望月 鏡翠
2026-02-05 01:22:48
915文字
Public 日課
 

#1987 少しだけ本当のこと3

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔


 気まずさを誤魔化すために、他の話題が必要だった。もっと場の空気が重たくならないような、軽いやつ。
「何がもらえんでしょうね、祝福とか。チート能力あったらどんなの欲しいっすか?」
 人生を変えるって、なんなんだろうね。変えたことがないからわからない。それは、電車の中の広告とかスマホの画面に割り込んでくるうざったいプロモに出てくる言葉だ。
 今回は生き返る上に、祝福をもらって、人生がいい感じになって復活できるっていうんだから、なんかすごい。
 たぶん、ラッキーなことで、喜んだほうがいい。
「チート能力……能力…………
 パッとは出てこないなと、美園が薄く笑う。答えの代わりに鹿山くんは何が欲しい?と質問が返ってきた。
「え……
 欲しいもの。
 一個もない。
 あ、いや、一個はある。ライブ用耳栓。欲しいものリストに入れっぱになってる。
 他って特にないかもしれない。今は着替えとか欲しいかな。一ヶ月あるらしいから。
 聞いておいてなんだけど、質問が返ってくること考えなかった。
「あー……、実はそんな欲しいものってないんだよな。これがあったら幸せだ! みたいなのってあんま思い浮かばなくね? 金があったら幸せなのかなとか、めっちゃイケメンになったらどうする? とか思うけど別に一度死んでまで欲しいもんでもないし」
「それは……この祝福とかいうやつが本物で、実際にもらえる場にいても?」
「うーん、いや、なんかさ、人生の岐路みたいなやつ? ちゃんと考えて一個決めろみたいなやつ苦手なんだよな」
 ちゃんとっていわれても、いや先がわかんないから困っているわけで。
「重っ!てなる。生きるとか死ぬとかあんま難しいこと考えずになんとなくでやってきたいなぁ……
 苦しくなったら、考えるよ。
 でも、今のところ特に苦しくなったことないんだよな。
「あぁーわかるな。自分のこと決めるのって、正直重荷だ。祝福をもらわなかったらどうなるんだろな」
 このままの状態で、死ぬ前に戻るとか。
 そうしたら本当に、これはただの不思議な夢だ。
 そうでなければ……
「死ぬだけならそれでも……
 美園が隣で独り言のように呟いた。