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2026-02-08 21:10:00
3522文字
Public 村荒
 

後日、ふたりから報告があった話

2/1 VRF内穂・村*荒オンリー「愛の方向に進む船 VR2026」 にて配布しました無配ペーパーよりWEB再録
*犬飼視点の村荒(村上くん不在)

*今後発行する本に再録する場合、こちらは消える可能性があります

 若村への訓練を終えて、自分の作戦室へ向かいつつ、ふと足をラウンジへ向けた。この後に防衛任務はあるが、集合時間までまだ余裕があるからだ。
 夕方に差し掛かろうという時間、ラウンジの中はそれなりの人で賑わっていた。学生が至る所で固まっているのは、そろそろ定期考査が近いからだろうか。卒業して数年も経てば、そんな時期かぁ、と少し懐かしくなってしまう。
 誰かいないかとぐるりと見渡す。すぐに見知った帽子が視界の端に映った。ラウンジの中でも端の席。目立たないから、ゆっくりしたい時に自分もよく使う席だ。後は、水上もよく座っているのを見かける席でもある。
 ゆっくりと席に近づく。特に用事は無いが、時間までの暇つぶしだ。相手は特に気にしないだろう。
「あーらふね」
 邪魔するねー、と言いながら荒船の前の席に座る。荒船は眺めていた端末から顔を上げた。
「犬飼か」
「犬飼だよ」
 ひらひらと手を振れば、荒船は「何か用か?」と聞いてくる。
「んー、別に」
 暇つぶし、と言えば、そうか、と荒船の視線は端末に戻る。
「何見てるの?」
「この間のランク戦の記録」
 誰の? と聞こうとして、口を閉じた。聞くのは野暮な気がしたのだ。
 荒船が銃手にも手を出して久しい。ボーダー史上二人目の完璧万能手になった荒船は、引き続き荒船隊を率いながらも後進の教育にも熱心だ。ここまで来れば、荒船の目標が『完璧万能手の量産』という大きな野望であることを知らない者はおらず、数年前に流れた村上との確執の噂を話す者ももういない。
 しかし、その所為か荒船は多忙な日々を過ごしていた。隊長職に育成に、というのは昔からだけれど、新しいポジションを確立するために試行錯誤をしている姿をみかけたし、育成計画に纏めるのも時間を費やしていた。それに加えて大学生活というのもあったので、休みが取れているのか気になったこともあったけれど、きちんと時間を作って映画を観に行ったりはしていたようなので、自己管理もちゃんと出来ているのだろう。流石体育会系なだけある。
 そんな忙しい荒船だけれど、その忙しい隙間を縫って青春をも謳歌していた。本人から直接聞いたわけでも、相手から聞いたわけでもなく、いつからだとかは全然わからなかったけれど、雰囲気でわかった。わかりやすいわけではなく、それぞれの態度はずっと変わらなかったけれど、二人と一緒に過ごしてきたのだ。犬飼だけではなく、他の同学年メンバーは気付いているのではないだろうか。
 言わないなら聞かない方がいいかなと、特に言及せずに来た。二人が目に見えて困っているなら手助けしようかと思っていたが、特に困ることもなく過ごしているみたいだし、それならそっとしておくのが一番だろう。
……でもねぇ)
 頬杖をついて目の前の荒船を見る。端正な顔立ちで、犬飼ほどではないが女性にモテていたはずだ。同性同士という茨の道を進んだ友人たちに、何故、という気持ちが無いわけではない。
「んー……
 思わず唸ってしまった。その唸り声に荒船が顔を上げる。
「どうした」
「なんでもないよ」
 そう言えば、そうか、と荒船は再び端末に視線を落とす。余計な追及をしない、そういうあっさりしているところは荒船の良いところである。
 端末を見ている荒船の顔は真剣そのものだ。隊員の技量、隊の戦術、試合の流れ、ランク戦の見どころは至る所にある。完璧万能手として歩み始めた荒船には、どのポジションの動きも目が離せないだろう。
 その荒船の表情が、ふ、と柔らかくなる。あまり見ない荒船の顔。師匠の顔でもあるその表情は、あまさも少し含んでいる。
(あーあ、緩んじゃって)
 荒船が誰の記録を見ているのか明白である。聞かなくてよかった。本当に野暮だった。
 幸せそうだ。仲が良さそうで何よりである。恋路が上手くいっているなら何も言うことはない。
 ……けれど、ひとつだけ聞きたい。
 顔が緩んで機嫌がいい今の荒船なら、きっと教えてくれるだろう。いや、これは確認か。
「ねえ、荒船」
「なんだ?」
 声を掛ければ、緩んだ顔が元の端正な顔に戻る。恋人に見せる顔ってことか。そんな顔をここでしない方がいいと思うから、ここで記録見ない方がいいと思うな。
「荒船って、鋼くんと付き合ってるでしょ」
「あぁ」
 唐突に聞けば、荒船は動揺することもなくはっきりと首肯した。おお、と思わず声が漏れる。
「否定しないんだ」
 こちらが驚いてしまう。言わないから、隠していたのかと思っていたのに、堂々としたものだ。ぱち、ぱちと瞬きすれば、「する必要ないだろ」と荒船は口角を上げた。
「事実だしな」
「隠してるのかと思ってた」
 報告ないからさあ、と言えば、別に報告することでもないだろ、と荒船は言う。
「えぇー、言ってよ。友達なんだから」
 そう言えば、荒船は「そうか?」と首を傾げる。
「そうだよ。みんな待ってたのに」
 いや、みんな待っていたかはわからない。自分は報告欲しかったけれども。
 荒船は目を瞬かせて不思議そうな顔をしていた。
「別に隠しているわけじゃなかったんだけどな」
 そう言って、荒船は手に持った端末を伏せる。
「聞かれたら普通に答えるつもりだったんだよ」
 誰にも聞かれなかったけどな、と荒船は続ける。
「それは鋼くんも知ってるの?」
 そう聞けば、当たり前だろ、と荒船は頷いた。
「鋼と話し合って決めたんだよ。自分達からは言わないが、聞かれたら素直に話すってな」
 隠していたわけじゃない、聞かれたら話す。そういうスタンスだったから、身近にいた自分達は自然と気付いたのだろう。もしかしたら鈴鳴の面々は知っているかもしれないが、同年代と鈴鳴以外は気付いていない。それ以外が気付いていたら、きっとそういった噂が流れていただろう。それほど、ふたりは自然体だったのだ。
 それでも。
「でもさあ、やっぱり報告は欲しかったなあ」
 ぽつりと続けて呟く。
「何で言わないって決めたの?」
それを聞いた荒船が呆れたように眉を上げた。
「友達同士が付い合い始めたとか、報告されても困るだろ」
 ただでさえ、同性同士なのだ。世間の恋愛は異性同士であるし、本人たちが良くても世間はマイノリティに厳しいものだ。
 特に荒船と村上は過去に本人たちの意図しない噂が流れていた。荒船は気にしていなさそうだったが、村上がかなり気にしていたので、また変な噂が流れるのを嫌ったのかもしれない。
 でも、同年代の面々で、報告されたからって無闇矢鱈に言いふらすやつはいないのに。信用されてなかったのかと思うと少し悲しい気持ちになる。
「困らないし、もう少しおれらを信用してほしいな」
 そう言えば、荒船は苦笑を漏らした。
「信用してないわけじゃないんだけどな」
「報告くれなかったじゃん」
 すっと目を細めれば、不貞腐れるなよ、と言われる。
「正直言うと、鋼がかなり気にしててな」
 言いにくそうにひっそりと荒船が零す。荒船は、それ以上は聞くな、と言うように言葉を閉じた。
 驚いた。他人に関して無頓着なあの荒船が。
 どちらかといえば、荒船は二人が交際していることに関して、報告するしないはどちらでもよかったのではないかと思う。荒船は、あまり他人から自分への評価に関心がない。逆に、荒船から他人への関心もない。他人が何を言おうと興味が無いのだ。
 村上は違うのだろう。二人の間でどんな会話が交わされたのか知る由もないが、以前荒船との間に流れた噂の事もある。あの時の村上もかなり落ち込んでいたから、荒船との変な噂を流されたくないと強く思っているのかもしれない。荒船は、その想いを汲んだのだろう。
「そっかぁ」
 荒船が想いを汲んで、村上を守っている。他人にとんと興味の無かった男が。
(本気で好きなんだな)
 それは、荒船からの大きな愛だ。荒船の愛情の深さに触れて、なんだか照れてしまう。
「まあ、また鋼と話してみるわ」
 お前にも言ったしな、と言う荒船は、伏せた端末に手を伸ばした。画面に視線を落として、やはり表情を緩ませている。
 荒船は、他人には無関心ではあるけれど、同年代には多少心を配ってくれている。村上宛には劣るけれど、それも荒船からの愛だ。村上は、この擽ったくてあたたかい心をいつも受け取っているのか、とふたりの恋に触れた気がした。
「顔、緩んでるよ」
 せめて、何かしら報告があるまではバレないように手伝ってあげよう。おお、と荒船の顔がいつもの端正な顔に戻った。
 いいな。おれも恋したいなー!