望月 鏡翠
2026-02-05 15:05:17
1039文字
Public 日課
 

#1989 孤独の街ログイン

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔


 巡礼の案内人の天使が、朝を告げた。
 そんな時間になったのかと思って、スマホの画面をつける。もうすぐ充電が無くなって、ただの板になる。モバイルバッテリーも限界って言ってる。バイトがないから、時間を確かめる手段がなくても問題ない。
 生活習慣でつい確認してしまう。
 電波が入らないからソシャゲを開いてもエラーが出るだけだし、繋がらないとわかっているのに手癖で開いてしまうSNSのアプリ版も同様に機内モードかもしれないなんて的外れなTIPSを出してくる。
 部屋を探すのが面倒くさくて、結局ラウンジの床で一晩過ごした。
 天使曰く睡眠も食事も必要ないらしい。実際、別にひもじくもなかったし、寝不足で頭がぼんやりすることもなかった。
 便利だ。
 ただ、床に寝転がっていた体はガチガチに固くなっていた。巡礼に不都合が出るような影響は出ないだろうから、エコノミー症候群で突然死したり歩けないくらい体が痛くなったりはしないんだろうけど。
 部屋で寝ていた人が、ラウンジに出てきて初日の夜と同じくらいのにぎわになった。
 巡礼が始まる。
 その単語はどことなく宗教の匂いがするし、祈りに似ている。
 自分に何か変化があるとも、人生が変わるとも思っていない。
 ただ、折角だから目の前にあるものを目の前にあるまま受け入れて、楽しくやろうと思っていた。
 それぞれの階層の主の話をちゃんと聞いて、祝福を吟味する。
 オーケイ。欲しいものが出てくるかわかんないけど、とりあえず聞いてくるね。
 寒い場所と聞いて、楽しみにしていた。
 東京にいたから、雪なんて八王子くらいにしか降らない。
 ましてや積もってるところなんて、スキー場にいったときしか見たことがない。
 ラウンジがそのまま上昇しているらしかった。壁に持たれていると背中がすりおろされるらしい。冗談だよねと思っていたけど、本当に床ごと上昇しているらしい。
 すごい技術だと感心してしまったけど、よく考えたら死んだ人間が生き返る方がすごいし、そもそも技術とかじゃないんだろう。日常感覚から離れすぎたものよりも、理解できるものの方に感心してしまうのは仕方がないことだ。
 エレベーターが止まり、塔の主人に出迎えられる。
「え、寒い」
 死んでるんじゃなかったっけ。
 放っておいたら二回目の死を迎えそうなくらい、普通に、当たり前に、現実みたいに、メチャクチャに寒い。
 防寒具を探すために、早いところ街に出た方が良さそうだった。