蠟燭は消える直前に輝きを増す。それは錯覚などではなく、蝋が溶け落ちて剥き出しになった芯が空気に晒されて激しく燃焼するからである。
人の魂も原理は同じだ。社会的通念、理性が構築する人格、人としての尊厳が惨たらしく剥ぎ取られたその瞬間、強い輝きを放つ。その光の中でも一等美しい色を寝ぼけまなこに叩きつけられたフリンズは、きっとその時におかしくなってしまったのだろう。
悲痛で誇り高く、力強く爆ぜ苦痛に塗れたそれ。目の前で瞬いては消えていくそれ認識した瞬間、フリンズは確かにその輝きに魅了されていた。
そんな彼らに助力したいと思えたのは自分にとっても彼らにとっても幸いだったと言えるだろう。そう思えていなければフリンズはおそらく荒野を徘徊し人々を襲い、悲嘆と恐怖を啜る怪物となり果てていたはずだ。
そう、ライトキーパー拠点兼フリンズの自宅の玄関に立つ少年を見ながら、一夜のうちに燃え尽きてしまった魂の色を思い起こす。フリンズの目前にる彼はその光と同じ色をしている。ずっと、ずっと。
イルーガは燃芯である。それは蠟に包まれる感触を幼い時分に手放し、以降魂を燃やし続けていた。フリンズの目にも留まったその輝きは年々激しくなり、それでいてまだ燃え尽きる予兆はない。
だからといって、フリンズは安心してはいられないのだ。蠟燭が消える時間を正確に予測するのは至難の業で、最後の輝きを見たその瞬間に人々はようやくその時が来たと悟る事ができる。故に、次の瞬間イルーガが燃え尽きたとしても何ら不思議はなかった。
若々しく未成熟な美しい魂。だからこそその片鱗を認めた途端、フリンズはイルーガに魅了された。それなのに、今となってはその魂が陰ればいいと希う瞬間がある。
「坊ちゃま」
そのたびに、戦場の気配とは程遠い響きでもってフリンズはイルーガを引き留めようと試みる。本当はそんな言葉が彼の枷となるとはフリンズだって少しも思ってはいないのだ。それでもまじないを唱えるように、彼の無事を祈るように、フリンズは呼びかけずにはいられない。
「どうしました?」
「背中の右側に打撲でもあるのでしょう」
いつもは背負ったままの荷物が左手にあるせいで影響は小さくなっているが、それでもフリンズが指摘した辺りが庇われているのが見て取れる。フリンズの目を逃れようとしている腐心している様子が少しばかり憎らしい。
「骨にひびもないし、内臓も問題ないんですよ」
「それはなによりです」
早々に痛いところを突かれたからか、イルーガはちょっと苦い顔をしてから普段より意識して張った声で主張した。元気ですとでも言いたげな彼の申告に嘘はないのだろう。普段から多忙なライトキーパーとは言えど、予後に響きそうな行動を不用意に許しはしない。少なくとも今の状況では、と備考をつけるべきかもしれないが。
「とはいえ、そんな体で荷物を背負うのは感心しませんね。予備の備蓄もありますし、アドンを飛ばしていただければよかったのに」
何のための伝書鳥なのかとついでにぼやくと、彼の肩で落ち着いていたアドンが小さく鳴いた。それを援護射撃だと察したらしいイルーガがぴかぴかと光る鳥に謝罪を囁いて、額を指の背で撫でてやる。
「ちょっとそれも考えたんですけど、意外と背負えてしまったので……」
ならどうして今はその荷を背から下ろしているのだと指摘してやってもよかったが、イルーガだって厳しい言い訳だと理解しているのだろう。もにょもにょとした雰囲気のある語尾を聞きながら、フリンズは溜め息を吐いて不満と看過を伝えた。
「一度様子を見ておきましょう。湿布も軟膏もそこに新しいものがありますね?」
「すみません……」
「いいえ」
お気になさらず、とはさすがに言えないまま、フリンズはイルーガから物資が詰まった鞄を受け取る。それから彼を家に入れて、後ろ手で戸を閉めると普段はそのままにしている錠も落とした。
やはり背中の右側を守るような重心の移動を眺めながら、フリンズはイルーガがいつか失われる存在なのだと意識する。それは人の天命よりもずっと早いのだと、フリンズは何度も覚悟してきた。
自分などでは彼の蝋にはなれそうにもないが、それは決して自分だけの苦悩ではないのだろう。きっと誰も、この世界のどんな存在であったとしても、そんなものにはなれないのだ。
そんなことは重々承知している。そんな人だからこそ、フリンズは彼が大切になってしまったのだから。
それでもせめてと願わずにはいられない。彼の魂が最も強く輝きを放つその瞬間、自分が彼の未練の欠片になれたなら。フリンズは自身の生涯を照らし続ける流星の、最後の光を網膜に焼き付けられるだろう。
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