どそ
2026-02-05 18:12:02
527文字
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かたちを辿る

2025/6/9


 闇がぼんやりと音もなく渦巻いている。

 厄災に吞み込まれてから随分と時間が経った。目が慣れてもいいはずなのに、いつまで経っても自分の体の輪郭を捉えることができない。手で自分の体があるはずの場所を探っても、何の感触も返ってこなかった。
 体の感覚を失ってしまったのだろうか。あるいはとっくに手足も胴体もすべて溶かされて、体そのものを失ってしまったのかもしれない。自分がいま、瞼を開けているのか、閉じているのかも、遠い昔にわからなくなってしまった。

 ただ一つ、彼の気配だけは鮮明に感じとれる。

 固まっていた世界がふと震えた。
 彼が長い眠りから目覚めてくれた時と同じだ。巨大な怪物の耳がぴくりと動いたように、あるいはそよ風のように、空気がわずかに揺らめくのを感じた。
 たくさん歩いて、きっと色々なものに出逢ってきたのだろう。苦しいことも山程あって、それでも夜になったら眠りに就いて、朝になったら目を覚まして、また駆け出して。
 そうして、ここまで来てくれた。
 彼が厄災をまっすぐに見据えた。蒼く透きとおった眼が、その中にいる私をしっかりと捉える。
 だから私は、目を開けた。
 胸の前で組んでいるはずの手に、つよくつよく、力を込めた。