なえつき
2022-10-24 21:56:37
1066文字
Public 『ALTER EGO』
 

#エス_秋のドカ食いチャレンジ2022

『ALTER EGO』の2次創作小説です。女旅人とエスです。

 バイトが終わった頃には、外はすっかり暗くなっていた。
 吹く風はカラカラと乾いていて、ちょっぴり冷たい。僅かに冬の気配を感じさせるソレに身体を震わせる。とっとと家に帰りたい。けれど足取りは重い。なんとなく寄り道がしたい気分。なので、いつもなら通らない道に足を向けて――その先で営業していた、一軒の出店が目に留まった。

――それで、あなたが買ってきたのが……この、たい焼きってわけなのね」
 白い湯気が漂うカップを両手に包んだエスが、テーブルに無造作に置かれた紙袋の中身を覗き込む。紙袋はパンパンに膨らんでいて、一人では食べきれない量のたい焼きが詰め込まれている。
「大漁ね」
「うん、大漁だ」
 エスが呆れたように溜息をつく。
……太るわよ?」
「わかってる! わかってますとも! でもさだってさ、お腹減ってたら食料品うっかり買い込んじゃうときってあるでしょう⁉」
「知らないわよ、そんなの」
 つれない返事をするエスの言葉に、私はがっくりと肩を落とす。
……ちょっと、トイレ借りてもいい? っていうかここトイレある?」
 私が問うと、エスは曖昧に微笑む。どっちだよ。
 仕方がないので、自宅のトイレで用を足すことにした私は、一旦帰宅することにした。

「ただいまー」
 数分後、再びエスの部屋に帰ってきた私は、先ほどと同じようにエスの対面のソファーに腰を下ろす。
「あれっ?」
 数分前まで机の上に置いてあった紙袋――大量のたい焼きが詰まった――が、忽然と姿を消していた。床に落ちたのかと思って、机の下を覗き込んでも、影も形も見当たらなかった。
……いや」
 よく目を凝らすと、エスの足元にくしゃくしゃに丸まった紙袋が見つかった。当然、紙袋の中身は空っぽだろう。……となると、まさか。
 私は起き上がって、何食わぬ顔で読書に興じる女に向き直って、訊いた。
「エス……もしかして、たい焼き食べた? あれを、ぜんぶ?」
…………
 しばらく沈黙が続く。胡乱な目つきでエスを見つめ続ける私に耐えられなくなったのか、エスはゆっくりと本から顔を上げ、きっぱりと口にした。
「ええ。全部食べましたけれど、悪い?」
「ま、まじかぁ」
 ちょっと理解が追いつかない。エスが悪いか悪くないかで言えば、食料廃棄物が削減されたという点において私個人としても地球環境的にも大いに助かっているので決して悪くないわけですが、その、エスさんや。
――太るよ?」
 正面から飛んできた本が脳天に直撃して、私の意識がぶっ飛ぶまで、あと三秒。