海都の情景 またはとある冒険者の一日

冒険者の海都での1日。喋りません。

まだ薄暗い、霧烟る夜明けの少しだけ前の頃。フェリードックはにわかに騒めきだす。オーシャンフィッシングの船が港に帰るのだ。船から降りた漁師たちは、釣果に悔しがる者、魚を捌く者と様々であるが、薄桃の髪をゆるく三つ編みしたヴィエラ族の彼は、毎度と声を掛けてくるよろず屋に黙々と買取りを頼んでいるようだった。
不意に風が吹く。リムサ・ロミンサーーリムレーンのベールを西へ揺らしたその風は、烟る霧すら払って太陽を連れてきた。見遣ったロータノの海は、深い青ながらも朝日を浴びてきらきらと輝いていた。遠く見えるアスタリシア号も、相まって美しい朝の始まりだった。


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魚を全て小銭へと換えた彼は、のんびりとした歩調で歩き出す。メルヴァン税関公社には、職員、ギルド員が既に集まりだしているようだった。
動き出した海都は賑やかで、マーケットに飛び交う客引きの声や、駆けてゆく冒険者たちの足音に耳がくすぐったい。
国際街商通りの東側まで足を運び、素材屋で鶏卵を数個と、うっかりと切らしてしまったシナモンを量り売りしてもらい、彼は小さく口元を綻ばせる。居住区へ戻ったらタルトを焼こう。そう考えただけで、普段やや垂れがちな耳がぴこりと跳ねた。

商店を冷やかす趣味も無く、マーケットボードに世話になる機会も少ない彼は、見知った顔にも知らぬ顔にも、柔い笑顔で挨拶を交わしながら歩を進めていく。今日は何をしようか。

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彼も冒険者であるが故に、と言うべきだろうか。昼食を食べるつもりで訪れた溺れた海豚亭で、何の流れか喧嘩の仲裁に入ろうとすれば、イ・トルワンやバデロンにより見世物よろしく当事者にされていた。バデロンは両成敗してくれて助かったと豪快に笑ったが、のしてしまった海賊崩れたちは大丈夫だったろうか。報復の心配が無いことだけが救いだろう。礼だとのことで、有り難くも申し訳なくも昼はタダ飯となった。

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気付けば夕方で、展望の良いそこで燃えるような太陽を見詰める。ラノシアの完熟したオレンジを思わせる、そんな夕陽だと感じた。

声を掛けてくれる網倉のシシプに手を挙げて応え、やいのやいの賑やかなワワラゴと漁師たちを横目に紫色に染まってゆく世界を歩いて行く。居住区への船頭が手を振ってくれるが、今行くべきは違う場所であるから、同じく手を振り返すにとどめた。

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目指すのはとある倉庫。倉庫番に会釈をすれば、顎で入れと示された。
珍しいことだが、あの優男風の双剣士わざわざの呼び出しである。何かまた面倒なことーー自分を呼ぶ程度には厄介なことがあったのだろう。
賑やかな、だからこそ物騒な夜更けの海都の裏側を駆けることになるのは、また別の話である。