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ゆの
2026-02-06 22:28:28
2508文字
Public
あつむとあの子
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むすんで それから、
あつむとあの子シリーズ第二弾。(サイト掲載:2026/02/06~)
かけら~(
https://privatter.me/page/66923037eb962)
続きの話になります。
あかり
あかり
あかり
01
気付くと怒涛だったシーズンが終わるまであと少しという季節だ。いつの間にかリンクに向かう海沿いの通りに吹く風の冷たさが、ほんの少しだけ緩んだのを感じてそんなことに気付く。
特に年が明けてからこっち、スケートだけじゃなく色んなことが起きたなあと、隣にいるのがあっという間に当たり前になったその人を見上げながらこれまでを振り返る。視線に気付いたのか怪訝な顔をしてなん、と拗ねたように言うので笑ってしまった。
「なんかいろんなことがあったなぁって思って」
「あー
……
、でもまだこれからやろ」
まだ始まったばっかやん、と言って繋いでいた手をぎゅっと握られた。こういう時の侑くんの顔がこれでもかというくらい優しくて、それに未だに慣れずに顔を赤くしてしまう。たぶん侑くんはそれを分かっててやっているからタチが悪いと思う。私のそんな様子を見ながら笑う侑くんが何か思いついたようにあ、と声をあげた。
「春休み、どっか行かん?」
「! 行きたい!」
「俺は練習いつも通りやし、
あかり
はちょっと休みあるん?」
「うん、世界選手権終わったら少し休みなさいって言われてるから」
「まーたそれ言われてるん?」
休み取れって怒られるやつあんまおらんやろと笑うけれど、前に風邪っぴきで部活に出て先輩に怒られてた侑くんに言われたくないし、私は風邪もひいていないし怪我もしていないし怒られた訳でもない。ちょっと強めに圧をかけられただけやし。そう言うと似たようなもんやろと侑くんが声を上げて笑った。
それはさておき、もしかして初デートというやつや。そう言うとだいぶ照れくさい。けれど付き合いだしてからも相変わらずお互い練習で、なかなか一緒に出かけることが出来ていない。学校があれば会えているけれど侑くんがオフの日にこうして一緒に帰るのが精いっぱいだった。それはそれで嬉しいけれど、もっと一緒にいたいしせっかくだからそれらしいこともしたいと思っていたから。
楽しみ、と呟けばおれも、と侑くんが笑う。繋いでいた手はいつの間にか指を絡められていた。いわゆる恋人つなぎ。それに気付いてさらに顔が熱くなるのを感じる。ひたりとくっつく手のひらの熱がいつもより熱いのは自分の体温のせいだと思っていたけれど、それだけではなかったことに気付くのはまだ少し先のことだった。
「じゃあ、やっぱりあの後付き合ったんだ」
「
……
はい、そうなりますね
……
」
「よかったじゃん、おめでと」
照れくさくてありがととぶっきらぼうに言ったら、ふふっと楽し気に彼女が笑った。滑走順抽選が始まるのを待ちながら近況を話していたら全日本の時の話になって、結局洗いざらい話す羽目になって今に至る。自分から話をするつもりはなかったけれど、彼女の言葉も後押しになったのは間違いなかったから聞かれるままに話したものの、やっぱり改めて話すと大分照れくさい。小さい頃から知っているからなおさらだ。
いいなぁと小さく呟きながらうつむいた彼女の顔がなんだか綺麗で、もしかしたら同じように誰かを想っているのかもしれない。そんなことが浮かんで声をかけようとしたその時、周りのざわめきが大きくなって我に返った。
いよいよだ。同じく気付いて顔を上げた彼女と視線を合わせて頷き合った。ここからは浮かれている場合じゃないぞと思いながらぎゅっと手を握りしめる。あの時もらった熱はまだここにあるから大丈夫だと前を向いた。
それにしても、全日本の時も思ったけれどやっぱり昨シーズンとは全然違うのを感じる。空気の張りつめ方も、世間の注目度も何もかも。去年のジュニアワールドはなんだかんだ年の近い選手が揃っていたから、試合本番の緊張感はあれどどこかほのぼのしていたけれど今は違う。今もうすでに張り詰めた空気の中に、時折刺さるような視線が飛んでくる。周りの選手からの良くも悪くも投げつけられる〝負けない〟という圧がたまらない。
「
……
なんかめっちゃ見られとるの、気のせいちゃうよね
……
?」
「あー、まあ
あかり
ちゃんはね
……
」
「昨シーズンのジュニアワールドチャンピオンが鳴物入りでシニアデビューだもん、そりゃね」
耳元に急に聞こえた声にうわあ、と肩をすくめて思わず悲鳴を上げたらいつの間にか隣に座っていたもう一人の代表
——
ちなみに彼女は昨シーズンのワールドメダリストだ
——
の先輩が私も楽しみだったもんと笑った。さっきから感じていたものは気のせいではなかったと思い知る。握ったままだった手にさらに力が入った。
「大丈夫だよ、
あかり
のいつも通りでいいんだよ」
「
……
うん」
やさしくあやすように肩を抱かれて大丈夫、ありがと、と自分に言い聞かせるように応えたその声が情けなくかすれる。大丈夫と本当に思っていたこの空気が、何も大丈夫じゃなかったと思い知るのはこのシーズンが終わったずっと後のことだった。
〝見たで! 調子よさそやな!〟
本番前日の朝練習を終えて開いた携帯に表示された文字に、張り詰めた空気から解放されたばかりのまだ少し働いていない頭でなにを
……
と思わずツッコミを入れながら画面をスクロールする。
侑くんから届いていたメッセージは要約すると、夜のスポーツニュースでこの試合の話題が出たらしく練習風景と短いインタビューを見たということだった。さっきのやつもう日本でも流れてるんや。日本との時差の計算をしながら練習後のインタビューで話したことを思い出す。
インタビュアーのきっと期待をしてくれているだろうからこその、過剰ともいえる熱のこもった目線と言葉に引っ張られて大口を叩いてしまったかもしれへんと少しだけ後悔した。
侑くんが言う通り調子はどちらかというと良い。この後よっぽどのことがない限りは何も心配することはない。と思う。きっと初めての雰囲気に気後れしているだけだ。そう言い聞かせてスタンプをひとつ返して携帯を上着のポケットにしまう。
だいじょうぶ。もうすっかり習慣になったその言葉をぽつりと吐いて、試合会場のリンクを後にした。
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