癒羽琉(ユウル)/由羽(ユウ)
2026-02-04 20:54:51
3404文字
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Luminous

◇初代DMC◇
ダンテを庇い、ムンドゥスの攻撃に倒れたトリッシュ。
彼女が辿り着いた不思議な空間で出会ったのは、ダンテの母・エヴァだった。

トリッシュが再びダンテのもとへ駆けつけるまでの、“空白の時間”を書いてみました。

 魔帝ムンドゥスから、鋭い光が放たれる。
 ダンテのもとへ飛び出した瞬間、私は暗闇に包まれた。

***

 痛い……

 苦しい……

 怖い……

 何も見えない、何も聞こえない。

 一体私は、どうなってしまったのだろう。

「あなた、大丈夫……?」

 誰……

「私の声、聞こえる……?」

 この優しい声は、一体……

……
 声の主の呼びかけに応じるように、瞼を開いていく。
 ぼやける視界には、私と同じブロンドヘアの女性の姿が映る。青い瞳をしており、真っ黒のドレスに真っ赤なローブを羽織っていた。
「ここは……
 私は瞼をギュッと閉じたあと、再び開いて重い体を起こしていく。
 そこは、見渡す限り真っ白な空間だった。ムンドゥスの攻撃によって、私は異空間に飛ばされてしまったのだろうか。
 状況が把握できず、私は周りをキョロキョロと見渡しながら、ゆっくり立ち上がる。
「ここは、どこなの……?」
 目の前にいる女性に、そう尋ねた。
「ここは……そうね……
 私そっくりの女性は、少し悲しげな表情を浮かべる。
「簡単に説明すると、魂が彷徨う場所ね……
「魂が彷徨う……?」
「ええ。亡き者の、魂がね」
 亡き者の魂——あぁ……私は死んでしまったのね。
 いずれ、自分がムンドゥスにとって不要な存在になり、消されることがわかっていた私は、彼女の言葉に驚きも落胆もしなかった。
 ただ、ひとつだけ気掛かりなことがある。
「ダンテ……
 そう。ダンテのことだった。
 私が倒れたあと、彼はムンドゥスに戦いを挑んだに違いない。
 いくらダンテでも、魔帝相手に戦えるのだろうか。
 そう思い、不安な表情を浮かべている私に、ブロンドヘアの女性が声をかけてくる。
「あなた……ダンテを知っているの……?」
「え……
 その女性がダンテを知っていることに驚いた私は、目を見開いて彼女の顔を見つめる。
(この人、どこかで……
 私は初めて、ダンテの事務所に訪れたときのことを思い返す。
 写真立てに飾られてあった女性の写真。
 そう、目の前にいる彼女は……
「まさか……あなたダンテの……
「ええ。母親よ」
……
 やはりそうだ。
 予想通り、彼女はダンテの母親だった。
「私の名前はエヴァよ。えっと、あなたは……?」
 優しく微笑みながら、彼女は私に名乗った。それに続くように、重い口を開く。
「私は……トリッシュ……
 ダンテの母は「よろしくね」と囁くと、やわらかな笑みを浮かべた。
「それにしてもあなた、ダンテとはどういう関係なの?」
「えっ……
「お友達?」
「その……私は……

—— ダンテを殺すため、魔帝ムンドゥスに造られた悪魔。

 そんなこと言えるはずもなく、私は目を伏せて俯く。
……ごめんなさい、変なこと聞いてしまったわね」
 私の様子を気にかけて、ダンテの母がぽつりと謝ってきた。
 私は首を振ったあと、そっと顔を上げる。
「謝るのは……私のほう……
「え……どうして?」
……私は、あなたの息子……ダンテのことを——
 そう言いかけた瞬間、ダンテの母は私の手を包み込むように握ってきた。
「トリッシュ……無理に言わなくていいわ。あなたも、苦しい想いをしてきたんでしょう?」
「私は、そんなこと……
「いいえ、わかるの。あなたは本当はとても優しくて、素敵な人だって。だけど、何か悪い力にずっと捕らわれていて、そこから今、逃げ出そうと必死にもがいている」
……
「きっと、あなたにとって、“光”のような存在が現れたのね……
 その言葉が、胸の奥を静かに締めつける。
 浮かぶのは、怒りと悲しみを剥き出しにしたダンテの顔。

—— 母さんに似ていた

 彼が体を張って私を助けてくれたときに、呟いていた言葉。 
(ダンテは、こんなにもあたたかくて優しい人を、幼い頃に失ってしまったのね……
 そんな彼の苦しみ、悲しみが、今になって私の胸にひどく突き刺さる。
 私は息が詰まるような感覚に、唇を静かに噛み締めた。
「っ……ごめんなさい……
……
「私は……なんてことを……
 頬を、一筋の雫が伝う。
 泣く資格なんてないのに。
 自分を含め、“悪魔”という存在が大切なものを奪ってしまった罪悪感、ダンテの母のあたたかさに、私はあふれる感情を抑えることができなかった。
 今さら、後悔したってもう遅い。 
 私はムンドゥスに殺されてしまった。
 もう、ダンテに会うことも、謝ることもできない。
 彼は今、どうしているだろうか——
 そう思った瞬間、胸の奥がひどくざわつき、私は勢いよく顔を上げる。
(ダンテ……!)
 頭の中に、ダンテとムンドゥスの姿が映し出される。
 彼が、今も戦っている。限界まで。
 ダンテはひどく息を切らし、狭い空間でムンドゥスに追い詰められているようだった。
「ダンテが、危ない……
 思わず呟いたその言葉に、ダンテの母は静かに頷くと、私の手をさらに強く握りしめる。
「ええ……私も感じるわ。ダンテが今、とても苦しい状況だってこと……
「!……そんな……どうすれば……
……この場所では、どうすることもできないわ」
……
「でも……あなた自身が“選ぶ”のなら、道は開ける」
「選ぶ……?」
「ええ。あなたが進むべき道を、自分の意志で選ぶのなら……
 その声は、強くも優しくもない。
 責めるでもなく、導くでもない。
 “私自身”に選ばせるための、静かに手を放すような、落ち着いた声だった。
 私は、どの道を選べばいいの……
 このままこの世界に留まり、魂が召させるのを待つだけか。
 それとも——
……ダンテ」
 また、彼を傷つけるかもしれない。
 彼は、私を許さないかもしれない。
 だけど私は——

「私……戻るわ」
……
「私、ダンテの力になりたい……!ダンテのためだけじゃない。こんな私に優しく接してくれた、あなたのためにも……!」
 これが、私の想い——そして、答え。
 ダンテの母は静かに頷くと、握りしめていた私の手を、自分の胸元へそっと導いた。
 鼓動は聞こえない。だけど、あたたかい何かが流れ込んでくる。


—— ダンテ、諦めないで。
—— 大丈夫よ。

 彼女がそう囁いた瞬間、私たちの体はあたたかい光に包まれる。
 その光が消えた瞬間、空間に一本の光の亀裂が走る。
 その亀裂の向こうに、ダンテの気配を感じた。
「寂しいけど、ここでお別れね……
 切ない表情で亀裂の先を見つめながら、ダンテの母はそっと呟いた。そして、彼女の足元が眩い光とともに、消え始める。
「エヴァさん……
「短い時間だったけど、あなたに会えてよかったわ。なんだか……娘ができたみたいで、少し嬉しかった……なんてね」
 そう言って、ダンテの母はクスクスと小さく笑った。
 その優しい声と微笑みに、私は思わず彼女の胸に飛び込んだ。
「っ……私も、あなたに会えてよかったです。私には、“母”という存在がいなかったから……でも、あなたのおかげで、母親の温もりを知ることができました……
「トリッシュ……
 私の頬に、温かな雫が流れ落ちる。
 そっと体を離すと、彼女の頬を伝う涙を指先で拭った。
 彼女は寂しそうな表情を浮かべ、震える唇を噛み締めながら、私の両肩をぎゅっと掴む。
「さあ、行きなさい。ダンテは、あなたの力を必要としているわ」
 彼女の指先は細く、壊れそうなほど儚いのに、伝わってくる力は驚くほど強かった。
 瞳は涙に濡れているのに、まっすぐ私を見つめ、揺れていなかった。
「っ……ありがとう、エヴァさん……っ、……お母さん!」
 あふれそうになる涙を必死にこらえながら、私は彼女に背を向けた。
 彼女の微笑みを、最後まで目に焼き付けながら。
(待っててねダンテ。今、行くから!)
 亀裂の先を見つめ、震える足を一歩踏み出す。
 背中を強く押された瞬間、私は一筋の光へ飛び込んでいった——

***

「ダンテ、私の力も使って!」

 あなたの母から受け継いだ、光とともに。




                                              了