ortensia
2026-02-05 13:31:24
3741文字
Public カトマク
 

カトマク(?)※かなりパラレル

書籍の話だけれどワタクシはイベント系に参加できる性格ではなかなかありません←
町田市立図書館、分館なんだ。本当に漫画置いてるみたいですね、ccさくらとか…←趣味がバレる

 カートはサイボーグだが、電子書籍の読み込み機能はない。せいぜい翻訳機能があるだけだ。
 妹が読んだ本を返して来てほしいと言うので、頼まれたついでに、図書館の中をぶらついている。ネオ町田市立図書館。
 カートが図書館に来たのなんて、学校行事で見学に来た時くらいだ。漫画本も置いてあるのは、当時からだったか、記憶にない。
 ほどよく空調の効いた屋内で、ちらほら見える人影が、各々好きに過ごしている。いかにもなインテリばかりでは流石にないが、それでもカートのようなゴツいサイボーグは珍しい部類だ。
 本棚の間を散歩するだけのカートは、穏やかな気持ちではあるが、身の置き場はない。誰もいない本棚の木々の森を、ひとりで遭難した気分になっていた。
 その隙間を縫って近付いて来た人影に、意味もなく驚いた。人の気配は薄かった。しかし人間だ。自分と同じサイボーグ。利用者とは違う、職員の名札、マカリスター。利用者の気配に慣れてきて、そうじゃない者もいることを忘れていたのだ。
「何かお探しですか〜」
 まるで書店員のような台詞。しかしここは税金で賄われた施設であるため、本来接客などされない。ならばわざとらしくそう声を上げられたのは、カートの不躾な視線のせいだ。
「すんません」
「いいえ〜」
 職員はカートに牽制だけして、なんでもないように作業を続ける。カートよりも繊細な金属の手が、返却されたであろう本を迷いなく滑らかに棚に戻してゆく。まるでプログラムみたいに。
……俺の顔、なんか面白いモン表示されてます?」
 しまった。また見過ぎてた。
「こんなんより、目の前に面白い本がいっぱいあるでしょ?」
「面白いんすか?」
「え?」
 職員の手が止まって、こちらを振り向いた。さっきまでの機械染みた動きと打って変わって、人間の所作が新たに見られたことに、カートは何故か喜びを覚えた。
「どれが面白いんすか?」
……他人がどの本面白がるかなんて知りませんけど。俺サイボーグなんで、人間なんで、蔵書検索ならあっちの機械でやって。」
「そうじゃなくて、お前が好きなの、どれ。」
「あなたねえ。」
 職員が図書館の天井を見るようにフェイスモニターを上向けた。すげえ人間っぽい。
 らちがあかないと思ったのか、ていよく追い返す口実に、職員は本棚から一冊抜き取って、カートごと押しやるようにして押し付けた。
 それでもびくともしないのがカートのフレームなので、職員は苛立ったように、本の上から更にカートの胸をこついた。そんなところに勝手に親しさを覚えて、カートは思わず笑った。
「これ、好きなの?」
 カートは手元へやって来た未知なる存在、書籍をためつすがめつした。この棚をざっと見ただけでも、ここにある中で一番捻くれていそうなタイトルだった。面白そうじゃん、勿論本の内容の話ではない。俄然面白くなってきて、カートはその本を手を振るようにして掲げて、受付に持って行って手続きをし、借りた。
 本は全く面白くなかった。
 先ず、自分に搭載された翻訳機能を使っても意味合いが汲み取れなかったり、専門用語が出て来たりして読み進めるのに苦労したし、内容に共感できるものでもなかった。
 それでも読んでいるところを妹に見られては、それそんなに面白いんだ、と言われ、でも本当に本を読んでいるのかとも言われた。若干気味悪がられたとも言う。
 この本を渡してきた顔を思えば、面白くて仕方がなかった。適当を言っただけかもしれないが、彼が言ったように本の方が面白いとは、カートには思えなかった。
 本を読み終わったカートは、またネオ町田市立図書館に足を運んだ、今度は自分自身が借りた本を持って。
 受付付近にあのサイボーグはいなかった。カートが未返却の本を持ってぶらぶらしていると、前回同様本を棚に戻す作業をしているらしい、また本棚の隙間に白い機体を見付けた。
「返却手続きお願いしまーす。」
「えっ。誰もいなかった?呼び鈴は?」
「誰かいたけど、お前、マカリスターさんにやってほしい。なんで受付にいねえんだよ。」
「それどんな言い掛かりだよ。」
 職員はマカリスターの名札を指先でいじりながら言った。
「サイボーグが受付にいると治安悪くなんじゃん。」
「何お前、返却遅いとキレんの?手出る?何処の軍出身?」
「興味津々かよ。じゃなくて、向こうから喧嘩売られるから。」
 カートはちょっとわくわくしていた気持ちを鎮める。いや、鎮めるまでもない、沈む。
「あー、ね。」
 カートなら、そうでなくともサイボーグなら喧嘩を売られたくらいじゃ犬に吠えられた程度だ。しかし従業員としてそこにいるならば、トラブルの元だと判断され、いつ切り捨てられてもおかしくない。
「俺がいっぱいマカリスターさん指名するから、それでなんとかならん?」
「そういうとこじゃないんで。」
 マカリスターが笑った。元来はノリのいい性格なのだろう。普通の男だ。
 カートの黒い手から本が抜けて、男の白い手に移る。そしてその腕と一緒に振り子みたいに揺れるのを眺める。どうやら返却手続きをしてくれるらしい。
「返却期限守れたね。エライ、エライ。」
「ちゃんと読んだから。そこも褒めてくんね?」
 ぴ、とバーコードを読み込音の後、沈黙が落ちる。ゆっくり持ち上がったフェイスモニターは、驚いているようだった。
「読んだの?ほんとに?」
「おーよ。」
 受付を追いやられる職員でも手続きの仕方はわかっているらしい。それから職員は聞き覚えのあるフレーズを口にした。
「このセリフを言ったのは誰だったでしょーか。」
「主人公。」
……せいかい。」
 急に始まったクイズ。問題を出せるということは、出題者も当然この本を読了していなければならない。適当に本棚から引き出されただけだと思っていた書籍は、そうではなかったのかもしれない。
「ほんとにこれお前の好きな本だったんだ。」
 しかし、職員にはきょと、とされる。
「いや俺は本読んでない。」
「はあ?」
 職員は自分の顔をかつんと指で突いた。
「全部この中で見れるから。」
 今適当にこの本のページ出しただけ、と宣う。
「へえ。図書館勤務のサイボーグともなれば、そういう機能付けられるんだ。」
「いや、これハッキング。」
「は?」
 突然潜められた声がそんな告白を落とすものだから、逆にカートからは強めの驚愕の声が出た。するとそんなカートの反応に、相手は肩を震わせるほど笑っている。
 職員は立ち上がって、返却処理済みの本を片付ける作業に戻ろうとするが、肩がまだ笑っている。
 その先に着いて行くと、カートが最初にこの男と会った場所に来た。ひとけのない、利用者もいない、本棚の森。
「俺がここで働いてるのも、コネを自分で捏造したってゆーか。自主天下り先的な?」
 見た時から宇宙軍のフレームだってことは分かってた。きっと向こうもそう。
……お前さ、こんなとこで働いてて、勿体ねえよ。」
「じゃあ何?軍にかえれって?」
「少なくとも、書籍検索に使われる機械扱いなんかされるべきじゃない。」
 男は、こっちが揶揄ってるんでも冷やかしてるんでもないことを理解したか、カートをじっと見た。
 カートは俄然楽しくなってきていた。
「俺さー。家出しようかと思ってんの。」
「は?」
「妹も最近は落ち着いてきて、離れても大丈夫そうだし。家出て半分縁切るみたいにして、どっか危ない仕事でもしよっかなって。」
……何。やけになってんの?」
 職員はカートの話に着いていけないなりに、冷ややかにそう言った。カートはそれで余計に楽しくなってしまう。
「ちげーよ。寧ろ逆だべ?ん?サイボーグがサイボーグらしい仕事して、自分の長所に見合った社会貢献してやろうって話じゃん。だったら文句言われない。言えるやつはいない。世間様だって結局それを求めてるんだろ?だからこんなとこじゃまともな扱いされない。いるべき場所はこんなとこじゃない。」
 カートは職員が棚に戻そうとしていた本を、その白い手から抜き取って、カートの黒い手に移す。
 返す場所は分かっている。この本のいるべき場所は、ここ。カートはなんだか感慨深くなって、その背表紙をとんと指先で叩いてから、手を離した。
「お前のいるべき場所は俺のとこがいいと思うよ。」
 フェイスモニターは、本が元の場所に戻るのを見ていた。それからカートの言葉に再びその顔を見て、観念したように溜め息をついた。
「あなたの名前も知らないのに……。」
 カートは嬉しさに目元を綻ばせた。
「カート。」
「そ。カート、俺はマックスでいいよ。」
 それからネオ町田市立図書館では、一人の職員の名前が名簿から消え、一人の利用者は、もう随分と来館していない。
 そして思い出したように、マックスが言った。
「そう言えば、俺、図書館から本借りっぱだった。」
 職員が利用者であってはならないことはない。
「ヤバいじゃん。イケナイんだ。」
「ねー、ヤバいよね。借りパクだよね。」
「何借りたの。」
「ひっかけ十回ゲームの本。」


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いつもリアクション絵文字等ありがとうございます。