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2026-02-06 21:30:19
2048文字
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影すら置き去りにしてもなお

有馬編後くらいの錐人と鈕人の話

14巻を読んで衝動で書いた
錐人と鈕人の話
カプ⋯のような、そうでもないような、どちらとも取れる話

※14巻の内容に触れています
※有馬屋敷の捏造設定があります

『俺なんかいなくても、お前はもう大丈夫だよな』
『?何言ってるんですか、そんなことより鍛錬しましょうよ』
『ほんっと、刀馬鹿だよお前』

そんな毎日の変わらないやり取りをした数日後、錐人は鈕人の離脱の知らせを受けた──────

******

錐人は今有馬家屋敷の地下空間を歩いている。ここはいくつかある地下施設のうち捕虜を捕らえて留めておく独房などがある区域。カツカツと靴音だけが響く廊下の先には頑丈に施錠された鉄の扉が存在する。
腰に結えた鍵束を取ると錐人は上から順にガシャンと大きな音を立てながら解錠していく。
重たい鉄の扉を体重をかけて開けば扉がいくつも存在する長細い廊下のような空間が存在していた。
錐人は迷いなくその中の一つに向かい歩き始める。
そして目的の扉の前で立ち止まり扉上部の僅かに鉄格子で隙間の空いている窓に向かって声をかけた。

「鈕人さん」
「錐人かよ」

返事の返ってきたことを確認し錐人はその扉を解錠し開放した。
「事前に連絡があったでしょう、身柄を独房から有馬の別施設に移します」

時間がないので早くと急かされ鈕人は備え付けられた寝台から体を起こした。
埃っぽかった部屋を後にして錆やボルトが剥き出しの廊下を錐人の後ろについて歩く。

「お前が便宜を図ったのか」
自身よりも少し身長の低い背中に投げかける。
「さぁ、なんの事やら」
「ちっ、余計なことしやがって⋯」
「言ったでしょ?当主たちはその"技術"は歓迎すると⋯それを現時点で扱えるのはアナタたちだけだったので進言しただけです」
振り返りもせず前に言葉を投げ返す錐人にふんと鼻を鳴らす鈕人。癪に障りおまけに虫の居所も悪い。
それもそのはず先代当主の命を狙った鈕人たちは本来なら制裁が加えられるところを錐人の強い進言により命を救われたことになる。真面目な性格ゆえに当然制裁を受け入れるつもりでいた鈕人は反発をしたが、すでに決まったことと取り合わなかった銛人に食ってかかった。当主の代理で通達に来た銛人はその様子を複雑そうな様子で見つめ「それぞれ担当のものが来るまでは監視区域に入れておけ」と最後に付け加え踵を返した。
そうして今に至る。

鉄製の螺旋階段を上がり切り、今度は真っ直ぐな階段を登る中、前方を歩く錐人から声がかかる。
「他の方はもう輸送車にいるので、アナタが一番最後なのでキビキビ歩いてください」
「うっせぇなぁ、わかってるよ」

それ以降無言が広がり2人が階段を登る靴音だけが響く。

「お前」
そんな中鈕人が口を開いた。
「刀銘付けたんだってな」
思わず振り返った錐人、一瞬だけ鈕人と目線が合ったことに驚き視線を逸らすも構わず鈕人は言葉を続けた。
「なんて付けたんだ」
「そ、れは、アナタには関係ないでしょう」
「はっ、教えてもくれねぇのかよ」
「⋯」

つれねぇななんて言葉を最後に外界に繋がる扉の前まで2人は到達した。
「この扉をくぐれば外で組員が待機しています。不本意かもしれませんが拾われた命、今後とも有馬のため⋯努努無駄にはしないように」

そのはっきりとした物言いとよく見れば大きくなった背中に、昔日の同い年の子たちの輪に混じれなかった面影はなかった。
自傷的な笑みが込み上げてくる。次いで言葉が走った。

「やっぱり俺なんていなくてもお前は大丈夫だったじゃねぇか、昔と違ってちゃんと自分の足で踏み出せてんだろ」

その言葉を聞いた瞬間、解錠し扉を開けようとした錐人の手がぴたりと止まった。
と同時に勢いよく鈕人の胸倉を掴み壁に叩き付けた。
ドンと言う音が空洞をこだまし周りに反響する中、錐人は無言で鈕人を締め上げた。

「くっ!」
「アナタが!」

聞いたこともない慟哭にも似た声色にギョッとしなからも錐人に視線をやると、そこには怒りと悲しみを合わせたように目を見開きながら口をわなわなと震えさせる錐人がいた。

「居なくなって、僕がどんな気持ちでいたか!」
「知りもしないくせに⋯勝手なこと言わないでください!」

次第に見開いた双眸は薄く膜を張り瞳ごと零れ落ちそうなほどに涙を溜め程なくして決壊した。
ブルブルと震える手で掴んだ胸ぐらに額を擦り付けながら努めて声を殺して泣く錐人に言葉を失った。

その姿にふと在し日の姿が重なる。
(あ、俺が助けてやらねぇと背中撫でてやらねぇと
幼い頃よく背を撫でて励ましてやった。
無意識にそれをしようとしたところで縛られた隻腕では慰めてやることも出来ず、簡素なライトが照らした自分たちの影に茫然と視線を落とすだけだった。
床でひとつになった影は追憶の中にあるものよりもずっと大きく、まるで手から零し続けた後悔が形になったのかと思った。