どそ
2026-02-05 18:05:33
1082文字
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終幕

百年前敗走中
2024/10/1に書いたもの 10/1は手負いの日!とのフォロワの言を受けて

 無数の熱線がじわじわと皮膚を撫ぜて焦がしていく。

 あれほど強かった左肩の痛みはいつしか消え去り、身体の各所と同じように形容しがたい感覚が波のように寄せては引くのを繰り返している。燃えているような、氷水を浴びたような。自分が感じているのが熱さなのか冷たさなのか、痛みなのかも分からないまま、軋む身体を引き摺って走り、次から次へと撃ち込まれる熱線をただ逸らし、弾き返し続ける。

 赤い射線が前を走る細い体に向かって伸び、その背中に照準を合わせるのが見えた。方向が悪い。防ぎ切れない、と直感が告げる。考えるよりも先に体が動いた。
 力を振り絞って腕を伸ばす。射線に割り込んで背中を突き飛ばした。刹那、脇腹を貫いた激しい衝撃と熱に息が詰まる。崩れる体を咄嗟に地面に突き立てた剣で支え、
 ───遅れて襲ってきた爆発するような痛みが全身を震わせた。
 灼かれ爆ぜた骨肉と臓器、身体の損壊の大きさを否応無しに突き付ける、途轍もない激痛。声も出せずに体を折り曲げる。身体を引き裂かれ粉々に砕かれるような痛みが、頭を塗り潰し感覚を乱していく。自分が立っているのか倒れているのかも分からなくなりかけて、それに抗うように剣の柄を握り締めた。
 霞む視界、どこからか黒い液体のようなものが次々と落ちて地面を染めていく。途切れ途切れになる思考の中、ああ、と理解した。これは、この赤黒いものは、自分の口から溢れ出ているのか。自分にもうほとんど時間が残されていないこと、そのことを身体を苛む感覚が声高に告げていた。あと一刻、いや半刻さえ持つかどうか。役目を果たし切るには、彼女を護り抜くには、あまりに、あまりにも足りない。
 それが何を意味するかは分かりきっている。頭の何処かで他人事のように、あとは時間の問題だ、とはっきりと告げる声がした。どう足掻こうと結末が変わることはない、

 認められない、絶対に、何が何でもそれを受け入れる訳にはいかない。
 心臓がどくどくと脈打つ音と酷い耳鳴りと、無数の機械の駆動音に紛れて、遠くで微かに声が聞こえる。悲痛さを滲ませる声。
 名前を、呼ばれている。
 食いしばった歯をぎりぎりと軋ませる。激痛に耐えかねて飛びかける意識を必死に繋ぎ止めた。

 冷静に戦況を判断する声、頭の中で鳴り響く警鐘、身体が上げている悲鳴、今はその全てが雑音でしかない。それらを努めて意識の外へと追い遣り、辛うじて顔を上げる。

 両腕も両足もちゃんと身体に付いたままだ。だから、それらをただ動かしさえすればいい。
 まだ動ける。
 そうでなければならない。