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A4
2026-02-08 08:42:12
2532文字
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助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
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ホラー映画、お断り/助手2号のお兄ちゃんのイトアキ
兄と妹とチャンピオンの三角関係
デートのメニュー。
会う。
食事。
散策。
映画鑑賞。
その後、ベッドの上で、以下省略。
この、映画鑑賞はかなり重要だった。少なくともライトはそう考えていた。
アキラはビデオ屋の共同経営者のひとりで、もうひとりの店長に負けず劣らず知識がある。うんちくに関しては妹以上にあるし、自分自身で「厄介なオタク」と称していた。
なので、下手な内容のものを提案しようものならこちらの人格にさえ影響する評価結果になってしまうのではないか。
「え?これを観るの?」
→こんなのが好きなんだ、というニュアンス。
「いいけれど
……
この監督は〇〇で✕✕で
……
」
→膨大な知識量による解説が事前に始まり、カジュアルな鑑賞の提案が勉強になるケース。
「これはひとりで観るのがいいよ」
→誘いに対しての断りではなく本当に心から鑑賞スタイルをおすすめしてくれるパターン。
アキラをその気にさせるのに映像作品を使わないという選択肢もあったが、好いた相手にはやはり、そのひとの得意分野で一目置かれたいものではないだろうか。
「それは無謀かつ浅はかな考えだと言わざるを得ないかな、ライトさん」
ビデオ屋のカウンターを挟んで向かい合い、相談したところ、彼の妹のリンは朗らかに返した。
「果敢に挑戦するのは止めないけど、お兄ちゃん相手だとめんどくさーいことになると思う」
「そうか
……
」
「お兄ちゃんなんかどこに時間あるのかわかんないくらいマイナーな作品も観まくってるし匿名でレビュー書きまくってて他の映画ファンとバトルしまくってるんだよ」
「
……
意外に好戦的なんだな」
「レスバで相手言い負かせてるのなんかしょっちゅうだよ」
リンは肩をすくめた。
「正論だし相手を尊重してそうな言葉遣いでカウンセリングみたいに相手の弱点を相手にさらけ出させてそこを攻撃するんだから、私はお兄ちゃんと絶対に言い争いたくない
……
」
それは身に覚えのあることであったので、ライトは肯定も否定もしなかった。あの大人しそうな青年の辛辣さは、日々のネット上での不毛な争いに参加していた賜物であったらしい。ライトがかなうはずもない。
「だからね、映画なんて、シチュエーション作りの装置だと思って、これとかこれとかこれがいいんじゃないかな」
と言ってリンが棚から取ってきてくれた3本を手に、ライトは戦うことにした。兄と。
2階に上がっていく図体のでかい男をリンは見送り、18号と顔を見合せた。
「大変だねえ、チャンピオンも」
「ンナ〜」
アキラの部屋に行くと、アキラは既にソファに座ってテレビを観ていた。流れているのは、厳しい応募条件の審査をクリアし各地から出場権を得た素人ボンプたちがマルセルの迷宮に挑戦する、視聴者参加型のエンターテインメント番組だった。
ライトが隣に座るとアキラは視線をこちらに向けることもせずに、短く問いかけた。
「リンと何を話していたんだい」
「あんたとこれから観るもんをおすすめしてもらってた」
「それだけ?」
「俺がリンを口説くわけないだろう。こわい身内がいるのを知ってるのに」
「何も言ってないじゃないか」
「圧がすごい」
「それは失礼したね。僕の妹は世界で一番かわいいから心配になるんだ」
それを聞いて、ライトは口元を手でおさえた。表情が緩んでしまい、それを見られたら勘違いされそうだったので、隠したかたちである。
リンは交友関係が広く、知り合いと二人で歩いているところを目撃したことが何回かあった。ライトに釘を刺すなら、天才と称される第六課の弓使いや、生真面目そうなシリオンの治安官、彼女と歩いているだけで幸せそうなパエトーンの信奉者、その他もっとたくさんの人間にも同様に注意してもらいたいものだ。
「これはどうだ」
3本のビデオをローテーブルに並べると、アキラは即座に「ダメダメダメダメ」と拒絶した。
「紳士淑女が選ぶ珠玉のホラー3本立てじゃないか! 絶対に無理」
「フィクションだろう」
「作り物だからこわいんじゃないか」
アキラは言った。
「映画なんて流れをこちらでコントロールできないし、何かあるって方へ進んでいって、そのルートからは変更できないし、待ち受けてるのは最悪の展開だ。悪いことが起こるってわかってる方へどうして進むんだろう?理不尽の極みだよ!」
「俺に怒られてもな」
「それはすまない。リンにはそれがいいと言われて付き合うことはあるが、僕は苦手だ。本当にこわいんだ。情けないって笑われても構わない」
「わかったわかった、悪かったよ。マルセルの迷宮を観よう」
「今後、この手のものを観たら僕は使いものにならなくなると思ってほしい」
睨まれて、ライトは首を傾げた。
「ん?」
「観たあと、僕の体は三頭身になるだろう」
「三頭身!?」
「それからガタガタ震えてコミュニケーションは取れなくなる」
「それは
……
大変だな」
「映画鑑賞後に何かを求められても応えられないからそのつもりでいてほしい」
「何かって
……
」
「僕たちがあってやることは一つだけだと思う」
「あー、ああ、そうだな」
「わかった?」
「わかった。二度とあんたの苦手なもんは提案しない」
「そうしてほしい」
この一連のやり取りで彼の機嫌を損ねなかったのは幸いだった。
妹からのおすすめだったからだろうか?
ライトが自分から選んでいたらと思うとゾッとしない。
のどかな、しかし無慈悲にもデータの海に落ちていくさまざまなボンプの奮闘を見ながら、本来の目的であるやるべきことをやって、デートは無事に終了した。
帰る前にビデオを返すとリンは舌を出した。
「ダメだったかあ」
「兄貴を怖がらせるもんじゃない」
「お兄ちゃんがこわがってる姿、最っ高にかわいいからライトさんにも見せてあげたかったな」
「気持ちだけありがたく受け取っておこう」
ブレイズウッドに戻る道でバイクを走らせながら、ライトはふと、思い当たった。
あれはアシストでもなんでもなく、妹からの挑戦で、しかもマウントを取られていたのだ。
パエトーンと争うのは難しい。
そして、これからも相手のフィールドで勝てる気もしないのだった。
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