ふーこ
2026-02-04 20:14:13
5134文字
Public 感想、攻略
 

誓いの斧に込められている愛情が語られた世界に過ごしていたんだ

誓いの斧に満ちていた優しさと愛情にありがとうの日記です。感想というか、まつわる感情になってしまったのではと思ったので日記とします。
念のため、坊グレに萌えている人間が書いています。

【幻想水滸伝Ⅰをプレイして】
ぼっちゃんとグレミオの話をもう少し聞かせてはいただけませんか!?になった。
出会った瞬間からかなりグレミオのことを愛おしく思っていたのですが、なぜかと言うとグレミオがぼっちゃんのことを「この世のなによりもたいせつ」に思っているのであろう……ということがひしひしと伝わってくるからなんですね。この世で一番のたいせつが決まっている人間のかわいさ(かわいいというのは愛おしいということです)ってすごい。
ゲーム本編や紹介文で、グレミオはぼっちゃんの母親代わりとして小さいころから面倒を見てきたということは知らされるのですが、ゲーム開始時ぼっちゃん十四歳の時点でこんなに心配して世話を焼きたがる男の昔の様子っていったい? そして、まだいたずらっぽく可愛らしくも、既にグレミオの心配と愛情を受け止める度量を持ち合わせている将軍ご子息の幼少のみぎりとは、いったい??
二人の昔の様子が知りたすぎる!!
どんなふうに信頼を築き、思いやりあって生活をしてきたのですか?
グレミオが今までずうっと優しい眼差しでぼっちゃんを見つめてきたであろうことや、幼いぼっちゃんのきらきらの瞳が真っすぐグレミオを見つめ返していたであろうことを思うとたまらなくなって胸が苦しく愛しさで涙が出てくるんだよ……
と思っていたところに、短編「誓いの斧」でむかし彼らに起きた事件・グレミオの頬の傷ができた理由が語られているということを知り、購入が難しかったので図書館で借りて読みました(現在は古本を入手しました)。短編集のみならず小説版を読む際も図書館には大変お世話になりました。頭が上がらないし足を向けることもできない。ありがとうございます。

誓いの斧は小説版と同じく堀慎二郎先生が書いていらっしゃいますが、私は小説版の描写や人々の思いの描き方がそれはもうとっても大好きだったので、誓いの斧も同じ先生で大変嬉しかったです。堀先生はグレミオの愛情の質感を非常に優しく描かれますよね。どこまでも果てしないものでありながら、いつも一番近くにいてくれるような、あたたかい愛情。嬉しい。


【小説版の話】
ちょっと脱線ですが、小説版も本当におもしろかったです。
おおむねゲーム本編の物語をたどっているのですが、ゲームでは描かれない部分であるティル(ぼっちゃん)の心情であったり、イベントやフィールド移動の時間をどのように過ごしているか、外見を言葉で説明するとどんな風であるか、などが描写されるのが見られて嬉しい。彼らの生きていることを細かに刻み込まれるようで大好きでした。
グレミオとティルの再開シーンでのグレミオの外見の描写(のが多すぎる文)なんて節つけて後世に永く謡い継いでいった方が良いのではと思いましたもんね。
→ ”松明の灯りに照らされた鮮やかな金髪を揺らした一人の男。緑のマント、青色の着衣、そして頬に傷の残る細面”

大小細かなエピソードが追加されているので時間の流れも滑らかでリアルに感じられました。
謁見に赴く前のウサギ駆りでは、ティルは獣を殺すも躊躇うような少年であるという始まりの印象が強くなり、その後の波乱とのコントラストが出るし……移動中の野営や食事のシーン、遠征に出ているテオ様の様子や、カイ師匠との特訓のこと、喪章をつけて戦いに臨む描写などなど、言い尽くせませんが、いろいろと自然に想像できるような出来事が語られていて世界がどんどんリアルになっていく。夢中で読みました。


【誓いの斧を読んで】
描かれる愛情と優しさがとても大きく切実で圧倒されてしまう。特に子供への眼差しに実があり、とびきり愛情深かったと思います。
ティル六歳、グレミオ十六歳(二人は十三歳差と思っていたのですが、ここだと十歳差なんですかね)の、グレミオがマクドール邸にやってきて三ヶ月のころの話。もちろんクレオさんもまだ十七歳と若い。その彼らへの眼差しにものすごく愛情を感じる。

まず、六歳のティルの子供心の描き方がものすごく「らしい」ことに驚き感動する。
グレミオにも懐いて笑顔を見せるティルだが、父であるテオ様の遠征が決まると態度が豹変する。このあたりの質感がすごい。
母を亡くした六歳の子供が大好きな父と離れる寂しさをすぐに受け入れて折り合いをつけられるものではないだろうし、ましてや他者の心情を、更に言えばいくら好ましく思っている相手であったとしても出会って間もない大人のことを慮るような心を用意できないのも当然である。
絶対に父と離れまいとして幌に隠れて付いて行こうともするし、グレミオが汗だくになって探しまわり最悪の想像をしながら己を責めテオ様の前で顔も上げられずにいたって、大切なぼっちゃんが見つかって心から安堵し喜んでいたって、それが小さなティルの寂しい心にすぐに染み渡っていくのは難しい。序盤はこのティルの幼さと切実さが愛おしすぎるのである。この大切な子供のために何をしてあげられるだろう?何を言ってあげられるだろう?と考えてしまう。
アンサーはすぐそこにある。ティルを愛しているテオ様のお声がけはとても愛情深く優しいのだ。
「おまえにもしものことがあったら、私はどうすればいいのだろう?」と優しい父の声で言われてはさ、ティルの幼くも賢く立派な心はそれを一生懸命受け止めようとするよな。

この小説は根底に優しさがずっと在ってその大いなる愛情に驚くことが多いのだが、グレミオに関して私はもう驚きっぱなしです。とにかく底抜けに愛情深い。
ティルが自分を置いてテオ様について行こうとしたことを寂しく思う心も、ティルに小言のひとつでも言わなければという決心もあったのに、ひたすらに両親を慕う幼いティルの寂しさを思うと励まさなくてはと思うのだ。自らの寂しく苦しかった日々を思って、ティルも今そんな最中にいるのだと思いやると、励まさずにはいられないような人なのだ、グレミオは。ずっと一人で放浪して、かつての愛に満ちた日々を思いながらどうしようもない寂しさの中にいただろうに、生存のために何かを削ぎ落とした鋭さではなく心から誰かを想う優しい性質を持ち続けている。そこにはまだ彼の中に在る、苦しんでいる幼い自分自身への眼差しも含まれている。
なんて……なんて寂しさと優しさの織り混ざっていることでしょうか。感涙やむなし。

誓いの斧は序盤からこのように愛情がものすごい精緻さで表現されているのだが、優しさや愛情と同時に、寂しさや自責の念や責任、公のために私を切り捨てる覚悟も描かれるので双方引き立て合って重厚である。
皇帝の座を奪わんとするゲイル派の兵に力及ばずぼっちゃんが攫われてしまいグレミオは顔も上げられないこと。既に武人として任に付いているクレオさんの血気。テオ様は将軍の立場として息子の命のために敵方の要求を呑むわけにはいかないこと。ティルを愛しているテオ様にそんな決断をさせてしまったと思うとグレミオは俯くしかないこと。全てに実がある。
ティルの誘拐に心身ともにボロボロになってしまうグレミオだが、それでも彼を突き動かすものというのはやはり、ティルへの愛情である。
連れ去られる間際に自分を頼りにしてくれたティルの姿を思うと、なにがなんでも助けなくてはと心の底から決意と勇気が湧いてくる。そしてその背景には幼いころのグレミオ自身がいる。グレミオもまた家族の愛情の中にいた子供であったし、それを失ってしまった子供でもある。グレミオはティルを愛し守ろうとする大人であり、ティルの寂しさに痛いほど共感する子供も内包している。
グレミオは命に従うのでもなく己の心によってティルの救出に向かう。その先で出会う者達というのがまた気が良くどこか愉快で、なんとなく読んでいるこちらの気分は少し軽やかになる。ロネッツが刀を持って登場したときは大喜びしたしね。(皆、大変な目に遭っている最中にすみませんとも思うが……
活劇のような奮闘の果てにグレミオはティルを救い出すことに成功し、ぬくもりを求めて父のベッドで眠り夢の中で母を呼んでいた小さな子供は、今度はグレミオの名を呼ぶのである。

既にすごすぎて息が上がってくるが、ラストスパートもものすごい。
鉄甲騎馬隊の装備を解けという要求を撥ね除ける決意をしたテオ様だったが、そのためにティルの命が失われると思うと、ティルの笑顔や亡き妻の顔が浮かびさしもの大将軍の心にも大きな苦しみが生じる。その苦しみと迷いを、クレオも、アイン・ジードも重々に承知している。発破をかけるアイン・ジードの心意気にも感じ入るところ。ゲーム本編でもとても気持ちのいい気質をしていることが分かるが、ここでも更に好きになってしまう。
そこへエイジが満を持してもたらす「ティルの救出に成功した」との一報。よくやってくれた!とテオ様の心にもこの上ない力が湧き、テオ様の隊は士気も上々で戦へと向かう。壮大な音楽でも聞こえてきそうな気持ちのいい展開だ……


グレミオとティルは森の中で野営を挟みながら、ティルの足に合わせて二人でゆっくりとテオ様の元へ進んでいる。慌てる必要がないのは、テオ様勝利の報が二人の耳にも届いているからだ。(”テオがクワバの城塞でゲイルの軍を破った話は、アールスの地を電撃のように駆け巡っていたからだ”という表現が格好良すぎて何度見ても嬉しい!テオ様……格好良すぎる)
自分のそばにはティルがいて、ティルのそばには自分がいる。マントにくるまって安心して眠っているティルの姿を見て、グレミオは暗闇の中にいた幼い自分も、やっとあたたかな焚火のそばで眠りについたと思えるような大きな安らぎを得る。
あまりの嬉しさに涙が止まりません。ヤッター!みたいな嬉しさではなく、痛みが緩和されたときのような、冷たい風から逃れて火にあたったときのような、ほっとして心が緩んでほどけたような喜びがある。
ティルを守り、愛しく思うことで。そしてティルがグレミオを信頼し安心して側にいてくれることで、精一杯の心で想ってくれることで、グレミオがどれだけ救われているか。ティルはその全部を知ることはないのかもしれない。でもグレミオからの祈りのような愛情を受け取り、応え、思いを寄せ合う日々の中で、全てが報われるような瞬間が幾度となくあるのではないでしょうか。

ラストシーンでは危機を脱してひととき穏やかな夜を過ごしているのであるが、グレミオはこれが始まりだと決意を新たにする強さをも有していることが示される。ぼっちゃんを絶対に失いたくない、強くなろうと誓う大きな力を得て物語が終わるところにも大感動してしまう。グレミオは救われるような安らぎと、前に進む力をも得ているのだ。

こんだけいろいろ言ってみたけど、誓いの斧に溢れていた果てしない優しさと愛情のひとさじにだって到達できたのかと心許なくなる気持ちもある。どこまでも深くてあたたかい愛情がある小説だったと思います。
私は2025年にこの話を初めて読んだのですが、刊行されてから今までの25年間、知らないだけで自分は誓いの斧に込められている愛情が語られた世界にいたんだ……と景色が変わって見える思いでした。本当に素晴らしい話でした。ありがとうございます。



――――――――――


【雑念、萌え心など】
・マクドール邸に兵が押し入ってきたシーンで、ティルがグレミオの足にしっかりとしがみつきながらもキッと兵を睨んでメチャメチャ威勢良く「なんだ、お前は!!」と叫んでいて、グレミオも驚いているのかわいすぎて気絶しそうなった。将軍のご子息すぎる。

・『この者、なまくら斧使い。マクドール家の腰抜け従者』などと書かれて辱められるグレミオ、私は無力さに萌える心もあるのでゾクっとした。

・「グレミオ、それからさ、ちょっと痩せたんじゃない?」というセリフの、なんかこの……子供に特有のと言っていいか分からないけど、そんなこといいんだよ!今はそれよりあなたのことだよ!と言いたくなるような、でもその優しさに嬉しくもなるような、そんな子供の心に感動するセリフとして巧み過ぎる。子供のこういうところに、大人は救われて強くあろう優しくあろうという気持ちになるよな……と頷くような描写が本当に嫌みなく編み込まれている小説だった……という感動がある。

・イラストのティルが手の甲までやわらかな子供であり、グレミオもまだ少年っぽい細身の薄い体をしていて、二人ともいつまでも健やかであってほしいという気持ちになる。