Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
しまふみ
2026-02-04 09:59:20
6224文字
Public
Clear cache
誠意の課題
obm夢/サタン♡女留学生/コメディ
「
……
あれ?」
ある夜。留学生は液晶を睨みながら自室でうんうんと唸っていた。夕食の席での兄弟との雑談から思い出した、レポート提出の課題。その期限があと15分と迫るタイムアタックに、ひりひりとした緊張感が彼女を襲う。だが
――
「ど、どのアドレスだったっけ
……
?」
やぶれかぶれにも問題のレポート自体は何とか仕上げた。しかし肝心の提出先のアドレスが分からない。どこかにメモしたはず、という記憶の断片の数々はことごとく彼女を裏切り、カチカチと鳴る秒針は冷静な判断力を削いでいく。D.D.D.の画面を何度も点けたり消したりしながら、留学生は焦りに揺れる足を叩いた。
「こんな時に限って誰も既読が付かないし
……
!!」
ギリギリになって取り掛かるのが悪いのはもちろんだが、今回は間違いなくタイミングも悪かった。普段はしょうもない話題でログが次々流れていくグルチャも、数分前に彼女が置いた『今日が期限のレポートってどこ提出だっけ?』のメッセージからまるで動く気配がない。あと10分。血の気が引き、いやに冷たい指先を震わせ、留学生は半ばパニックに陥っていた。呼吸が浅い。
「やばいやばいやばいやばい
……
! 留年かも
……
留学生なのに留年
……
。」
笑えない事態に、留学生の脳裏でルシファーのそれは美しい微笑みが浮かんだ。これは心底幻滅されるやつ。普段からちゃらんぽらんな性格ながら、日頃お世話になってる保護者的存在に、怠慢から見限られるというのはさすがに自業自得とはいえ心にクるものがある。あと8分。
追い詰められた脳は、考えるよりも先に彼女を導いた。
「“血の契約により、マスターとして命ずる。憤怒の悪魔サタンよ、我が召喚に応ぜよ”!」
途端、眩い光が禍々しい瘴気とともに部屋に満ちた。黒煙のなかから、目映い金髪が揺れる。視界が明瞭になると、緊迫した表情のサタンが眼前に現れた。
「
――
っ、無事か?! 留学生!!」
普段の余裕を一切感じさせない、鋭い輝きを放つ緑が、息を荒げながら周囲を見渡す。
「
……
部屋?」
「あ
……
、」
留学生の視線が、呆然と立ち尽くすサタンの肌を滑った。惜しみない艶を放つそれは僅かに湯気を纏い、肌理に弾かれた水の玉がしなやかながらも締まった筋肉の隆起に沿って滴る。一糸纏わぬ悪魔の麗しい造形美から、それでも必死に意識を剥がしつつ留学生は叫んだ。あと5分。
「ど、どうでもいいや! サタン、助けて! レポートの提出が
……
!!」
「レポート
……
?」
◇
カチカチ、と緑の指先がパソコンを操作する音が静寂の部屋に響く。その髪から肌からぽつぽつと落ちる水滴は、留学生のベッドへ床へ次々に染みを作っていた。就寝前の寝具が湿気る状況に、とてもではないが文句を言える立場ではない。サタンの腰には、召喚後なんとか見繕った留学生のマフラーが掛かり、その尊厳をどうにか守っていた。続く沈黙が重い。
「
……
できたぞ。」
「あ、ありがとう
……
。」
残り20秒に迫るタイミングで、揺るぎない電子の承認が下りた。なんとか皮一枚で脱した危機に留学生が深く息をつく。安堵もそこそこに、次の危機に向かうべく、留学生はサタンへとゆっくり向き合った。こっちは皮では済まないかもしれない。
「
……
本っ当に、ごめんなさい。」
「
……
。」
言い訳いいですか。と、許可も下りないうちに留学生が続ける。
「
……
その、このように提出期限がヤバくて
……
パニックになって
……
もうサタンしか頼れない!! てなっちゃって
……
。お風呂中とは知らず
……
あ、そういえば
……
まだ洗ってる途中だった?」
「洗うのは終わってた。」
「あ、よかった。
……
いや、よかったっていうのは、まだよかったっていう意味で
……
。あっ
……
その、寒いよね?」
長々と喋りながら、そこで何か気付いたのか、留学生はチェストからようやくハンドタオルをいくつか探り取ってサタンに手渡した。
「ごめん
……
気がつかなくて
……
。」
「
……
。」
受け取ったタオルを手に、水滴を拭うでもなく静かに座すサタンを前にして、留学生は居心地悪く続ける。
「あと、その
……
見ちゃってごめん。」
「
……
。」
永遠とも思える沈黙に、留学生の視線は漠然とサタンの美しい金髪を滑る雫を追っていた。水も滴る
……
いや、寝具がカビるかも
……
いやいや。続く重苦しい現状を打破すべく、留学生が自身も脱ぐケジメを示す宣言をしかけた直前、ようやくサタンが口を開いた。
「
……
別に、こうして君に頼られるのは嫌じゃない。」
「ただ、こう正式に召喚されたら驚くだろ。
……
何かあったのかと、本当に肝が冷えた。」
長く息をつくサタンを前に、留学生は顔を伏せる。
「ごめんなさい
……
。」
「課題提出も、次からもっと余裕をもて。」
「うん、ありがとう
……
。」
――
もし本当に、自分に何かあればサタンはなりふり構わず、全力で守ってくれていたんだろう。その事実に、知らず留学生の胸が熱くなる。
――
そう、本当に。例え全裸だろうが、なりふり構わず。
「
……
あのかっこつけのサタンが
……
。」
「口に出てるぞ。」
「あ、出てた?」
ごめんごめん。と、すっかりいつもの調子を取り戻しつつある留学生へ、サタンはそれはそれは美しい微笑みを向けた。
「で? 俺のなにを見たって?」
「え、それは
……
その、かっこいいサタンを
……
。」
拝見しました。苦し紛れも明らかな留学生の言葉に、サタンは目を細める。しかし、その奥に光る瞳は微塵も笑っていなかった。
「随分じゃないか? それなら君も誠意を見せろ。」
「せ、誠意
……
。」
言葉に、いよいよ留学生が脱衣の決意を固める。まずどこまで脱ぐべきか逡巡しながら、羽織る上着に手をかけた。
◇
そのままカーディガンを脱ぎ、夜着代わりのTシャツを脱ぎ、留学生はついにキャミソールに手を掛ける。その下は素肌だった。間近に座し、黙って見守るサタンが発する圧に臆しながらも、心と呼吸を整える。留学生はひと思いにいくため、腕を交差させ裾を掴んだ。
「もういい。」
不意に、サタンの手が留学生の動きを止める。半端に乱れたキャミソールから覗く薄い腹を隠すように、サタンが裾を整えた。思考のどこかでこの展開を読んでいた留学生が、静かに息をつく。
「脱ぎ方がダメだった?」
早々に気を取り直した留学生が、茶化すようにニヤニヤと笑みを滲ませながらサタンの表情を下からの角度でうかがう。調子のいい視線を呆れ顔でいなしながら、サタンは口を開いた。
「そうだな。義務感で脱がれても、全くそそらない。」
「“全く”
……
。」
プライドに軽微な傷を負いながら、留学生が反芻する。サタンはその麗顔にかかる、依然湿った前髪を鬱陶しそうにはらった。その流れで、脱ぎ捨てられていた留学生の服を拾い、彼女へ手渡す。
「それを着て、脱衣所のカゴから俺の着替えとタオルを持ってきてくれ。」
◇
戻った留学生からタオルと着替えを受け取ったサタンは、手早く全身を拭き、さっさと夜着を纏った。背を向けて待っていた留学生に「もういいよ」と声を掛ける。留学生はゆっくりと向き直りながら、神妙な顔で漏らした。
「
……
今回は本当にごめん。」
「
……
いや、いい。
……
またいつでも頼ってくれ。」
ただし、召喚は緊急用だからな? 釘を刺すサタンの言葉に、留学生は素直に頷く。それを認め、満足気に口角を上げるサタンが腰を上げると、留学生が声を掛けた。
「あ、マフラー。置いてってよ。」
「
……
正気か? 洗って返す。」
「別にいいのに。」
頓着の無さすぎる留学生を、信じられないものを見る目で見下ろしながらサタンは続ける。
「
……
明日の朝に必要というなら俺のを貸す。とりあえず、これは洗うからな。」
「はいはい。」
じゃあ明日はひとつのマフラーを一緒に巻いて登校しようか? この期に及んで軽口を叩く留学生を半ば無視するように、サタンは扉へと歩を進めた。見送りに、留学生も後を追う。廊下に出たサタンは向き直り、留学生が間近まで来たのを確かめると、美しくも妖しい笑みを浮かべて言った。
「俺の肌なら、別にいつでも見せてやっていい。」
「ただしその時こそ、相応の誠意を見せろよ?」
「じゃあ、おやすみ。留学生。」
そのまま立ち去るサタンに、言葉と一緒に残された留学生は、期日不明の課題に頭を抱えた。
◇
その夜、サタンは自室で本を読んでいた。窓から振り注ぐ、清かな月の輝きをベッドライト代わりに文字を追う。
「
……
。」
不意に覚えた違和感に、サタンは反射的に手にしていた本を脇に置き、呼吸を整えた。
――
これは
……
。
僅かな逡巡ののち、抗い難い魔力の激流がサタンを襲う。素手で本能を引き摺り出すような感覚に、酩酊にも似た、得も言われぬ興奮が彼の全身に沸いた。遠くに自身を喚び起こす声
――
「
……
っ?!」
次の瞬間、サタンは水のなかにいた。いや、水と言うには熱く、湯と言うには温い。反射的に四肢を動かせば、足が床らしきものにぶつかった。そこを支えに体勢を立て直し、すぐさま身を起こす。動転しつつも周囲を見渡すと、身体の疲労が一気に増した気がした。
「
……
バスルーム?」
見慣れた内装を認める。水気を吸ってはり付く服が鬱陶しい。サタンは全身ずぶ濡れの苛立ちに頭を振ると、雫の飛んだ下方から「わっ」という声が聞こえた。
「
……
留学生。」
「い、いらっしゃい。」
湯船を覗き込むようにバスタブの縁から顔だけ出した留学生を見、サタンはすぐさま状況を把握する。どうやらこの女、また性懲りもなく契約を使って悪魔を喚び出したようだった。
「
……
今度は何だ? 鼻歌で俺の名でも唱えたのか?」
開き直ったサタンが、着衣のまま湯船に座す。対面するような位置で、微妙な笑みを浮かべた留学生を引き睨んだ。
「いや
……
この前の別展開的な
……
?」
「俺が害を被るのは固定なのか?」
「ちゃんと略式召喚にしたよ?」
鼻歌ではないけど。真偽不明の、言い訳ともいえない言葉を漏らしながら留学生はもじもじと視線を逸らす。しばらくの沈黙ののち、意を決したように顔を上げると、彼女はえいっと勢いをつけて起立した。大判のタオルを身に巻いた姿でサタンを見下ろす。
次の瞬間、留学生は前を開くと「お邪魔します」と手短な挨拶ののち、サタンの浸かる湯船へその身を滑らせた。
「
……
、」
留学生が巻いていたタオルを解いたその一瞬、立ち上がる湯気のなかで彼女の裸身の全てを確かに見たサタンは思わず息を詰めた。湯船に身を沈め、浮かべた顔に頬を淡く染める留学生が小さく呟く。
「
……
おあいこ。」
「
……
。」
動揺を必死に隠しながらも、サタンは蒸気に茹だる脳で逡巡した。そして、異性と同じ湯船に浴し、膝を抱える目前の留学生に、何とも言えない強い怒りを覚える。
――
“おあいこ”? おあいこと言ったか? 今。
「
……
そんな戯れの応酬でその身を晒すのか? 君という女は。」
苛立ちに煮え立った言葉が、そのまま唇を突いて出た。それを受けた留学生が、戸惑いに視線を返す。
「え
……
?」
「見たから自分も見せるだとか、そういう低俗な発想か?」
「そんなことを俺は微塵も望んでないし、むしろ不愉快だ。」
「緊急用と言っていた召喚も、こんな早々に濫用されるとは正直思わなかったよ。」
感情のままに次々投げられるサタンからの刺すような言葉に、留学生の表情が次第に強張る。震える声でなんとか、といった風情で答えた。
「だ
……
だって、誠意だって
……
。」
「見当違いも甚だしいな。あんなもの、単に“あれ以上を望むなら相応の手順を踏む覚悟を見せろ”というだけの話だ。」
合点がいった様子の留学生が押し黙る。ついに顔を伏せ、そのまま固まってしまった小さい肩は、サタンをさらに勢い付けた。
「今後も意図せず他者の裸を目撃するようなことがあれば、それが男だろうと君はまたこうして相手を風呂に招くのか?」
そういうことだよな? 普段の馴れ合いが一切許されない雰囲気に、それまで静かにしていた留学生が途端、弾かれたように顔を上げる。
「そ、そんなことしない!」
反論の勢いで僅かに身を乗り出したために、留学生の胸が一瞬、揺れる波間から再び晒された。サタンはそれを視界の端で捕らえながらも、しかし瞳は彼女の瞳に固定したまま答える。
「どうだかな? 現状が全てだろ。」
「
……
。」
温度のない視線で見据えるサタンに留学生は怯んだ。どこか試すように細められた緑は、素肌以上にその心を暴く。数拍ののち、留学生はサタンへと決意を宿した強い視線を返した。
「
……
怒らせたかったわけじゃないの。それはごめん。」
「サタンに
……
か、構ってほしかった。見当違いだったけど、こんなことしたのもサタンだから。」
「誰でも
……
なんて、そんなことない。そこだけは信じてほしい。」
懸命に紡がれていた言葉が躊躇いに途切れると、それまで黙って聞いていたサタンが口を開く。
「
……
俺は全部のカードを切った。」
再び降りた無言の圧に、留学生は静かに呼吸を整えた。
「
……
わたしはサタンが好き。恋人として、もっとサタンのことを見たいし、触れたいの。」
告白を受け、サタンが長い息をつく。僅かに視線を逸らすと、揺れる湯面に声を落とすように呟いた。
「
……
言っておくが俺は、君が他の男に見られたり、まして触れられたりするのは到底我慢できない。」
「うん、気をつける。」
間髪入れない留学生の返事に、薄い唇が緩く微笑む。サタンは視線を戻し、再び留学生を見つめながら告げた。
「そうしてくれ。
……
君の身も心も視線も、その全部が欲しい。俺も好きだよ、留学生。」
◇
すっかりぬるくなった湯船のなかで、サタンと留学生は固く抱き合っていた。視線を絡め、何度目かのキスを交わす。濡れた服越しに、留学生がサタンの鎖骨を撫でながら、くすくすと笑った。
「ふふ、すごい状況だよね?」
「自分でいうか?」
「ね、サタンも脱いでよ。」
義務感のない“そそる”脱ぎ方、ね? 呆れるサタンを無視して、留学生が注文をつけた。普段のノリが戻った様子のお調子者に、サタンは波紋に揺れる曲線を眺めながら返す。
「いや、俺はもう出る。」
「え〜〜?」
「君は湯を張り直して、ちゃんと温まってから出ろよ。」
次の枠の兄弟には俺から言っておく。仕切りながら、サタンはあっさり湯船から脱した。ついでに栓を抜き、冷めきった湯を捨てる。どんどんと水位が下がるバスタブのなかで、徐々に晒される裸身を留学生は腕で居心地悪そうに覆った。
次いでサタンは蛇口から湯を捻り、その温度を手で確かめながら栓をする。世話を焼かれるがままに、黙って気持ちばかり身を隠す彼女を、サタンは甘い視線で愛でた。
「それこそ“そそる”な。」
「
……
。」
顔を赤らめ、唇を尖らせる恋人を横目で見ながら、そのままひと通りの支度を手際良く終わらせる。去り際に、サタンは留学生へ声を掛けた。
「マフラー、後で俺の部屋まで取りに来いよ。」
注がれる湯がバスタブを叩く音に紛れるような小さな声で、留学生は「うん」と返事をした。
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内