koto
3965文字
Public れめしし😈🦁
 

ショコラティック ナイト

れめししお題企画への参加作
2026.02.07発表分のお題より
「チョコ、ハート、我慢」のお題3つで付き合ってるれめしし 救済イラストVD配信後の一幕になります




 綺羅びやかなラッピングを施された贈り物が無造作に山積みになっている。いや、無造作と見せかけて、その実、酷く計算された画角になっているのだろう。あの男はそういう男だ。
 なんにせよ、獅子神はどこかシラけた気持ちでそれらを視界に収めながら、部屋の中に転がるアルミバルーンへ刃先を入れる。
 悋気に駆られた末の凶行、なんて物騒な話ではなくて。数分前に終わった叶のバレンタイン配信の後片付けをしているというのが実情だ。



 なんの前触れもなく、荷物を抱えた叶が獅子神宅に現れたのが本日夕方前の話だった。予告無く来ること自体は珍しくないが、今日の叶はそれに輪をかけた無法ぶりを見せてきた。
 玄関先で何しに来たと問えば、恋人相手にご挨拶だなと嘆きつつ夜の配信を獅子神の家でやるからと言い出す。許可を取るのではなく決定事項として告げられた後は、一室を配信部屋へと作り替え準備を整え、更にはちゃっかり獅子神お手製の夕食を平らげた後で叶は宣言通りに配信を開始した。

 準備の段階でバレンタイン仕様の叶のビジュアルを目にしたとき、獅子神は思わず閉口した。いつもの格好からパーカーをオフにして、あらわになった丸い頭部には代わりに角付きのカチューシャが装着されている。よく見ればカラコンに至るまで特別仕様になっていた。
 この特別仕様になんとも形容しがたい感情が獅子神の中に渦巻く。が、口には出さなかった。おそらく、そんなものは言わずとも叶には知れていることだし、なんなら獅子神が抱く感情も織り込み済みだったのだろうから。
 獅子神だって叶の全てを独り占めしたいだなんて言いはしない。月に手を伸ばして届かないと泣き喚き駄々を捏ねる子どもでもあるまいし。ましてや相手は叶だ。月に触れるほうがまだ実現可能かもしれないとも思える。ある程度の分別はあるつもりだし、魅せることを生業としている男にワガママを言って困らせる気もないが、面白いか面白くないかで言えば面白くはなかった。
 そして、もっと面白くないのは、そんな獅子神の感情や思いを全て分かった上で、せめてもとばかりに初出しの相手を自分にしたのだと分かってしまうところだった。
 その他大勢の観測者に向けたスタイルを他の誰でもない自分に最初に、という叶なりの配慮に喜んでしまうチョロい自分になんだかなと思ってしまうわけだ。要は、子供じみた独占欲が滲んでしまうくらい叶のことが好きだと、筒抜けなのが居心地が悪いというか。掌の上みたいな気がして癪に障る。一泡吹かせてやりたいと思うのは恋人に抱く感情として外れたものかもしれないが、仕方ない。悔しいものは悔しいのだ。

 バレンタインということもあり、この日の配信はいつも以上に女性視聴者が多かったようだ。ゲームをするわけでもなく、プレゼントと顔面の良さを披露するような配信なのだから、それはそうだろう。同接というやつがどんどん増えていくのを獅子神は手元のスマートフォンで確認をする。今いるリビングから配信部屋までは一分とかからない距離なのに、なんだか画面の向こうは別世界に見えた。
 配信では叶の一挙一動に観測者が沸き、忙しなくメッセージや金額を示す数字が乱れ飛んでいく。少しでも叶に自分を見てもらおうと躍起だ。叶はそれらに気ままに反応を示す。どれを取り上げたら盛り上がるのか、叶には潮目が見えているのだろう。

 そういうものだと分かっていて、さらには人心誘導など勉強になる面もある。だからこうして律儀に見ているのだが、この光景に微塵も引っ掛かりを覚えないと言えば嘘になるだろう。
 獅子神はそんな自分を見て見ぬふりをしつつ観測者の一員となっている。
 本当は観たくないなら観なきゃいいだけの話だ。それでも仕方がない。カッコ悪いなと分かっていつつも気になって頭から離れない。それこそ恋以外の何物でもないのだから。
 そんな風にモヤモヤとしていたところで、素っ気ない初期アイコンの観測者が、突如ポンと十万円を突っ込んだ。その様子に獅子神はフッと毒気を抜かれた。やらかした人物のイニシャルには心当たりしかない。いろんな配慮や自制やプライドで雁字搦めの自分の脳みその鎖をぶつんと断ち切られたようなそんな感覚だった。
 やりたいようにやればいいのに、と。
 そう言われてる気がした。
 なんの脈絡もなく投じられた最高額にざわつく観測者を見ながら獅子神は手元の画面を暗くした。

 あの十万円がどう作用したのかは分からないが、叶の配信はほどなくして終わりを迎えたらしい。部屋のドアが開く音がして、獅子神は様子を見に配信部屋へと作り替えられた一室に足を運ぶ。部屋からは叶がちょうど出てきたところだった。
「喋り過ぎて喉乾いちゃった」
 廊下ですれ違いざまにそう言うと、空の缶を持った叶がキッチンへと向かう。
「部屋の中、もう使わねーのか?」
「うん、おしまーい」
「そんじゃあ、片付けちまうからなっ」
 遠のく後ろ姿に向けて少し大きな声で会話を交わし部屋の中へと入る。配信を終え、用済みとなった室内をぐるりと見回した後で、片付けを始めているのが今現在の話だ。



 キラキラと光を反射するアルミバルーンは浮いているもの、ほとんど沈んでいるもの、床に敷き詰めていたものなどさまざまだ。それら全てに獅子神は順繰りカッターの刃を立てていく。ゴム風船と違い、アルミバルーンは大して音も立てずにしゅるりと空気が抜けていった。部屋を賑わわせていたハートの数々も萎んで一まとめにしてしまえば、獅子神の両手に収まる程度の体積しかない。

「敬一君、片付けありがと」
 飲みかけのエナドリの缶片手に戻ってきた叶は、ご機嫌なカチューシャを外した状態で戻ってきた。今日一日で飛び交った金額は叶や自分にとっては端金でしかないが、額面自体よりもそこに載せられた感情に意味があるのかもしれないな、なんてことを叶の姿を見ながら思ったりもする。
 配信を見ながら「もしもここで、自分が突如部屋に押し入り、コイツの唇でも奪ったらどうなるのか」と一瞬だけにしろ魔が刺したのは口が裂けても言えない。言えないが、叶はなにか察するところがあったらしい。
「オレは敬一君がその気なら別でカップルチャンネル作ってもいいけど」
「ぜってぇ、ヤダ」
 予想だにしなかったとんでもない提案を獅子神はすぐさま却下する。何が悲しくてプライバシーを見世物にしなきゃいけないんだという気持ちと、あとは常に夜道に気を付けて生活をする羽目になるのは御免だった。

 叶は山積みにされたプレゼントを無造作に机の上に集めて開封していく。少ししてプレゼントの中身を物色していた叶が、入っていたものを片手に振り返った。
「どっかのバカが送りつけてきたチョコの香りがするローションとゴムあったから使っちゃう?」
「オマエ、それは全方向にデリカシーねぇだろうが」
「敬一君の身体にチョコかけて食べさせて♡ みたいなこというよりは配慮したつもりだけど?」
「へぇへぇ」
 配慮という日本語に思いを馳せそうになっていると、叶からは続けて苦情が入る。
「オレ、今日晩ごはんはご馳走になったけど、まだ敬一君からバレンタイン貰ってないのになぁー」
 恋人からのプレゼント貰えないオレってかわいそう、なんて芝居がかって嘆く叶を一瞥すると、獅子神は床に散らばったキラキラのハートの残骸をひとまとめにして立ち上がる。そうして椅子に座ってこちらを向いている叶を見下ろした。
……
 目は口程に、なんて言うが、獅子神の視線は完全に叶の反応待ちだった。
「なぁに?」
「笑わねぇ?」
……たぶん?」
「その間は笑うやつだから止めた」
「えー、ウソウソ。大丈夫! オレ、ポーカーフェイスは得意だよ?」
 そんなのは嫌というほど身をもって知っている。そして、今、自分がめんどくさい恋人の言動をしている自覚もあった。自分が仕掛けたのだから、ぐちゃぐちゃ勿体つけずにさっさと切り出すべきだろう。
 獅子神は意を決して口を開く。
……チョコの香りの、ボディクリームを買った」
「は?」
 本当に一瞬意味が理解できなかった叶は呆けた顔を晒し、そうして数秒後にはぐるりと椅子を回転させ背を向けると机に突っ伏した。
「おいっ、コラッ、テメェー! お得意のポーカーフェイスはどうした⁈ 笑いこらえてんの筒抜けなんだよっっ!」
 恥ずかしさのあまり、叶の肩をガシッ掴むと獅子神は強引に椅子を回転させ自分のほうを向かせる。露になった叶の顔は、ニヤニヤしてるかと思いきや真顔というかなんだか少し不機嫌そうにも見える。笑われこそすれ、怒られる様な事をした覚えはない。なにが気に障ったというのか。叶は神妙な顔で口を開く。
「オレ、敬一君の意外性大好きだけどさ」
「お、おう」
「好きな子にそんなの言われて我慢できるわけないよね?」
「ん?」
「ってことで、百パー敬一君の自責だから、さっさと食べられる準備してきて?」
 叶はにっこり笑うと、座ったまま上目遣いにそんなことを言う。かわいさ売りをしたいらしいが、こんな雄が滲み出た本性が封じきれるわけもないんだよなとしみじみ思う。

 獅子神はチラリと叶を見て、小さくため息をつく。これは叶に対してじゃなく、優越感を覚えてるどうしようもない自分に対してだ。
「部屋の片付けして、お行儀よく待ってろよ」
 結局自分もあのプレゼントの贈り主たちと大して変わらない。それでも自分のプレゼントがあの机に載ることがないことに喜びを感じてしまうのだからどうしようもない。せめてもと獅子神は念入りに準備をしようとバスルームへ向かった。


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マシュマロ
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