふと顔を上げる。穂刈はダンベルを置いて、席を立ちあがった。
(
……
ん?)
隣に座っていたのに、なんで席を立つ必要があるんだ?
そう思いながら穂刈の行方を見守る。穂刈は荒船の後ろに立ち、片手を机に置いて、後ろから端末を覗き込み始めた。
(あぁなんだ、いつもの位置か)
そうだ、いつも穂刈はあの位置が定位置だ。顔を画面に戻そうとして、先日の勉強会の会話を思い出した。
あの二人、距離近くない?
あの時は、特に近いとは感じなかった。半崎は、それよりも距離の近い二人を知っているから。目の前にいる荒船と穂刈である。
荒船と穂刈の距離感は、佐鳥も言っていたように近いようにも見えるが、半崎にとってはこの距離感が普通だった。立っていようが座っていようが、大体いつもこの距離で、それは荒船隊結成から変わらない。
半崎は、この距離が当たり前だと認識してしまっていたのだ。
よくよく考えてみる。これは友人として適切な距離感なんだろうか。
荒船と穂刈と自分の距離感で考えてみる。どのくらいの近さだったろうか。今の二人と同じくらい? いや、少し空間があったかも?
友人達との距離感で考えてみる。絶対にこの距離感はない。少なくともまだ距離はある。先日見た向かいの席の二人くらいの距離感はあるはずだけど、目の前の二人よりはない
……
中間くらいか? それも近すぎるか? でもそれ以上近いのは嫌かもしれない。
他の近しい同年代や先輩は論外だ。そこまで半崎のパーソナルスペースは広くない。
そう考えると、荒船と穂刈と自分のパーソナルスペースはかなり狭いように思える。ずっとこの距離感だったから、慣れてしまったのかもしれない。二人のパーソナルスペースは狭い方で、それに自分が巻き込まれて慣れてしまっている可能性がある。二人との距離感は苦ではないが、確かに最初は若干近いなんて思ったような気もする。
考えた結果、荒船と穂刈の距離感は『仲が良ければ普通の距離感』ということで落ち着くことにした。先輩たちの同年代も、似たような距離感で集まっているのをよく見ている。きっとあの距離感は普通なのだ。
納得したところで、ゲームに戻ろうと画面に目を向けようとした時、穂刈の顔が動いた。画面をもっとよく見ようとしたのか、荒船の顔の真横まで持っていって、画面を覗き込み始めたのだ。
(あれは流石に近くないか!?)
自分に置き換えても流石に近いと思う。あの真横の距離で動じない荒船は、パーソナルスペースが狭くても平気なのか、画面を見るのに集中しているからなのか。いや、いくら集中していてもあの距離だと邪魔じゃないのか。
流石にこの距離は親しい友人でも近すぎる距離感だ。先輩二人に慣らされきった自分でもそう思う。親しい友人よりも近い距離ってなんだ。恋人か。
……
恋人か!? 恋人ってなんだ!?
気付いてはいけないような閃きをしてしまって、戸惑っているのは自分だけかと加賀美に視線を向ける。加賀美は目の前の粘土に夢中で、前の席の二人は目に入っていなさそうだ。なんで目の前でこんなにくっついている人たちがいるのに、気にしないでいられるんだ。
「半崎、どうしたんだ?」
荒船に声をかけられて、半崎ははっと顔を上げる。不思議そうにこちらを見ている荒船に、顔の位置はそのままの穂刈。いやなんで顔の位置そのまま?
(っていうか、手、手!)
机に置いていた手を、端末を持っている荒船の手に重ねていて、反対の手は荒船の肩に置いている。いつの間に。
これは親しい友人の距離感を超えている。絶対に超えている。
「半崎?」
荒船が、ぱち、と瞬きする。怪訝そうな顔でこちらを見ているが、肩を抱かれているのはいいのかあんた。もしかしてこれもいつもの事なのか!? だからあの距離感もこの二人には普通って事!?
混乱が止まらない。親しい友人よりも近い距離感ってやっぱり恋人か!? これが恋人の距離感なのか!? 恋人いたことないからわからない!
何を言えばいいのかわからなくて、助けを求めるように加賀美を見る。加賀美もこちらを不思議そうに見ていた。荒船が名前を呼んだからこちらを見ただけだろう。なんでこんな距離の二人を見て何も思わないんだ。
荒船に向き直る。荒船は首を傾げて、言葉を待っている。
何を言えばいいのか。何でもないです、近くないすか、仲良いすよね、ダルいす。
「半崎?」
また声をかけられて、半崎は慌てて声を出した。
「先輩達、付き合ってるんすか?」
加賀美の顔が秒で二人に向き直った。
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