なえつき
2025-01-14 00:32:22
1933文字
Public 『ALTER EGO』
 

年末年始のエスと旅人(女)

オルタエゴの二次創作小説です。
エスのところに門松を持ってきた旅人の話。

ああ、ほんっとう、いけ好かない。
なんでよりにもよって私が、エスと共に過ごしているのだろう。


 
世間は年末。しかし、いま私が立っているのは参道ではなく、なにもない真っ暗な通路だった。
……よっこい、しょ、っと」
その途上。ひっそりと立っている扉の脇に、抱えていた大きな門松を下ろした。
大きく息を吐き、扉を開け、部屋に戻る。
本棚に囲まれた小さな書斎。床にはところどころに本が散らばっている。私はいつもこの部屋に来る度に、静謐な書斎というよりは、乱雑な子ども部屋といった印象を抱いている。

 ーー読んだ本はちゃんと元の棚に戻そうねって、いつも言ってるのになぁ。

部屋の中央で椅子に座る少女ーーエスを精一杯睨みつける。しかし、彼女は私の抗議の視線なんて痛くも痒くもないというように鼻で笑うと、読書を再開した。
重労働を終えたばかりの私の心に、その仕草はよく効いた。

「は? な、なんなの、その態度……あんたが欲しいって言うから、わざわざ実家の山行って作ったデケェ門松を必死に運んできたんですけど……?」
「ごめんなさい。でも正直、呆れたわ。……なんでそこまでしちゃったの?」
 買えばよかったじゃない、なんて正論を口にする少女を前に、私は硬直した。

「ーーは、」

それは盲点ーー、……じゃなくてぇ。
…………うん、わかるわかる。私もそう思う。けっして買えばよかったって後悔してるわけじゃない、断じて。
でもさ、あんたは門松なんて初めて見るじゃない、だったら最初はすんごいモノを見せてあげたいって思うのは当然の流れでしょ余計なお世話だって感じても第一声は感謝であるべきなんじゃないのそれなのにあんたあんたあんたってやつはほんっっとう、……ふ、ふふ、はははははーーーー、

「ーーーーはァ~~~!?」
「逆ギレ、やめてくれる?」

確実に真っ赤になっているのだろう私の顔を見ても、エスは至って冷静だ。暖簾に腕押しとは今この状況のことを言うのだろう。腹立つ。

「もう! エスなんて知らない! またねバイバイ!」

勢いよく部屋を飛び出して、大きな音を立ててドアを締めた。我ながらなんてわざとらしい、なんて冷静なな私が内心でため息をついていたが、構うもんか。
腰に手を当て、数分前に自ら設置した、扉の横の巨大な門松を見上げる。
……私、バカじゃないの、張り切ってこんなの作っちゃってさ」
門松を玄関前に飾るのは、神様が私達のお家に迷わず来れるようにするための道しるべのようなものだとか。諸説はあるのだろうけど、私がおばあちゃんに聞いた話では、そうらしい。
だからこそ、疑問に思う。どうしてエスが門松を所望したのだろう、と。

ーーだって、けっきょく無意味じゃん。
神様が、エスのところに現れたことなんて、一度だってないんだから。
 
固く、拳を握りしめる。エスを取り巻く環境への怒りが、私の内で荒れ狂っている。
改めて、己の人生を振り返る。ただただ、出会いに恵まれていると思う。
良き両親に恵まれ、かけがえのない友人に恵まれ、尊敬できる人生の先輩に恵まれている。
私は、本当の本当に、素晴らしい人々に囲まれている。
だからこそ激しく思わずにはいられない。
どうして、そんな素敵な人達ではなくてーーよりにもよって私なんかが、エスと出会ってしまったのかと。
……私が、神様だったのなら良かったのに」
もしもそうだったのなら、こんな牢獄からエスを連れ出してやれるのに。
平々凡々な私なんかが、エスになにがしてあげられるのだろう。
昔も、今も、きっと未来でも、私はエスの旅人である事実に迷い続けるのかな。
「ーーああもう、やめやめ! はい、この話おわり!」
頭を振って、顔を上げる。こんなんじゃ、またエスに馬鹿にされてしまう。彼女の前では、ちゃんと元気な私でいなければ。
「だって私は、エスの旅人なんだからーー!」
もういちど扉を開け、彼女の部屋に踏み入る。
……ずいぶんと早い再会ね。そんなに私に会いたかったの?」
「はぁ!? 思い上がりも甚だしいんだが!? その発言!」
 
馬鹿の一つ覚えみたいに、またこうして罵り合おう。
去年も、今年も、もちろん来年だって。

 ◆

 後日談。
 あの門松だけど、何かと便利だったので、しばらくは片付けなかった。
「すごい、エスの部屋まで迷わず来れた……つ、ついに私の壊滅的な方向音痴が治ったのか……?」
「馬鹿みたいに目立つものね、あなたが作った門松。馬鹿なあなたでもすぐ見つけられるくらいに」
「あーー! 馬鹿って言った!? しょうがないじゃん、このへん真っ暗で何も見えないんだからさぁ!」



/了