ゆも
2026-02-04 19:37:03
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矢雛 二次創作SS「触れ合って、それから」

⚠️無印ベストエンド後


「わあっ、やっぱり大きいね! 手首のところがこんなに下にいっちゃう」

 姫様が無邪気な笑顔でそう言った。手袋がぶかぶかなことを楽しそうに伝えてくる様子は、見ていると、彼女につられて笑みが零れてしまう。
 好奇心旺盛な姫様にとって、新しい発見はそれだけで心満たされるものなのだろう。
 俺も同じように——と思ったが、俺と姫様の差は明白なこと。着けてしまっては彼女の手袋をだめにしてしまうだろう。だから代わりに、俺は姫様の手袋を自分の掌に広げた。

「姫様の手袋は小さいね。……まあ、俺たちの体格差を考えれば仕方がないことだけど」
「たしかにそうだね」

 お互い、当たり前のことに気が付いて可笑しく思ったのか、俺たちは小さく笑い合う。
 そして唐突に「そうだ!」と姫様が声を挙げた。

「手、比べてみようよ。どれくらい違うのか、わたし気になる!」

 いたずらっぽく笑いながら、姫様は俺との距離を縮めた。そして俺の返事を待つことなく、彼女は着けていた手袋を脱いで、俺の掌に合った手袋も取り払ってしまった。

(変なところで思い切りがいいよね、姫様って……!)

 俺が驚いて固まっている間に、姫様の小さな手が自分の掌に乗っていた。姫様は「大きいね」なんて言って笑っているけれど、俺は気が気じゃなかった。

……ねぇ姫様。気付いているのかな)

 重なる手と手に、意識が持っていかれる。目の前の事実が、俺にとってとても重要なことだったから。

(俺たち……初めて肌で、手が触れあっているんだよ)

 デートに出かけるときは、必ずエスコートで手を繋ぐけれど、凍玻璃の環境では手袋越しでしかなかった。
 布一枚程度に差はないはずなのに、温かなこの手に触れたいと——こっちの方がいいと思ってしまう。
 日々姫様への愛しさが高まるほどに、彼女に触れたい気持ちも強くなっていく。
 俺は姫様の——雛菊の全部が欲しい。
 この掌は、全部のうちのひとつだ。
 だからだろうか。自分の手の中にある……そう思うと、なんだか嬉しくて仕方がなかった。
 ふと姫様の方を見ると、ぱちりと目が合った。どうやら、姫様は俺のことをみていたらしい。ただ、不思議なことに彼女の頬はほんのりと赤く色づいていた。

「どうしたの姫様? 頬が赤い……この部屋暑いかな?」
「えっ!? 違うよ、暑いわけじゃなくて、その……

 繋いでいない方の手を頬に当てながら、姫様はゆっくりと口を開いた。

「目が合う前の矢代、すごく優しい顔してたんだよ。だからわたし……なんだかドキドキしちゃって」

 そう言って、姫様ははにかむように笑った。

「矢代はさっき、何を考えてたの?」

 笑ったかと思えば、今度は興味に満ちた——きらきらとした瞳を俺に向けてくる。
 そのころころと変わる表情が——

……すごく可愛い)

 湧き上がる衝動のまま、俺は重ねていた掌を少しずらして指を絡めた。
 姫様の身体がびくりと大きく跳ねた。赤く色づいた頬はさらに色濃く染まり、輝いていた瞳は潤んでいく。
 少しの間の後、心の準備ができたのか、姫様もゆっくり指を絡めて応えてくれた。

「雛菊のことを、愛しいと思っていたんだ」

 俺はそう言い、結んだ手を持ち上げた。そして手の甲、手首、腕と順にキスを落としていく。軽く吸い付いてわざと音を鳴らせば、彼女はわかりやすく反応した。
 チラリと彼女を見ると、自由な方の手を口元に添えて、目も口も閉じて必死に耐えようとしている。
 その姿はすごく可愛くて、愛しくて、いじらしい。心臓のあたりが締め付けられる感覚がしたけれど、なぜかそれが幸せに思えた。

(けど……このままだとまずいかも)

 欠片の理性を搔き集めて、緊張しきった姫様の唇に軽いキスを落とす。そうして、少しだけ距離を空けた。
 名残惜しかったけれど、目の前の姫様は惚けてしまっていて……やりすぎたかなとすこしだけ反省する。
 本当はもっとこの先のことまでしたいのだけど、姫様はこの様子だ。それに、邪魔されてばかりでも、彼女の従者に誠実でいたい気持ちは、あるにはある。

……いじわるをしてごめんね、姫様」
「えっ……矢代はいじわるをしてたの?」
「いや、俺としてはそんなつもりはなかったよ。でも、姫様は困惑しただろう?」
「確かにびっくりしたし恥ずかしかったけど……くすぐったくて幸せだなって思ってたよ。矢代は違うの……?」

 そう言って、ふにゃりと蕩けた笑みを浮かべる姫様。そんな可愛い姿を前にしては、取り繕った建前が音を立てて崩れていく。

……俺も幸せだよ。君の全部が愛おしくて仕方がないんだ」

 吸い込まれるように顔を近づけて、唇を重ねる。
 俺の想いをわかって欲しい、深く触れたい、心から繋がりたいと欲深く思いながら。
 すると、姫様は絡めていた手をさらに強く握り返してくれた。
 ゆっくり唇を離して表情を確かめると、どこか期待しているような目をした姫様がいた。
 そして、姫様はコクリとひとつ頷いて、瞼を閉じて顔をこちらに向けた。

——誠実でいたいなんて、嘘じゃないか)

 彼女に求められた嬉しさに思考が真っ白になる。
 仕切り直すようにもう一度唇を重ねて、深く俺たちは求め合っていった。