望月 鏡翠
2026-02-04 01:51:09
1117文字
Public 日課
 

#1984 ヤマ同士

#毎日最低800文字のSSを書く/祝福の塔

 大柄な男は、サングラスで目元を隠していた。普段ならば絶対に話しかけない。駅前にいたとして、目があわないようにして通り過ぎるだろう。
 話しかける用事もそもそもないからだ。だけどここにいる人間はみんな、これから一ヶ月一緒に過ごすことが決まっている。
 どうせもう死んでいるから失うものも怖いものもないし。
 そう思うと、気楽だ。そういう方が、向いている。死んでしまったとか、生き返るとか、そういうことを考えているよりは、今ここにいる人と話して、普段なら会話できない人と仲良く慣れたラッキーって、そっちの方がよほどいい。
「あ、どうも……。日本の人、だよな? 鹿山 光輝です」
 言葉が無条件に通じるから、相手がどこの国の人かなんて、本当は気にしなくていい。
「カヤマコウキ。……鹿に山?」
「え!?」
 かなり驚いた。カヤマと言ったら、加山の方が馴染みがあると思っていたから。鹿に山の方を先に当ててくれることあるんだ。
 嬉しくて、目の前の人物がいい人判定になった。
「そう……だけどよくわかったね。すご〜。親戚にいた? 何さんって呼んだらいい?」
「ふ、いや。別に」
 その笑いの理由がわからないので、次の言葉を待つ。
 ここにはいろんな事情を持っている人がいる。人と話したがらない人だっているだろう。別に無理に聞き出したいわけじゃないから、気に入らないなら黙っていてくれたっていい。
「俺は鷺山」
 あ、動物の名前入ってる人だ。同じってわけじゃないけど、ジャンルが似てるとなんとなく嬉しい。
「サギヤマダイキ。呼ぶときゃ、ヤマダでいい」
「ヤマダ……?」
 鷺山なのに、どうしてヤマダなんだ。少し考えたあとに、頭の中でパズルのピースがバチとハマった。
「ああ! サギ〝ヤマダ〟イキだから。へー、なんかコードネームみたいでかっこいいね。よろしくねヤマダ」
 そういう渾名、格好いいな。自分で考えたんだろうか。それとも友達につけられたんだろうか。気が利いてる。
 握手しようと手を差し出す。
 ヤマダの視界の外だったのか、スルーされたのでそのまま下げた。
「んなたいそうなもんじゃねえって。名前が珍しいと色々面倒だろ。だからだよ」
「そ? 覚えてもらいやすくて良くね? 猪と蝶が揃うと猪鹿蝶〜とか。猪は会ったことあんだけど蝶はまだないんだよね」
「ま、ヤマ同士適当によろしく」
 ヤマ同士という言い方が面白くて、笑いが漏れた。
「うん、テキトーにね。よろしく」
「探しといてやるよ、蝶」
 ひらと手を振ってヤマダは立ち去る。
 怖そうな人だと思ってたけど、案外優しい人だったな、ヤマダさん。
 人は見かけによらないというやつか。