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みずあめ
2026-02-04 01:49:55
2301文字
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brmy
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明揺
HBD
「ゆーら」
間延びした声とトントンと扉をノックする音。クッションに体を埋めてスマホゲームをしていた俺は、振り返ることなく「んー」と返事とも言えない声を返した。
「お邪魔しまぁす。あ、まだ起きとるね」
「うん。なに? 明星、今日は帰ってこないと思ってた」
いつもの寮飲み、だけど明日は明星の誕生日だからいつもより盛大にやろうって言ってた。てっきり日付が変わるまでみんなでいておめでとうを言われてくるかと思ったのに、時計はまだてっぺんを通り過ぎてない。
「ちょっとだけ抜けてきた。これ、ゆらにおみやげ」
「?
……
チョコだ。いいの?」
「うん、その代わり、お願いがあるんやけど」
「
……
」
受け取ったチョコを返したくはないけれど、明星のお願いなんて嫌な予感しかしない。手の中にあるチョコと明星の顔を見比べると、明星がふふって楽しそうに笑った。
「ゆらの嫌なことやないよ。無理やりやらせたいとか、そういうんやなくて」
「
……
聞くだけ聞いてあげる」
「あはは、ありがとう。あんな、あとちょっと起きてて、十二時になったらおめでとうって言ってくれんかなぁ? 他の誰よりも先に、一番最初に、ゆらにお祝いしてほしい。だめ?」
甘えた声音で、見惚れるような柔らかな笑みで、こてんと首を傾げる明星についため息を吐く。空気を誤魔化すようにわはっとわざとらしく笑うから、俺はクッションから起き上がってその額にデコピンを喰らわせた。
「ぅえ、いたーい
……
なんで
……
?」
「いいの、おれで」
「えっ。
……
ええの?」
「こっちが聞いてるんだけど。みんなで楽しくお祝いしてたんじゃないの?」
「
……
ゆらがいいから、一人でこっそり抜けてきたんよ」
「主役がいなくなったらみんな気付くでしょ」
「いやぁ、酔っ払いばっかりやからね。
……
ね、ゆら、本当にええの?」
「おめでとうって言うだけでしょ。いいよ。チョコくれたから、言ってあげる」
「
……
ふふ、やったあ」
ほな、もうちょっとお邪魔させてな? さっきの作った笑みじゃなくて、ほんものの笑顔を浮かべてそう言ったから、俺はふんっと思いながらもう一度クッションに体を埋めた。
ゲームクリアの画面を写すスマホをパーカーのポケットにしまい、チョコレートの包装を開けて口の中に放り込む。固いコーティングを噛むと中からどろっとジャムのような甘い液体が溢れ出た。
「それ、有名なお菓子屋さんのチョコなんやて。おいしい?」
「おいしい。もっと食べたい」
「良かった。まだ残ってたら後で持って帰ってくるわ。ゆら、眠くないん?」
「今日はお昼寝したからまだ平気」
「ふふ、そうなん? ほな飲み会の予定入れんかったらよかったなぁ」
「やだよ。俺は眠くなったらすぐ寝るからね」
「そこをなんとか〜。あ、そういえば今日洗濯物しまっといてくれたんありがとうな」
「それ帰ってきた時も言ってたよ。酔ってる?」
「酔ってるけどそうやなくて。嬉しかったら何回でもありがとうって言いたいやん?」
「一回でいい。お礼より、お菓子くれればいいよ」
「あはは、りょーかい。そしたらゆらにありがとうって言いたい時はお菓子いっぱい用意しとくわ」
俺が使ってるクッションに明星も寄りかかってきて、重さで形が変わって頭がごつんとぶつかった。笑い声混じりの謝罪に睨みを返そうとしたら、思ったよりも近くで視線が重なってしまう。
俺が体を起こすよりも先に明星の目がすっと細くなって、きらきらと電気を反射していた瞳はあっという間に影に覆われた。
「なあ、ゆら、誕生日プレゼントちょーだい」
静止する隙もなく唇が重なった。プレゼントをねだるどころか奪っていく自分勝手さに呆れる。ちゅっと音を立てて唇が離れてから、俺は明星の頬をつねった。
「いひゃ」
「誕生日おめでとう」
「ふ、ふ、ありがと」
「
……
」
「? ゆら?」
俺に頬をつねられたままで明星は俺の顔を覗き込んできた。伸びた頬のせいで変な顔になっていて、すこし笑う。それだけで鏡写しみたいに明星も笑うからほんのちょっとお腹に力を入れて体を起こし、首を伸ばして触れるだけのキスをした。
「誕生日プレゼント」
「
……
いま、心臓がぎゅんってなった」
「そう。そろそろ飲み会戻ったら?」
「えー、もうちょっといちゃいちゃしたい」
「俺はもう寝たい」
「そこをなんとか」
「誕生日おめでとうってみんなに言われてきなよ」
つねっていた指を離して、明星の頬をよしよしと撫でてやる。わあ、と声を上げて、明星は俺に覆い被さりクッションごと抱きしめてきた。
「ゆら、もういっこだけ、お願い」
「もうチョコないでしょ」
「ない。明星くんのことあげる」
「いらないよ。明星は明星のものだから」
「
……
おねがい、好きって言って」
「
……
チョコは?」
「後で全部持って帰ってくる」
「ふ」
本気の顔でそんなこと言うなんて本当に珍しい。数秒黙って見つめてみても笑って誤魔化そうとしないから、仕方ないな。
「明日の朝ごはん、パンケーキが食べたいからちゃんと夜のうちに帰ってきて」
「ん、やくそく」
「チョコも本当に欲しいから残ってるやつは持ってきてほしい」
「りょうかい」
「あとは
……
特に思いつかないからいいや」
「
……
」
「
……
誕生日、おめでと。ちゃんと好きだよ、明星のこと」
「わー
……
ありがとう
……
」
小さな声でそう言ってぎゅうっと抱きしめてくる明星のことを横目で見れば耳が赤く染まっていた。酔ってるから、かな。今さら俺が好きって言うだけで照れるなんてことある? 明星って、もしかして結構俺のこと好きなのかな?
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