旅先で心のガード緩くなった結果例の台詞を口走っちゃったリ殿とそんなリ殿をつい揶揄ってみたくなった空君とるんるんのヌ様の話です。弊ワットの空君は基本二人を聖母の笑みで見守ってるけどまあたまにはね?
最近色々隠さなくなったな、と言うか、吹っ切ったな、と、思ったのだ。いっそ頑ななまでに自分が恋人に物凄く想われていることを信じようとしない男が。
となれば少しばかり揶揄ってみたくもなるもので。
それが“今”だったのは――まあ、見えない力の思し召しというか、思いついたら止まれなかったというか、そんな感じだ。
なお、“今”は絶賛作戦会議中である。とある秘境の広間。あからさまにこれに触れたら戦闘ですと主張してくる中央のオブジェクト。常は後衛のヌヴィレットを中衛に上げて、雷元素を纏った自分が生成する勾玉をブースターにし彼に元素力を集めれば、源水の雫を絶えず生成し『公平な裁量』を連射できるのでは――空の案に面白そうだとリオセスリが笑った所だった。
ヌヴィレットさんがいつもより前に出るなら立ち回りを云々と、何やら考え込んでいる男を見ていて不意に、何故か、こんなタイミングで、そういえば、なんて思ってしまったのだ。そして冒頭に戻る。
「君のヌヴィレットの負担的にはどう?」
かけた声に。
「そうだな。ポジションとしては普段より前線側にはなるが、まあ俺のヌヴィレットさんな、ら…」
さらりと自分の台詞を鸚鵡返した美声がふと気づいたように途切れ、ぱちりぱちりと氷雪の瞳が瞬き、それがじと…とこちらを睨め付けてきた。
「……旅人くん、俺で遊ぶのは感心しないな」
「ふふふ、ごめん。つい」
いつもの気配り上手はどこに置いてきたんだいと恨み言を言われるのに、今日はお兄ちゃんはお休みなのでと応じれば偉丈夫はやれやれと肩をすくめる。
「…なら仕方ない。元はと言えば俺が口を滑らせたせいだしな」
ちょっとばかり外国の空気に酔い過ぎたなぁ。
諦めの色濃いぼやきが場に溶けたところで、涼やかなテノールが空気を揺らす。
「リオセスリ殿の私にも異論はない。君たちには及ばないが身のこなしはそれなりだと自負している。補助は任せて欲しい。務め上げてみせよう」
その声音と言ったらうきうきでそわそわでキラキラだった。なんだったら虹色の泡すら漂ってきている。心なしかテノールの持ち主の銀髪の合間から覗く触角もゆらゆらと揺れていて、彼を知る人ならああご機嫌麗しいんだな、ということがすぐにわかるほどだった。
偉丈夫がぐぅと呻くのに、何度目かの『微笑ましい』を込めて目を細める。
知っている。彼はリオセスリに、『俺の』発言をされることが嬉しくて嬉しくて仕方ないのだと。被所有欲はないのだが不思議と心が躍るのだ――遺瓏埠で『お年玉』を共に飲み食いした日から幾日か過ぎた日の茶席でそう話してくれた彼のほやりとした笑顔には、リオセスリへの“好き”が溢れんばかりにのっていた。
「ヌヴィレットさん」
「なんだろうか」
何かを言おうとしたのだろう偉丈夫の言葉が、煌めく胎海の瞳と花が飛ぶ勢いの笑み――ヌヴィレット基準だ――を前に勢いを殺されてその胸中へ消えていくのが見えるようだ。ゆっくりとその肩が上下する。
「…いや、なんでもないよ」
行こうか、と促す声のあと、ぽろりこぼれた「くそ、可愛いな」をしっかり聞き取って笑みを噛み殺しつつ、空は二つの背中に並ぶのだった。
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