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g_negigi
2026-02-07 23:21:40
2472文字
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ワンドロワンライ「お土産」
五歌ワンドロワンライお題「お土産」で書きました。だいたい1時間ちょうどくらいです。
その櫛が視界に入った途端、五条悟は足を止めて見入ってしまっていた。
——
この櫛は、きっとあの艶やかな黒髪に似合うだろう。
そう思って、目が釘付けになってしまった。
五条は呪霊討伐の任務のために、夏油と硝子と共にとある城下町を訪れていた。任務自体は3人でさっさと終わらせてしまい、今は土産物屋が並ぶ商店街で帰京前に買い物を楽しんでいるところだった。
「お待たせー。先生と補助監督の人のと、お土産買ってきたよ。悟?」
「何見てんの。櫛?」
買い物を終えた夏油と硝子が、五条のもとへと戻ってきて、そう尋ねた。その声を聞いて、五条は我に返った。
「なんでもないよ」
少し上擦った声でそう答えた。今自分が誰の姿を思い浮かべていたのか、悟られたくないと思った。
「の割にはすごい真剣に見てたけど。つげ櫛か、高いんじゃない? これ」
夏油はその櫛の値段を見て、うわ、と小さく声を上げた。一応給料を貰っている身分とはいえ、一介の高専生にとっては手を出すのを躊躇う値段ではあった。
「お土産にしては、ちょっと値が張りすぎじゃないか?」
「いや、別に
……
」
「ってかどこの女に買うわけ?」
硝子が冷たい視線を五条にくれながらそう言った。
「だから、別にそんなんじゃねーって」
「まさか歌姫先輩にじゃないよね」
硝子はさらに追い討ちをかけるようにそう言った。夏油もははあ、という表情になり、
「悟、初めてのプレゼントにこういうものはちょっと重いと思うよ。知ってる?男が女性に櫛を贈るって、永遠の愛を誓う意味もあるらしいよ」
と助言した。
「はああ⁉︎ だから、そんなんじゃねーって」
「照れない照れない」
夏油は胡散臭い笑顔を浮かべながら五条の背中をポンポンと叩いた。
「やだやだ。ほんとキモい」
硝子はボソっとそう呟いた。
「確かに先輩の髪に合いそうだけどさ。櫛って、贈り物には縁起悪いって説もあるからね」
「え、そうなの?」
「そうだよ。「苦」とか「死」を連想させることもあるから」
「なるほどねー」
夏油と硝子は二人で盛り上がっている。二人の会話を聞いていると五条は馬鹿にされている気がして、
「もう、お前らうるさい!」と叫び、
「ヤガセンたちへのお土産買い終わったんなら、メシ行くぞメシ!」
そして一人でずんずんと歩き出してしまった。
「からかいすぎたかな」
「片想い拗らせはこれだから」
二人もそう言葉を交わしながら、五条の背中を追いかけた。
そしてそれから三人で海鮮丼を食べ、またちょっと買い物をして、東京へ戻った。
そして数日後。
五条は放課後の高専の教室で、一人物思いに耽っていた。
その日は歌姫が久しぶりに任務の報告のために高専を訪れるはずだった。硝子に聞いたから間違いない。
五条は机からそっと、小さな包みを取り出した。それは、先日城下町の土産物屋で見つけた、あのつげ櫛だった。
夏油と硝子に揶揄われたときは買うつもりもなかったのだが、あの後脳裏にさらさら揺れる歌姫の黒髪がちらついて、二人には内緒でもう一度店に戻り、これを購入していたのだった。
せっかく買ったのだし、今日は歌姫が高専に来るし、「お土産」と言って渡してしまおうか。そう思うのだが、「初めてのプレゼントにそれは重い」という夏油の言葉や、「櫛は贈り物としては縁起が悪い」という硝子の言葉も頭の中でちらちらしていた。
——
俺からいきなりこんなものを渡されたら、歌姫は変に思うだろうか。いや、任務に行ったついでのお土産なんだし、後輩から櫛を渡されたくらい、大丈夫だろ。
——
永遠の愛を誓う意味もあるらしいよ。
夏油の言葉が頭に反響する。どうしよう、歌姫に、この気持ちがバレたら。
そこまで考えたとき、教室の扉がガラッと開いた。
「あら五条」
そして、歌姫が顔を出した。
「一人?硝子は?」
きょろきょろと、歌姫は頭を動かす。さらさらと、黒髪が揺れた。やっぱり、あれは歌姫のためのものだ。
「えっと、硝子はタバコ」
「えー?禁煙しなさいって何度も言ってるのに、もう」
わかったわ、じゃあ学舎裏を探してくる、そう言って歌姫は出ていこうとした。
五条は立ち上がり、
「歌姫!」
そう歌姫の背中に大声で呼びかけた。
「ん、なに?」
「あのさ、」
五条は机の中の櫛をもう一度触ろうとした。だが、その時、
——
永遠の愛を誓う意味もあるんだって
また夏油の声が頭の中で響いた。
「どうしたのよ」
歌姫が怪訝な顔で見つめてくる。
五条は「あの、」ともう一度言って、
「
……
こないだの任務のお土産、和菓子あるから、あげる」
「あらそう」
「
……
教員室に置いてあるから」
「わかった。ありがと」
それだけ言って、歌姫は出ていってしまった。
五条は椅子に倒れ込み、大きくため息をついた。
「
……
っていう、思い出の櫛なんだよねえ」
「はあ
……
」
高専の職員寮、五条の部屋で、歌姫は眉間に皺を寄せて、今しがた五条から渡されたつげ櫛を見つめた。
「僕も若くて可愛かったなあ。片想いの相手にお土産一つ渡せなかったなんてね」
「
……
それで、なんで今になって渡すのよ」
歌姫は櫛を手に取り、眺めてみた。確かに10年も前に購入したものとは思えないくらいに美しく、質の良いものではある。でも気になることがあった。
「
……
なんか、すっごく怨念というか、呪いがこもってる感じがするんだけど」
「え? そりゃ僕の10年越しの思いが詰まりまくってるからね。そこいらの呪物並みには呪力こもってると思うよ」
「ひい!」
歌姫は思わす櫛を落としそうになった。それを五条が受け止め、もう一度歌姫の手にギュッと握らせた。
「もー、気をつけてよ。僕の思いがこもってるんだから」
そう言って歌姫を抱き寄せ、額にキスをする。
「今なら永遠の愛を誓っても問題ないし、この櫛は歌姫のこと守ってくれるよ」
歌姫の目は大きく見開かれていた。
「ってことで結婚しよ」
五条の手が歌姫の黒髪をさらりと撫でた。
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