ortensia
2026-02-06 13:20:08
5778文字
Public 傭リ
 

えるでんりんぐぱろよーり

ラニ様って皮肉屋だし照れ屋だしむっちゃ可愛いやんな(改めて)
トレーラーでエルデの王を待っている、あるいは、お前がそうなのかな?とか言われたらメロつくだろ…。

傭兵←褪せ人(主人公。)
リッパー←魔女ラニ(王家の血筋、神人。)
ジェームズ(リッパーの師。)←雪の魔女(ラニの秘密の師。)
(主犯だろ?って訊かなかったら、なんで来たのか分からない、運命かもな。って言ってくれるからそれも捨てがたい。←)

 幼少のジャックは出会い、冷たい絵を学んだ。ジェームズはジャックの秘密の師だった。老師はジャックに教えたという、冷たい芸術と暗い月への恐れを。
……傭兵、こちらです。良い夜ですね。少し、話でもしませんか。」
 月の暗がりのような声を頼りに、崩れた教会に向かう。
……はじめまして、傭兵よ。わたしは芸術家、ジャック。」
 その外壁で、瓦礫に腰掛ける、とても只人とは思えない、人形のような男がいた。月明かりを受け、一層、不思議に見えた。
「肘当てを持った、傭兵がいると聞きまして。少し探していたのですが……どうやらおまえのことのようです。」
 異形の長身痩躯、最も目を惹くのは、細指の一つ一つが刃のような、左腕。
「おまえが持っているのでしょう?鉄の肘当てを。」
「肘当てを持っている。」
……ああ、よい答えです。おまえに、預かり物がございまして。肘当ての古い主が、わたしに託したものです。」
 ジャックから、木の笛を受け取る。
「邪魔をしましたね、傭兵。もう会うこともないでしょうが、エウリュディケの地をよく知るがいいです。……わたしは楽しみにしているんですよ、おまえ達生き残りが、いつまでこの地に従順であるのかとね。」
 男は、さらさらと霧のように暗闇に馴染んでいった。
 エウリュディケの地には、まだ、来たばかりだ。
 旅と戦いを続け、切り裂きの夜のことを聞いた。どうやらこの地の大事件に由来する話のようだ。
 そして、湖を越える、あるいは外周を辿った先に、とある王家の城門が、川の横にある。城門を突破したその先には、幾つかのアトリエ塔がある。
……おや、久しぶりですね。あの時は、確かジャックと名乗りました。肘当ても健在のようで、何よりです。」
 相変わらず暗月のような、不思議な声だ。
 声の持ち主が、王家に関わるのかはしれない。
「しかしこんなアトリエ塔まで、何用でおいでですか?……招待状を出した覚えは、ないのですが。」
 手足の長い人形のような男は、塔の最上階でゆったりと、見晴らしのよい窓辺に座っていた。その衣類からは、冷気が立っている。
「芸術家リッパー、切り裂きの夜の主犯だろう。」
……おやまあ。確かに、わたしは芸術家。しかしジャックとお呼びくださいよ。」
 男に動揺は見られない、本当に人形のように。
「黒き刃を使いすべてわたしが、悪い子のわたしが、やったことです。犯行現場の城の地下に行ったのですね。そこでおまえは見た。」
 男は月の暗がりが降り注ぐように、訥々と告げる。
「証拠が欲しいのでしょう?過去を隠すつもりも、後悔するつもりもありませんが。好き好んで、物乞いに施しをするつもりもないのですよ。さあ、出ていきなさい。」
 蔑んだ態度を取られても、そこを動かなかった。
「しかしそんなおまえなら、わたしの役に立てると、そう言うのですか?……いいでしょう、それでおまえにはおまえの謀がある、そういうことですね、嫌いじゃありません。それに、わたしの行いがお前を招いたのなら……その運命にも興味があります。」
 男が帽子の下からこちらを見る。
「許します。わたしに仕えなさい。そして精々、探りなさい。」
 高慢だが、男はそれでも笑っていた。
「存外、悪くないものかもしれませんよ。運命に身を任せ、狂った芸術家に仕えるのも。おまえは奇人のようですから。」
 その笑みは、暗月のように冷たかった。
 なんとも皮肉屋な男だ。なんとなく腹が立って、殴り掛かる。
 しかし霧を触っているように擦り抜ける。
「残念ですね。おまえの期待には、応えられません。尋常の死など、とうの昔に棄てたのですよ。」
 諦めて手を戻し、無駄に開いたり閉じたりを繰り返す。
……では、さっそく動いてもらいましょうか。見つけてほしいのです、霧の都の秘宝を。おまえが他の生き残りを利用しようと気が向くのなら、そうすればいいです。そして利用されるでしょう。」
 そしてリッパーは続けた。
……ああ、ひとつお伝えしておきましょう。わたしはもうすぐ、眠りにつきます。暫くは目覚めないでしょう。悪い子が眠れば、良い子のわたしに会えるかもしれませんよ。そう、ままならないものなのです。」
 以上だとでも言うように、リッパーは言いたいことだけ言うと、眠ったように黙った。
 リッパーの塔の他にも、塔が並んでいる。
 その一棟で、リッパーの芸術教授を名乗る人物がいた。リッパーに琥珀色の精薬を飲ませるようにと言っている。
 琥珀とは、運命を変えるという。相手が神でさえも。
 受け取ってしまった薬を、言われた通りリッパーに持っていくと。
……不快な目覚めです。思い上がった下衆には、いつだってうんざりさせられます。……残念ですよ。まさかおまえから、そんなものを感じるとは。唆され、のこのこと卑劣な薬を持ち込んで。わたしをどうにか出来ると、本気で思ったのですか?」
 リッパーは、呆れと警戒を混ぜたようにして言った。こちらが、ただ言われた通りに持ってきただけであることも承知の上で。
……消えろ。下郎。もう二度と、わたしの前で臭い息を吐くな。」
 呼吸を止めて死ねと言われた。よく分からないが、この薬はそういうものらしい。
 塔を降りる。霧の都とは、何処にあるものなのか。
 旅の途中で出会った、星見の者を頼った。
 星には、運命が宿っているという。神の定めさえも。
 話に聞くと、とある場所で星が砕け、運命もそこにあると言う。
 その運命の在り方へ向かう。
 そこはとある城だった。そこでは星が地に縫い付けられており、空も大地も、どこかしこもが暗く赤い。そこは赤獅子城と言った。
 空へ舞い上がることなく、獅子の咆哮に呼ばれるように、大地に降り注ぐ。その星々の間を潜り抜け、封印を解く。星々が解放される。
 星は天へ昇り、流れるように動き出した。
 運命が、動き出したのだ。
 運命の動きを追った。星の辿った行先を目指すのだ。そこに霧の都がある。
 星は、大地を抉ってまだ足りぬと言うように、地下深くまで落ちていった。
 地下にはまた星々が天にあり、その下に都があった。
 霧の都だ。
 都では歌声が神秘に震えながら響き渡り、永遠の夜がそこにあった。丘の上の都をさらに降ると、夜の神域があった。
 銀の霧が刃を飛ばしてくるが、奥へと進む。
 見付けた。霧の都の秘宝だ。
 豪奢な宝箱の中に保管されたそれは、とある殺しのための刃だった。
 リッパーに届けにいく。
……眠りの中でも、感じられました。手に入れたのでしょう?霧の秘宝を。感謝します。これで、ようやく全てが揃いました。」
 感謝を告げるリッパーが、喜んでいるのか、よく分からなかった。ただそこには、撫でるような冷たさがあった。
「後は、わたしが行くだけです。わたしだけの、暗き路を。」
 ただ静かな声だった。
……さて、旅立ちの前に、おまえに渡さなければなりませんね。持っておいきなさい。」
 逆さ像を渡された。
「それが解く封印の先に、わたしが棄てたものがあります。お望みの証拠が、そこにあればいいですね。……おまえが何をするつもりか、ぼんやりと想像もつきます。お互い、明るい路は行けぬようですね。」
 リッパーは薄く笑っているようだった。
……さあ、もう行きなさい。短い間でしたが、よく仕えてくれましたね。」
 そしてリッパーは、少し俯くようにして黙り込んだ。もう眠るわけではないようだが、嵐の前の静けさとは、こういうものだろうか。
 リッパーの塔を降りて、王家の書院にに向かう。
 そこで逆さ像を用いて、仕掛けを解いた。
 進む先が現れる。そこを通って、昇降機で上に向かう。
 そこは神授塔だった。
 その頂上に、死体が横たわっていた。
 恐らく彼のものなのだろう。
 体を棄て、悪い子の彼だけが人形の体を使っているのなら、良い子は何処に。
 彼は旅立った。自分も旅を続けよう。このエウリュディケは、尚広大だ。
 先の河で、近くに石棺が幾つかあった。
 そこで小さなリッパーを拾った。
 ミニリッパーは愛嬌があった。だがひんやりとした冷たさは、リッパーそのものと同じだ。
 河の湿り気を帯びたミニリッパーと一緒に、篝火を囲む。
「暖かいか、リッパー?」
……。」
「おい、リッパー。」
……。」
「なあ、ジャック?」
…………ええい。おまえ、存外にしつこい奴ですね。それとも人形に話しかける趣味でもあるのですか。」
 小さなリッパーが、何やら抗議してくる。
……ああ、もういいです。こんな姿は、誰にも知られるつもりはありませんでしたが……知られたからには、逃しはしませんよ。おまえには、協力してもらいましょうか。……このわたしを辱めたのです。否とは、言わせませんからね。」
 ミニリッパーは言うだけ言うと、大人しく懐に収まった。
 そしてミニリッパーと旅路を共にする。
 別にこれまで通りと変わらない。ただ敵を屠り、進むのみ。
 そしてまた別の篝火で休んだ時のこと。
……少し、昔話をしましょうか。……わたしは、良い子に拒まれたのです。そして同時に、自分の体を棄ててでも、わたしは良い子に操られることを拒みました。……それ以来、わたしは良い子に呪われています。」
 ミニリッパー、リッパーは寂しげに言った。
 その小さくなった体を幾ら抱き締めても冷たいままだったが、それでよかった。
……ああ、おまえはお人よしなのですか?……この姿だと、どうにも気が緩みます。余計なことを喋ってしまいました……忘れろ。いいな。」
 ミニリッパーとの旅路は続く。
 言っていた通り、彼はこちらの助力を一切しない。
……ああ、もうこの辺りでいいでしょう。手間をかけさせてしまいました、これでやっと。……お別れですね、可愛いおまえ。」
 そう言うと、小さなリッパーからは、あの冷たさは感じなくなってしまった。
 それもまた懐にしまいこんだ。いつまた冷たい運命が宿るかも分からない。
 代わりに手には、棄てられた王家の鍵があった。細かい意匠が施された鍵は、彼そのもののようだった。
 王家に関わりのある大書庫を訪れると、荘厳な宝箱があった。
 リッパーに渡された鍵で宝箱は開いた。
 そこには、暗月の指輪が。
 その指輪は、彼が伴侶に贈るはずだったものらしい。伴侶とは、即ち王である。
 指輪は、彼と同じ冷たい温度だった。
 彼がいなくなった先を進むと、腐敗を湛えた湖が広がっていた。
 なんとか湖を渡り切ると、何やら建物の大回廊があった。回廊を川のようにして腐敗が流れており、それを横目に進む。
 すると大きな腐敗の滝が下に落ちており、そこにはやはり、石棺があった。
 その石棺に、身を投じる。
 すると石棺は滝を下り、滝壺に辿り着いた。
 そこの水は静かに澄んでおり、腐敗とは真逆の色を湛えていた。天には我らが運命の星々が、素知らぬ顔で瞬いていた。
 星の水の流れに沿って進む。先には洞窟があり、更に奥へと行く。
 先には昇降機があり、霧が糸引くように上へと持ち上げられる。
 昇った先は河の奥井戸らしく、そこを抜けると月の祭壇に辿り着いた。
 その先には深淵の名を戴く大教会がある。依然として崩れていて、地下への洞窟が空いている。
 暗い洞窟を奥へ奥へと進む。
 すると見知った冷たい気配を感じた。懐からではない。
 洞窟の先では、異形のものが倒れており、それを腰掛けに、ぼろぼろのリッパーが座り込んでいた。きっと倒したのだろう、呪いの根源を。
 ゆっくりと近寄る。
 静かに跪いてその手を取り、暗月の指輪を嵌める。
……おまえが、わたしの王だったのですね。幾つか忠告してきましたが、無駄なことでしたね。」
 リッパーは溜め息をついた。
 それがどんな意図だったかは、分からない。
……だが、嬉しいですよ。わたしの王が、おまえでよかった。」
 だから、真実があろうとも、リッパーが嬉しいなら、嬉しかった。
「わたしは夜空に行きます。わたしの居場所がそこにあります。おまえは王の道を歩んでください。そして、互いに全てが終わった時、再び見えるとしましょう。」
 リッパーは霧が夜に滲むように消えていった。
 残された場所には、暗月の剣がそこにあった。
 その剣は、王家の者が伴侶に送るという、月の剣らしい。
 それを拾って、王の道を進む。
 道中、彼の部屋を訪れる機会があった。
 そこで少し休み、ミニリッパーを取り出す。
…………やはり気付きますか。さすがですね。」
 ここまでくるともう、相手も面白がっている節があるように思える。
「もう少し、話しておこうと思いましてね。わたしの居場所について。」
 彼の声は相変わらず心地がいい。
「わたしの居場所は、星と月、冷たい夜にあります。……わたしは、それをこの地から遠ざけたいのです。命を狩る欲望が、居場所と共にあるとしても、それは遥か遠くにあればいいのです。確かに見ることも、感じることも、信じることも、触れることも。……すべて、できない方がいい。正体不明の霧のように。だからわたしは、居場所と共にこの地を棄てます。」
 それから、霧は悪戯っぽく笑った。
……それでも、ついてきてくれるのでしょう?ただ一人の、わたしの王。」
 リッパーは何度も別れを告げてきた。そんな彼が、そう言ったのだ。
 必ずや旅の果て、王の道の果てへ。
「すべてよ、冷たい夜、はるか遠くに思うがいいです。恐れを、迷いを、孤独を。そして暗きに行く路を。」
 玉座も国も、何も必要ない。
「さあ、行きましょうか。」
 ただ彼に跪けばいい。
……永遠なる、わたしの王よ。」
 そしてこちらにだけ伸ばされた手を取るのだ。


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。